カレンと妖精
魔王城に来てからというもの、わたしは図書室に通い詰めていました。
魔王が書いたという、アシュマさんに関しての情報を集めるためです。その結果、アシュマさん、極悪人としか言えないような記述がわんさかでるわでるわ…
ミラコスタ王国には、キールがいるため手出しはしていないそうですが、ミラコスタ王国以外の大国も小国も全部潰しています。ある時は、王位継承争いに破れた王子をそそのかして反乱を起こさせたり、強欲な傭兵に武器を流しまくったり、医学者を騙して疫病を広めたりと……やりたい放題なのです!
歴史上の大犯罪者の傍らにはアシュマさんがいるという仕様…。よくこの世界はつぶれなかったなぁ、と感心するほどです。
しかも、タチの悪いことに、歴史上の大犯罪者は、みんな非業の死を遂げています。
例えば、そそのかされた王子は、王座を手に入れて間も無く、幼いころから一緒にいた側近と婚約者に裏切られたようです。その後、気が狂ったことにされて、ひとり塔に幽閉され、自死しました。
強欲な傭兵は、戦争に勝ち、たくさんの財宝を手に入れました。でも、手下にそれを妬まれ、手下全員によって嬲りものにされました。最後は手足や目、耳を削ぎ落とされた状態で荒野に放り出され、餓死したと、記述されています。
医学者は、間違った治療法を広めて、疫病を拡大させた後、自分もその疫病にかかり、今度こそ正しい治療法を見つけるため、生きたまま他の医学者によって解剖されたそうです。
本当に悪趣味です。最後は必ず、身近な人物に殺させるあたりが特に胸糞悪いです。
一通りアシュマさんについての本を読みあさったら、とても気分が悪くなってきました。
今日はもうこれについては、触れないでおきましょう。
口直し、ではないですが、気分を変えようと他の本を探します。
すると、なぜかミラコスタの歴史の本が、妙に豪華な本棚に入れられていました。シェリルに聞くと、宰相さんの仕業だそうです。
中でも充実しているのが、初代国王アウローラと2代目国王アガレス…って、魔王の名前ってアガレスじゃなかったでしたっけ?
え、もしかして同一人物?だとしたら…
わたしは急いで2代目国王の本を開き、在位期間を調べます。初代国王が賢者の力を借りて、国を興したのが、今から200年前。その20年後、180年前から50年間に渡って2代目国王がミラコスタ王国を治めていたようです。
対して、アシュマさんについての資料は、旧ミラコスタ王国時代からあります。そばで見て来たと言わんばかりに詳細な記録なのです。
「魔王と2代目が同一人物なら、この記録は誰が書いたの?」
一番古い資料は、およそ300年前、旧ミラコスタ王国が滅亡する少し前のもののようです。
魔族の寿命は確か、200歳くらいだから魔族じゃないみたいですが…。
もしかして、これってセフィルの記録?
セフィルの顔が脳裏をかすめ、胸をちりちりと焼かれているような、そんな感覚が襲ってきます。
それをぐっと飲み込んで、アシュマに関する資料を広げました。
どうもこの資料は、一貫して一人の人物が書いているような証跡が見られます。それに、この資料の根底には、アシュマを倒す、そんな意思が感じられました。
セフィルが気にしていたのは、ティタニアとクラウンの争いだけ。アシュマさんのことなんて眼中になかったはずです。
じゃあ、わたしの知らない妖精が他にもいるのでしょうか?
「おや、難しい顔をしているようだな」
考え込んでいるわたしの前に厳しい顔つきの宰相さんがやってきました。
「えーっと、このアシュマさんについての資料なんですけど、これって本当に魔王さんが書いたものなのですか?」
宰相さんがほんの一瞬だけ、動きを止めました。まさかこれは、衝撃事実が隠されている感じではないでしょうか…!
「…ふむ、どうしてそんなことを聞く?」
「ミラコスタ王国の歴史本を見ていたら、2代目国王の名前が魔王さんと同じだったので…もし魔王さんが2代目国王なら、この旧ミラコスタ王国の資料は書けないと思うのです」
「なかなか鋭いの。おまえの言う通り、これは魔王陛下が書いたものではない。誰も気づいていないがな」
「じゃあ、誰が書いたんですか!?」
この書いた人は、アシュマさんに一番詳しい人ではないですか!この人に聞けば、アシュマさんの弱点を知ることだってできるはずです!!
