兪貴と精霊
精霊について、
彼らは、意志を持った自然エネルギーの集合体である。
精霊王及び、五大精霊は、”玉”と呼ばれる核を中心に高密度の自然エネルギーを圧縮して実体化している。
精霊というのは、そもそもは唯一の存在であった。偏った自然の恵み、すなわち自然エネルギーを均すためだけの意思をもった非実体だったそうだ。
あるとき、精霊は意思を持つが故に、孤独を嘆き、仲間を欲した。そうして作ったのが、”玉”である。各自然エネルギーの属性、闇・光・水・風・土をそれぞれの”玉”に付加し、今に言う五大精霊を作り上げたのだ。その際に、精霊王自らにも残った元素、火の属性を付加した”玉”を取り込んで実体化し、精霊は精霊王と名乗るようになったというわけだ。
さて、精霊王となったその精霊だが、妖精女王に魅了され続けている。そんな彼を攻略するには、どうしたらいいものか。
「これで精霊王に関してはすべてですか?」
私が確認するように言えば、五大精霊たちが頷いた。
ここは、ミラコスタ王国の王城の一室だ。私は再びキールの姿となり、この城に滞在していた。
そんな私の前には、闇の五大精霊・シヴァ、光の五大精霊・ティルカ、風の五大精霊・サラ、水の五大精霊・ミーアという4体の五大精霊が集結している。
「妖精の魅了の能力についてだけど、私が顕現…実体化していない時や誰かに同調している時、その能力は効かなかったの。同調していたジェラールが魅了されても私は魅了されなかった。つまり、実体の持たない者には、その魅了は効かないのだと思うわ」
そう言ったのは、ミーアだ。魅了されないよう私は、他の妖精に魅了されることで対策したが、精霊となるとまた勝手が違うようである。
「でも、魅了された後に、実体化を解いてもその能力は解けなかった。魅了をかけた妖精が死ぬまで、ずっと魅了されたままだったよ」
次に口を開いたのは、ティルカだ。続いてシヴァが言う。
「さらに、五大精霊が魅了されればその配下もろとも魅了にかかる」
闇の五大精霊であるシヴァが魅了されたいた時、闇の精霊のすべてがキールの支配下にあったというわけだ。親を操れたならば、もれなく子も操れるというわけだ。
「そうなると、五大精霊の親である精霊王がティタニアに魅了されたというのに、あなた方精霊のすべてがティタニアに魅了されていないのは、どういうことなのでしょう?」
そう、精霊王が親となる五大精霊の中でも、魅了されていないミーアやサラがいる。そして、本来なら魅了されている者は他の精霊に魅了されないはずなのだから、他の精霊の魅了にかかったシヴァやティルカは、もとから誰にも魅了されていなかったということになる。
つまり、精霊王はまだ魅了されていない、という結論に至るわけだが…。
「……精霊王は、火の”玉”をもつ実体や意思を魅了されはしたが、唯一の精霊であった実体化できない部分はまだ魅了されていない……」
サラが長文を話した。
「ならば、魅了されてしまった部分たる火の”玉”及び、その実体を破壊すれば、唯一の精霊が解き放たれるというわけですね」
唯一の精霊の状態を言うなれば、同調と似た事態に陥っているのだろう。体を作って同調したのはいいが、その体の支配権をティタニアに取られてしまい、出るに出られないで体の中に囚われていると言ったところか。
ようやく精霊王を攻略する糸口が、見えてきた。
「精霊の実体は、ほぼ人間と同じようにできているわ。血こそ流れないものの、傷がつけば自然の力がこぼれ落ちていく、その力が限界を超えて失ってしまえば実体を維持できなくなるの。でも、それでは実体化できないだけで魅了が解けるわけでもないわ」
「実体化が解けてから、次に実体化できるまでの時間は?」
その時間で、ティタニアを殺せば、精霊王の邪魔立ては入らない。
「おそらく丸一日は、実体化できないわ」
ミーアの答えに私は笑う。丸一日あれば、ティタニアを殺すことなど、造作もない。
彼女は、術式の権威ではあるが、元王女で戦闘に関しては素人だ。その上、自らを不死身と信じて、油断しているのだから、いくらでも殺す隙はある。
さあ、そうとなれば舞台を整えよう。
私は立ち上がり、五大精霊たちを解散させると、ジェラールの元へと歩を進めた。
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「ねぇ、ジェラール。お祭りをやろうよ」
国王の執務室にアポなしで入り、開口一番に私はそう言った。
相手の都合などおかまいなしで悪いが、キールならこうするだろうからそうしたまでだ。
「祭り?」
ジェラールが問う。ジェラールを含む執務室にいた大臣・文官たちは、一斉に作業の手を止めて、キールに注目した。
「建国祭は教会のせいで台無しになったでしょ?その代わりになるお祭りをやろうよ。私がちょうど帰還したことだし、帰還記念祭なんてどう?」
「それはいい!」
彼らは即座に頷く。そして、口々にキールの提案を誉め称え、愉しそうに計画をたて始めた。本当に魅了って気色悪いものだ。
「そうそう、私から特別な出し物もあるから、私の分の舞台も用意しといてね」
「その特別な出し物とはなんなんだ?」
「それは、秘密だよ!」
ばちりとウインクを決めて、私は執務室を後にする。
こうも思い通りに国を動かせると、逆に居心地が悪い。だが、これでもう魅了を使うことも大方なくなった。
最初で最後になるであろう帰還記念祭。開催まではじっくり計画を準備しよう。
そうとなれば、兄に連絡をとっておくべきか。兄、天城 雅は今、エルネストと共に反国王勢力である【救済軍】の中心にいる。その傍には、アシュマもいるため、大変連絡がとりにくい状況だ。
とりあえず、先にティタニアを殺そうか。




