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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
三周目の偽物賢者は教会サイドにつきました。
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ソーマと商人




ミクラの教会の地下にあった都市、旧ミラコスタ王国の王都、そこで俺は天城 雅に出会った。そして、その日の夜が明けても、キールは俺たちのもとに帰ってこなかった。

あの時、雅は確かに言った。キールを殺したと---


雅にそうは言われても、俺は妖精が不死であることを知っている。信じられない面持ちで、地下都市を走り回って彼女を探したが、キールを見つけることはできなかった。

代わりに見つけたのは、血塗れの彼女の服と剣だけだった。それらには、こんもりと灰のようなものがかけられてあって、服が一式、突如中身を失ったかのように、そこに落ちていたのだ。

まるで、妖精の肉体だけが、一瞬で骨ごと焼かれてしまったかのようだった。


「サラ、妖精は死ぬのか?」


(……うん……)


実にあっさりと、サラは首肯した。以前、魔王は妖精を殺す術はないと言ったというのに、だ。では、殺す術をゆきが見つけたということなのだろうか。



答えが出ぬまま、俺は、宿へと戻った。それは、夜が開ける前のことだった。


そして、夜が明けても、幾日か経っても、キールは戻らなかった。俺は本当に妖精を殺す術があると確信し、安堵する。あんな化物が、この異世界に跋扈しているなんて知った時から、俺は妖精が恐ろしかった。いとも容易く、他者の意思をねじ曲げ、踏み躙り、それを罪悪とすら思っていないあの化物たちが、元の世界に手を伸ばす術を得ているのだ。事実、キールはゆきの体を17年間乗っ取っていた。


ゆきには、キールを殺す権利がある。そして、それを叶えたのだ。

俺に殺人をどうこう言う資格はないし、俺は直接的ではないものの、ゆきがキールを殺せて、良かったと思う。



-----------それだというのに。


キールは突如として俺たちの前に現れたのだ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





俺たちが王都に入ってすぐ、キールを発見した。


彼女は、俺たちのことなんか眼中にない様子で、王城へとまっすぐ進んでいく。今までどうしていたのだと、問いつめるリィーヤをするりと躱して、民衆の声に手を振って応えた。


そして、王城に入るや否や、国王の元へと無遠慮に躍り出たのだ。国王や大臣が集まっての会議にキールは自然な足取りで乱入する。

当然のごとく無遠慮な不届き者に冷たい視線が向けられるが、彼女が話した途端、それは一変した。


----魅了だ。


国王や大臣たちは一斉に立ち上がって彼女の来訪を歓迎しだした。その変わりようは、あまりにも不自然で

、俺もリィーヤたちも口を噤んで後ずさった。


そこからはキールの独壇場だ。何を言っても国王や大臣たちは、彼女の言葉に頷き、誉め称える。


薄気味悪いというほかなかった。


最後にキールはばちりとウインクを決めて、その場を後にする。俺は、気味の悪さに見ないフリして、彼女の後を負った。俺はキールに聞きたいことがあるのだ。


雅さんからは、キールは死んだと聞いていた。なのに生きているのはどういうことなのか。


そして、本当に妖精を殺す術があるのか----


最後者だけは、必ず確かめておきたい。そう決意した数秒後に、俺はキールを見失った。



しばらく王城を歩き回ったが、キールは見つからない。もしかすると、城下にいるかもしれない。

そう思い立ち、城下街に繰り出してはみたものの、土地勘のない俺はすぐに迷子になった。


この世界の建築は、中世ヨーロッパのものに似ている。石畳の道には馬車が行き交い、レンガ造りの家々には絵が描かれた看板が吊るされていた。

もしこれが地球上の観光地であれば良かったのに…。


これ以上、探しまわってもキールは見つからないだろう。俺は王城の見える方角へと歩く。


「----あら?あなた…ソーマじゃないの?」


歩いて幾何いくばくかした頃、野太い声が俺を呼び止めた。そして、振り返った俺が見たのは、ごつい筋肉のドレス姿だった。


「ルーディ…」


「ひさしぶりねぇ。……あなた一人?カレンは一緒じゃないの?」


見事に巻かれた金髪に青い瞳、筋骨隆々のおネエ系傭兵…ルーディが、そう聞いてくる。

彼女?は、アシュマの商会に属する傭兵だったはずだ。


アシュマについて、ひいてはアシュマと共にいるゆきについて何か知っているかもしれない。


「カレンは…色々あって、王城で静養中なんだ」


そういえば、帰って来てからというもの、キールのことに夢中でまだカレンの様子を見に行っていなかったことを思い出す。


「そうなの…」


「アシュマからなにか聞いてないのか?三人目の勇者、ゆきがアシュマのとこにいるんだろ?」


「アタシは何も聞いてないわよ。アシュマったら秘密主義なんだから!」


ぷくりと頬を膨らませて、ルーディが答えた。


「じゃあ、アシュマは今どこに、」


「ルーディ!珍妙な格好で客引きしてんじゃねえよっ!」


さらに俺は言い募ろうとしたが、怒鳴り声がそれを掻き消す。

近くの商店から、少年が顔を出していた。


「どこが珍妙よ!」


ルーディもドスの利いた声で叫ぶ。少年はひょいと身軽に人を掻き分けて、俺たちのもとにやってきた。

紅い髪と瞳に、褐色の肌をしたその少年は、俺よりもいくらか年下に見える。アシュマと同じようなアラビアン風の衣装に身をつつみ、エキゾチックな雰囲気を醸し出していた。


「ごつい男のドレス姿とか、もはや視界の暴力だろ」


けっと、吐き捨てて、少年は俺に向き直る。


「そこの筋肉にナンパされた憐れな美少年さん、ここは俺が抑えときますんで、どうぞおかまいなく…」


そして、少年はにこにこと営業スマイルを貼付けて、一礼した。なにやら誤解されているようだ。


「いやいや、ルーディにナンパされてたわけじゃないから…」


「そうよ、失礼しちゃうわ。ソーマとは前にミクラで知り合ったのよ。それにアタシは逞しい男が好きなのよ!」


ふんっと鼻息荒く、ルーディが言い放った。だが、嗜好までは知りたくなかったな…。


「前科ありまくりの癖に……。勘違いして悪かったよ。俺はシルフ。アシュマール商会のミラコスタ王国支部の筆頭だ。よろしく」


そう言って、シルフが俺に手を差し出した。


「俺は、異世界から来た緒方 蒼馬。こちらこそよろしく」


俺も名乗り返して、手を握る。この異世界にも握手の習慣があるのだな、と少し面白く思った。



----その後、シルフに店に引き込まれて、めちゃくちゃ商品を勧められた。もしかして、カモだと思われているのだろうか……。

















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