思わず前のめりになったわたしに宰相さんは苦笑します。
「おまえは、この世界にいる種族をどれだけ知っている?」
「種族、ですか?」
思いもしない質問に少々面食らいます。
「儂ら魔族と呼ばれる長命種と人間である短命種。他には?」
「精霊と妖精がいます!」
自然の力そのものである精霊と災厄を撒き散らす自己中な妖精がこの異世界にいることは、わたしは十分思い知らされました。
「あとは、魔族よりも五感が優れ、獣の姿をもつ獣人がいる。他にも儂でもお目にかかったことはないが、人を堕落させる悪魔や天界に住まう天使がいると言われておる」
さすがファンタジー世界。まだまだ未知の存在がいっぱいいるようです。
「獣人は総じて魔族よりも寿命が長い。獣人の中でも特に長い寿命をもつ者が、この記録を書いている」
獣の姿をもつってことは、ケモミミ系でしょうか!?是非ともお会いしたいものです!
ゲームやアニメに出てくるようなケモミミをつけたイケメンたちを想像し、じゅるりとよだれが垂れそうになります。
そっと気づかれないように口元を確かめました。よし、セーフです。
さてさて、獣人と出会うには、どうしたらいいのでしょうか。目をぎらつかせて聞きたいところでしたが、カツカツと外から随分慌ただしい足音が聞こえてきます。
「---閣下!」
「シェイドか、何事だ」
わたしのお話し相手になってくれるシェリルの兄、シェイドが勢いよく扉を開いてやってきました。
「先ほどミーヤの連絡を受け、魔王陛下がアマギの元に向かいました」
「ミーヤはなんと?」
「アシュマが姿を消したそうです。それに、入れ替わりに気づかれていた可能性があると」
え、それって、ゆきちゃんがピンチってこと?入れ替わりって何?
わからないことばかりでしたが、とても聞けるような雰囲気ではありません。
宰相さんは、すぐにシェイドと部屋を出て行きます。
「フジサキ カレン。儂らの目の届くところにいなさい」
そう言われてわたしは付いて行きます。何が起こっているのか、気になって仕方がありません。
二人が向かったのは、玉座の間然とした謁見室でした。
すでに魔王軍の側近や将軍が数人集まっています。そして、その中にゆきちゃんがいました。
「ゆきちゃん!大丈夫なの?」
思わず駆け寄ると、ゆきちゃんは困った顔で顎に手をあてました。ゆきちゃんのそんな顔は見たことがありません。
…でも、その表情と仕草には見覚えがあります。
「……雅さん?」
ゆきちゃんの兄、雅さん。キールの憑依から解放されたゆきちゃんは、雅さんに瓜二つでした。
まさか、入れ替わりって、雅さんがゆきちゃんのふりをしていたってこと…?
でもゆきちゃんは、ミーヤっていう建国の賢者になりすましているって、聞いていたのに…。そもそもなんで雅さんがこの異世界にいるのでしょうか?
「ごめんね、あとで説明しますね」
雅さんは立ち尽くすわたしの肩を叩いて、宰相さんと話し始めます。
あの人は、ゆきちゃんじゃない。絶対に雅さんです。
「ミーヤ、どういうことだ。いつ気づかれたのだ」
「最初から気づかれていたのでしょう。それにアシュマは、妖精ではない可能性が高くなりました」
え、アシュマさんが妖精じゃない?
ティタニアと精霊王の間に生まれた妖精じゃあなかったってことですか?
疑問符がわたしの周りを踊りまくります。
「妖精じゃなかったら、何になるんですか…?」
「おそらく、アシュマの本性は----」
思わず飛び出た問いかけに、雅さんは答えます。
「---悪魔です」
悪魔。それは、さっき宰相さんが言っていた。人を堕落させるという存在でしょうか。
宰相さんでも実際に存在しているか知らなかった悪魔にゆきちゃんが狙われているなんて…。アシュマさんの所業は、記録で読んだばかりです。
アシュマさんによって大犯罪者に仕立てられた人々は最期に身近な人物によって、残酷な死が齎されます。
記録に書いてあった非業の最期が想起され、目の前が真っ暗になりました。




