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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。
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ソーマと精霊

異世界に来て一週間が経った。

正直、勘弁してくれって思う。元の世界に帰った時に異世界に行っていた時間が進んでいないことを望むばかりだ。出席日数とか定期テストとか諸々の事情があるというのに………恨むぞ、俺たちの召喚者。

今頃日本では、高校生が3人失踪って世間様に騒がれてるんじゃないか?

ゆきの実家がもみ消したかもしれないが………

ゆきといえばこの異世界でも失踪している。エルネストが言うには、ふらっと散歩に出ていたゆきが魔族に拐かされたそうだが、制服詰め込んだ学校鞄持って散歩?家出って言った方が説得力あるぞ。教会の奴らは元から胡散臭かったからな、俺は何か厄介事に巻き込まれてゆきが姿を消したのだと見ている。そもそも、ゆきは出不精だってのにな。

荒事に慣れているゆきは案外たくましいので、心配してない。それより問題はカレンの方だ。


「あ!やっと見つけたよ、蒼馬くん!」


ほら……来た。カレンは全力疾走してくると俺の腕を掴み引き摺っていく。腕力を魔力で強化しているため、抗うことなく俺は引っ張られるしかない。


「今から魔術の訓練なんだからサボっちゃダメだよ!もっと強くなってゆきちゃんを魔族から助けないといけないでしょ」


マジで勘弁して欲しい……。カレンはすっかり友を救うために魔王へ挑む勇者って“役”にのめり込んでしまっているのだ。マンガの読み過ぎだ、コノヤロウ。

剣術を教わっているバルクに聞けば、前勇者が教会だけでなく王都中に結界を張り巡らせる魔術を仕込んでいるので、本来なら魔族の侵入は不可能だそうだ。

そうなると、ゆきが魔族に拐われたってのは俺たちのモチベーションをあげるために用意した教会の嘘だということになる。


ともあれ、今の俺たちには教会を出たとしても元の世界に戻れない上に生きていく術もない。今は大人しくしておいて、魔術やらコネやらを手に入れてから教会を出よう。そのうちゆきとも合流できるだろうしな。


教会にある魔術師専用の演習場ではエルネストが待っていた。エルネストはナルシストのきらいがある若づくりの男だ。俺は確実に四十路間近だと見ている。


「今日は精霊魔術の訓練をしよう」


魔術には大きく分けて基礎魔術と精霊魔術の2つになる。他には複雑怪奇な法則を駆使して術式を組み上げるものがあり、召喚術はこれにあたるらしい。

今、俺たちは基礎魔術を修得したところだ。


「精霊魔術とは契約した精霊の属性を付加させた魔術のことだよ。――まずは手本を見てもらうよ」


そう言ってエルネストは俺たちに背を向け、精霊に呼び掛ける。


「地の五大精霊 ゼノ、顕現せよ」


エルネストの精霊が五大精霊なのは初耳だ。エルネストの傍らには焦げ茶の髪をツインにした少女 ゼノが現れた。ゼノが人でないのは一目瞭然で身体は宙に浮いており、ヒラヒラとした露出の多い衣装を纏っているのだ。この異世界では女性は脚を見せてはいけないがゼノはばっちり脚線美を見せている。


「ゼノ、あの岩を」


エルネストの短い命令にゼノは応じ、諸手を挙げたかと思えば――5、6メートル先の岩を跡形もなく粉砕した。ちょっとびっくり………。


「ゼノは土属性だから、岩や土を思いのままに操ることができるんだ」


こちらに向きなおったエルネストが得意げに言う。


「では、君たちの精霊を顕現させることから始めよう。顕現させるには精霊に呼び掛けて意識を同調してもらわないといけないよ」


俺は風の五大精霊 サラと、カレンは光の五大精霊 ティルカと契約している。しかし、契約した時に名前を聞いただけで、俺は契約した精霊がいるっていう感覚がないのだ。


結局、俺たちはどれだけ呼び掛けても、精霊を顕現させることはできなかった。



◇◇◇◇◇



教会、地下―――


「今日は2匹か?」


「ああ、最近は魔族の結界が固くて奥に行けやしねぇ」


二人の男が檻の前で品定めをしていた。檻の中の商品は―――魔族。

十歳くらいの男女の子どもが震えながら身を寄せあっていた。彼らは魔族だけあって顔立ちは端整だ。


「先に刻印を済ますぞ」


男の一人が熱された焼き印を持ってくる。


―――断末魔のような悲鳴が上がった。


◇◇◇◇◇


ひどい悲鳴が聞こえた。

俺は飛び起きて外に出る。窓の外は暗く、まだ夜明けには程遠い。


「カレン!いるか!?」


急いで同じ階にあるカレンの部屋へ直行する。


「……なに?蒼馬くん、まだ夜中だよー」


カレンは寝ぼけ眼をこすりながら出てきた。あの悲鳴がカレンでなくてよかった。


「何って、今の悲鳴凄かっただろ」


「悲鳴?聞こえなかったけど……」


おかしい……飛び起きるくらいの声量だったはずだ。俺が訝しげに思っていると、どこか遠くから、


「……向こうに、……行ったぞ!」


途切れ途切れに怒鳴り声が聞こえてくる。それは徐々にはっきりしていき―――ちょん、と誰かに裾をひかれた。


「……こっち……」


見下ろせば七歳くらいの小さな少女がいた。ふわふわとした若草色の髪をなびかせたその少女は宙に浮いている。ひらひらと長い帯を余らせるその衣装は着物に似ていて、絹布まで纏っていた。


