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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
三周目の偽物賢者は教会サイドにつきました。
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ソーマと魔王城


アガレスに影の空間から出されたと思ったら、そこは大きな広間だった。


「ここは、魔大陸にある城だ。しばらくここで、」


アガレスは不自然に言葉を切った。そして、魔法陣を展開する。


「緊急事態だ。兪貴の元へ向かう」


それだけ言うなりアガレスの姿はかき消えた。転移の魔法陣だったのだろうか。


「蒼馬さん、アガレスといたようですが、一体どうしたのです?」


柔らかな声がしたと思ったら、そこには雅さんがいた。王都で聖人ミーヤとしていたはずだが、彼もまた魔王城に連れてこられていたのか。


「緊急事態だから、兪貴のところへ行くって言ってたけど」


「そうですか」


答えると、雅さんがアイコンタクトで何かを伝えたのか、近くにいた魔王軍の青年が小走りで広間を出て行く。金と茶色がまだらになった髪のその青年は、どこか見覚えがある気がした。


少しして青年が人を連れて戻ってきた。


「蒼馬くん!」


何故か連れてきた人の中にカレンがいて、こちらに駆け寄ってくる。最後に見たカレンは、ベッドの上でぼんやりしていたが、今はもとの快活さを取り戻してるように見えた。


「カレン?具合はもういいのか!?なんでここに!?」


「それはこっちのセリフだよ!」


「2人とも落ち着いて。あのままミラコスタの王都にいては、危険でしたから、アガレスに頼んで魔王城に匿ってもらっていたのです。」


興奮していた俺たちは、雅さんに嗜められた。

そして、そのすぐ後に、俄に周りが騒がしくなる。今いる広間の一角に魔法陣が現れたのだ。


「離れろ、転移陣だ」


魔王軍の青年が、呼びかけると、みな静かに場所をあけた。

待つこと数秒、魔王アガレスがその上に姿を見せた。その彼は血だらけの塊を抱いていた。

いや、塊ではなく、人だ。どくりと心臓が嫌な音をたてる。


「アガレス、兪貴は?」


雅さんが短く尋ねた。血だらけの顔は、雅さんと瓜二つだった。彼女が、ゆきなんだ。


「重症だが、死にはしない。ーーしばらく私の部屋で休ませる」


前半で雅さんに答え、後半は周りに言い含めるようだった。魔族の人々は、魔王の言葉にそれぞれ動き出す。

俺とカレンは、ゆきが心配で魔王のあとをついていこうとしたが、雅さんに呼び止められた。


「アガレスが大丈夫というのなら、その通りなのでしょう。あなた方2人には、協力していただきたいことがあります」


俺とカレンは、顔を見合わせた。



%%%%%



 雅さんが連れてきたのは、平間から離れた豪奢な部屋だった。おそらく客間かと思われる。


 そこには、ミラコスタの国王であるジェラールやその側近、家臣たちの一団と、反対側に異国風の服を纏った少女を守るように取り囲む一団がいる。そして、その2組から少し離れたところで、エルネストやアルカといったフォルテ教の面々が縮こまるようにしていた。


おそらくさっきまでミラコスタ王国にいた者たちだ。


「ミーヤよ、これはどういうことだ?」


最初に口を開いたのは、異国風の一団の中心にいる少女だった。


「ニルダ姫、以前お話ししたことは覚えていますか?今、その好機がやってきましたよ」


少女ニルダは、ミーヤの答えに焦りを隠せず、ジェラールの顔色を伺う。

しかし、ジェラールは、何故そのような顔で見られるのかわからないと言った風情だ。


「クレートの第一皇女殿下、その者は一体何者でしょう?我らは、同じくこの者に拉致された同志かと思っておりましたが」


ジェラールの言葉に両陣営が殺気立つ。なんかすごい場違いなところに連れてこられた気がする。俺とカレンにこの人たちを仲裁する力はないぞ。


「皆さま、そう焦らずに。私は先ほどまでフォルテ教の聖人を名乗っていましたミーヤと申します」


雅さんは、優雅に一礼した。あまりに上品で、この場にそぐわない仕草だったためか、両陣営の緊張が緩む。


「…随分と含みのある言い方であるな」


「ええ、そうですね。私には他にも肩書きがありまして、ミラコスタ王国、建国の賢者ミーヤ、異世界からきた天城雅といったように」


雅さんは、笑顔のまま言い切った。


「ありえない!建国して何百年たっていると思うのか!」


反射的にジェラールが声を荒げた。俺も同じことを叫ぶところだった。


「こちらと異世界では時間の流れが異なります。繋がりが深ければ、同じように時は進み、離れればそれぞれの速さは違ってくるのです」


故に、と雅さんが続ける。


「こうして、自分が興したミラコスタ王国の200年後もこの目で確かめられる」


「そんな、そんなことが…」


誰もが驚愕し、二の句をつげなくなっているところで、追い討ちをかける者が現れた。


「お久しぶりね、ミーヤ。証人がやってきたわよ」


「ミーア、久しぶりですね。元気でしたか?」


「元気も何も精霊王をあの女に取られて、大変だったわ、知ってるでしょ?」


実に気軽い様子で雅さんと言葉を交わすのは、五大精霊ミーアだった。


「ミーア!本当にこの者、いや、この方が賢者だというのか!?」


声を荒げるジェラールに対して、ミーアは素知らぬふりで軽く応える。


「ええそうよ。異世界からやってきた賢者 天城雅よ。呼びにくいからアウローラがミーヤって呼んだの。私の名前と響きが似ていて、紛らわしいっていったんだけど、それで定着しちゃったわ」


アウローラとは、初代女王のはず。ジェラールは可哀想なくらい衝撃の事実に打ちのめされていた。

それはそうだろう。建国の賢者が、王都が壊滅するのを鑑賞して、自分をここまで拉致してきたのだから!