「精霊………もしかして、サラ?」


俺が恐る恐る尋ねると、少女 サラはこくりと頷いた。風の五大精霊はこんなちびっこなのか……なんだか肩書き負けしている気が否めない。


「えっ?この子、蒼馬くんの精霊?うそ!凄くカワイイ!!」


騒ぐカレンをよそにサラはもう一度俺の裾をひいた。


「逃がすな!」


その時また遠くから声が届いた。しかし、カレンは気にした様子はない。声が届くのは風が声を運ぶからではないか?確認するようにサラを見れば、こくりと頷かれた。

まさか、同調したら心まで読まれるのだろうか?………頷かれた。もう、何も考えまい。


とにかく俺たちはサラに引かれるに任せて、庭に出た。


サラはどんどん庭の奥に入っていく。すると、俺の耳に小さなすすり泣きが聞こえてきた。おそらくその子が悲鳴の主なのだろう。


植え込みの陰にその子はいた。


「どうしたの?」


カレンが声をかける。ひっとその子は悲鳴を上げた。十歳くらいの幼いながらにも端整な面差しの少女だ。


「大丈夫、何にもしないよー。あ、そうだ、飴があるよー。はい!」


カレンは笑顔で少女に歩み寄っていく。っていうか、どこから飴が出てきたんだ……寝間着に入れとくなよ。

少女はおずおずとカレンと飴を見比べる。もの凄い警戒っぷりだ。


「……魔族……」


ぽつりとサラが呟いた。この子が……!?

驚いてサラを見ると、サラはこくりと頷いた。魔族っていうとゾンビ系や獣人系を想像していたんだが、見事に外れた。ほとんど人と変わらない姿をしている。


「……魔族、くる……」


そして、またサラが言った。それと同時にガサリと茂みをかき分ける音が届いた。


「カレン、もう一人魔族がくる」


カレンに注意を呼び掛けて、俺は音がする方に集中する。


「…どけ、人間ども」


現れたのは魔族の少女と同じ年頃の少年だった。金茶のまだらの髪に翡翠の瞳、端整な顔立ちの少年はえらく尊大な態度だ。

うずくまっていた少女が少年に飛び付いていく。少年は危なげなく少女を抱き止めたあと、サラに視線を移した。


「そこの精霊、これを削りとれるか?」


シャツを捲って見せた少年の脇腹には痛々しい焼き印があった。サラは伺うように俺を見た。サラの契約主は俺。俺の許可がないと好きに動けないのだろう。


「…医者とかに行って処置してもらった方が、よくないか?」


この国の医術レベルは知らないが、素人が無闇に削るよりマシだと思うのだが……。


「その暇がないから言っている!」


少年に怒鳴られた。


「……印、魔力、奪う……」


サラの単語会話からすると、あの焼き印は少年の魔力を奪うものらしい。ここから逃げるためにもその焼き印が邪魔なのだろう。

それよりも……そもそも何故魔族がここにいるのだろうか?

少年はともかく、少女の様子からするに何か目的があって教会に入り込んだんじゃないっぽいけれど………。


「おい!できるんなら早くしてくれ!」


少年が叫んだ。同時に怒鳴り声をあげる男たちが近づいてくる音がした。

俺は覚悟を決めてサラを見た。魔族を助けてもいいのか?と一瞬思ったが、これは少年が少女を助けるためのものだって思いこむ。かわいい少女を助けて何が悪い。開き直ったけど…何か?


「――サラ、やってくれ」


サラはこくりと頷き、少年に手をかざす。そして―――


―――魔術は発動しなかった。


「……シヴァ?……」


不思議そうなサラの声。ザッと誰かが背後に立った。ぎょっとして振り返れば、そこには美貌の青年がいた。


「ひゃわ!」


黒髪に金の瞳の絶世ともいえるその美貌の青年は、黒い燕尾服に似た衣装に身を包んでいる。男でもぞっとするような美しさだった。カレンが半開きの口ではなく、鼻を抑えている。頼むから鼻血は噴くなよ……残念な美少女にはなるな。


「魔族の方々、我が主がお待ちです。そちらの魔力奪いの術式も解除する手筈が整っております」


甘い美声が発される。とうとうカレンが空を仰いで鼻を摘まんだ。


「…精霊、主とは誰だ?」


少年はやはり尊大に問うた。ってこの美青年、精霊だったのか……。なんか、納得。


「少なくともあなた方を害する御方ではありません」


返ってきたのは曖昧な答え。


「おい!そっちにいたか!」


もう追手がこちらに近づいてきている。少年は少し迷っていたようだが、自分にすがりついている少女を見て、決めた。


「おまえの主のところへ連れていけ」


最後まで少年は尊大に命じた。青年は気を悪くした様子もなく、完璧な礼をとる。


「仰せのままに―――」


そして、一瞬視界が真っ暗になったかと思うと、青年や魔族の少年少女の姿はなくなっていたのだ。あっさりと消えてしまったことに狐に摘ままれたような気持ちになった。



―――その後、魔族の少年たちを追っていたのは、傭兵ギルドの男たちだと分かった。なんでも、人の大陸に入り込んだ魔族を追ってきたらしい。

俺たちは魔族に会ったことなど知らぬ存ぜぬで通し、ただ夜中に特訓していただけだと言い張った。


……それにしても、あの美青年精霊の主って誰だろう?魔族の少年たちは無事だろうか?わからないままではあったが、この一件で俺たちの魔族に対する印象は大きく変わった。

もちろん、いい方向へだ。


















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