「ご安心ください。()()()()()悪いようにはしませんから」


雅さんがニコニコしながら言った。が、皆は幽霊でも見るように彼を見る。誰かがごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。

この場の主導権は、完全に雅さんが握っていた。


「悪いように?キールに王都を破壊されて、これ以上悪くなるとお思いか!?」


衝撃から立ち直ったジェラールが、雅さんに詰め寄る。しかし、ミーアに服の裾を掴まれ、2、3歩いかないうちに止められた。


「ええ、このままではミラコスタ王国の行く末は、苦難しかありません。何しろティタニアが死亡しましたから。あなたならこの意味がわかるのでは?」


その瞬間、ミラコスタ王国の一団が顔を青ざめさせた。


「ティタニアとは誰なのだ?」


その空気の変わりようを訝しみ、ニルダが口を挟んだ。


「精霊王を魅了し、ミラコスタ王国に縛り付けていた妖精です。彼女は、旧ミラコスタ王国の最後の王女でもありましたね」


「精霊王を魅了?」


「正確には、精霊王の器を魅了したにすぎないのですが・・・精霊の恩恵をミラコスタ王国に集中させていたのです。精霊の恩恵は、大地の恵みと同意義。ーー要は他国の豊かさも全てミラコスタ王国が奪っていたことを知りながら、放置していたというわけです」


「な・・・」


「ティタニアが死に、精霊王の魅了はすでに解けました。精霊王はすぐにでも配下の精霊をミラコスタ王国から引き上げるでしょう。そうなれば、今まで肥沃な大地を武器に大国として成り立っていたミラコスタ王国が崩壊するのは、時間の問題でしょうね」


まるで大変そうでもなく、雅さんは話す。自分が興した国のことなどどうでもいいと思っているのは明らかだった。


「もう引き上げたわよ」


そこにミーアも軽い調子で補足する。彼女は、長年ミラコスタ王国の国王と契約していたはずだが、この国に特に愛着はなかったということか。


「おや、迅速な対応ですね。これでミラコスタ王国史上、類を見ない大凶作が確定したわけですね」


「ミーア!なんとかならないのか!?突然そんなことになれば、この国の民が飢餓に苦しむのは明白ではないか!」


焦るジェラールやミーアをすがるように見つめるミラコスタ王国の家臣たちに対して、ニルダは冷ややかだった。


「ーー当然の結果ではないか。今まで我が国の恩恵を奪っておいて、まだ奪い足りないと?」


クレート国の一団が、剣呑な視線をミラコスタ王国の面々に浴びせる。国家間で諍い合うこの場に、俺とカレンはなぜ呼ばれたのか。カレンと二人、遠い目をしてこの場を見守る。

雅さんは、2国を争わせて何をしたいのだろう。


「ニルダ姫、ミラコスタ王国がこの先窮地に陥るのは明白ですから、この際、恩を売ってはどうでしょう?」


突然の提案に再び一同の視線が雅さんに集中する。ミラコスタ王国側は、これ以上内情を暴露されてはたまらないと、内心びくびくしているのが、はたからでもわかった。


「恩とは?」


「兄君たちにミラコスタ王国の窮状を伝え、攻め入るように唆してはどうでしょう?」


「それのどこが恩だと・・・!」


怒り狂ったのは、ジェラールだった。しかし、雅さんは歯牙にも掛けない。


「攻め入った輩は、私が手を回して、始末します。邪魔な兄君たちがいなくなれば、クレートの王座は、あなたのもの。そこからは、ミラコスタ王国の恵みの奪取には目をつぶり、同盟を結べば良いかと」


「・・・・・・なるほど、悪くはない」


ニルダは考え込んだ後にそう答えた。クレートの側近たちが、一瞬、喜色を浮かべた気がする。


「では、エルネストさん、あなたの方からもクレートの兄王子たちを誘導してください」


「・・・かしこまりました」


隅の方にいたフォルテ教のエルネストが、嫌そうに一礼する。


「始末するとはいうが、そう簡単に行くのか?我が国の王都は今、壊滅状態だというのに」


当然の懸念をジェラールが口にした。


「問題ありません。あの子の仕上がりを確認するいい機会です」


「「ーーあの子?」」


「ここにいる異世界からきた緒方 蒼馬や藤崎 カレンと同時に召喚された天城 兪貴のことです」


突然、名前を呼ばれてどきりとするが、それ以上にゆきの名前が上がったことに驚く。


「シノノメではなく、アマギ・・・?」


ジェラールが疑問に思ったのか、確認するように問う。


「ええ、私の妹です」


雅さんは、笑みを深めて、答えた。


「ここにいる皆様は、何をしようと、何が起ころうと、全ては、天城 兪貴に責任を追求してください。キールを人知れず殺して成り代わり、掻っ切った教皇の首を晒したのも、ティタニアを王都ごと虐殺したのも、精霊王がこの地を見捨てたのも、クレートからの進軍もーーー全ては、天城 兪貴のせいだと吹聴してください」


自分の妹と言った人物に悪事の全てをなすりつけよとの発言に一同は困惑のあまり絶句した。


「兪貴もそれを望んでいますからーー」


雅さんの柔らかな笑みが初めて、怖いと思った。




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