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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
三周目の偽物賢者は教会サイドにつきました。
43/55

番外編 魔王陛下の執務室は、薔薇色に包まれました。

息抜きがてらの番外編です。

時系列的には、前話から数日後…といったところで、魔王陛下の執務室でのお話です。

本編に関係はないので、読まなくても問題はありません。




「今更だ」と、私は吐き捨てた。


今更もとに戻ったところでどうしろというのだ。


キールの憑依により自身の容姿を変えられ、17年間を過ごしてきた。鏡を覗き込めば、兄とそっくりの顔が映る。兄より女性的ではあるものの、性別不詳の美貌にため息をついた。


こんな目立つ顔だとは思わなかったのだ。もし日本に帰れたとして、私の顔は整形したと誤摩化せるが、もとより10センチ以上も伸びた背丈までは、どうしようもない。


身長165センチの出るとこでたキールの体型から、身長180近くのスレンダー体型に私は変わっていた。日本人女性で180センチって、どんな成長期だ。


「帰っても誤摩化すのが面倒だ」


もう一度ため息をつくと、正面にいたアガレスが、視線をよこしてくる。


「少しの間、雲隠れすればいいだろう」


そう言うなり、白金の髪をポニーテールという美形にしか許されぬ髪型をした魔王は、手元の書類へと視線を戻した。


「それはそうだが……」


だが、それは高校生活をこのまま棒に振るということだ。いや、この容姿で花の女子高生を騙るわけにはいかない。客観的に見て私の姿は、20歳過ぎのホストが妥当だろう。ついでに店のナンバーワンになれる気がする。


「いっそのこと、ホストになってやろうか。女だけど」


「ホスト?なんだそれは?」


「甘い言葉と容姿で女をもてなして、金を貢がせる職業」


若干なげやりになりながら、私は答えた。


「男娼のことか」


ぞんざいな説明でも、アガレスは納得したようだ。

それよりもこの異世界は、なかなかにヘヴィーだと思う。奴隷に、娼婦・男娼、人身売買……まず日本では身近になかったものだ。

しかも、そのほとんどの元締めがホルテ教という最大規模の教会だから、どうしようもない。


そして、今、そのホルテ教の中心に立っているのは、私だ。


当面のところ、適当に膿をひとつところにかき集めて、あとはこの世界の住人に任せるべきだろうと思っている。

この膿をきっかけにミラコスタ王家が力を持ちすぎても困るし、さじ加減が難しいところだ。だが、その辺りのことは兄がどうにかしてくれるだろうと楽観している。


私は、異世界に干渉できる妖精を殺して、憂鬱だがさっさと元の世界に帰るべきなのだ。

私たちが帰った後にアガレスに召喚陣を破棄してもらえば、それで異世界との繋がりは消える。もう異世界の連中に煩わされることはない。


だが、そこまでが長い。私はまたため息をついた。

そして、視線を感じて、正面の魔王を見遣る。


「なんだ?」


「…男娼にしては、とうが立ちすぎていないか?」


ホスト云々をまだアガレスは気にしていたようだ。まじまじと私の顔を見てくる。

男娼といえば年齢制限は特になかったと記憶しているが、この世界に関しては稚児が当てはまるのだろう。


そこで、執務室の扉がノックされたのをきっかけに、私はひっそりとほくそ笑んだ。


体を乗り出して、アガレスの顎をすくう。そして、低い声で私は囁くように言った。


「そんなに俺を見て、どうしたの?今夜は君が俺を指名してくれるのかい?」


「は?指名?」


きょとんとして、アガレスは問い返す。私は間にあった机に乗り上げ、アガレスの背もたれに手をついた。


「とぼけるなんてひどいな。俺を選んではくれないの?」


もう片方の手で顔の輪郭をなぞり、白金の髪を一房すくってみせる。台詞と共に、眉尻をさげて悲しそうな顔をつくることも忘れない。


「ゆ、兪貴?」


アガレスは、非常に困惑している。遠くで誰かの荒い鼻息が聞こえた。


「ああ、ようやく名前を呼んでくれた」


私は微笑んで、アガレスに顔を近づけ…耳元で囁く。


「-----今夜の俺は、君だけのものだ」


ちゅっと音をたてるサービスもつけておいた。それに、アガレスはびしりと固まり……


「ふぉおおおおおおおおお!!」


色気もなにもあったものじゃない雄叫びのような悲鳴があがった。もちろん、悲鳴の犯人は、カレンだ。

カレンは鼻血をたらし、目を血走らせている。喜んでくれたようで何よりだ。


私は何事もなかったように体を離して、もとのソファに座り直す。

カレンが執務室の扉をノックするのに気づいて、ひと芝居打ってみたのだ。アガレスもホストに興味を持っていたようだし、見た目は男と男の絡みにカレンも喜ぶし、一石二鳥だろう。

そう私が満足していたところに、カレンと共にいたらしいシェイドが叫ぶ。


「アマギ!魔王陛下になんてことを…!陛下は純真でいらっしゃるのだぞ!!」


純真て…。

アガレスはとうに100年以上生きている。そこではたと、私は思い出す。ミラコスタ王国の2代目国王は、生涯独身を貫いたと、最近読んだ歴史書に書かれていたはずだ。


「……その顔で初心とかないな」


「アリだよ!魔王陛下がピュアだなんて、すっごく萌える…!」


失笑の私に対して、カレンは更に興奮していた。とりあえずカレンに近くにあった布巾を手渡してやる。まずその鼻血をどうにかしろ。


「……純真…初心……ぴゅあ……」


アガレスはというと、ぷるぷると体を震わせていた。


「陛下の幼少期より見守っておりましたが、陛下が女子おなごと一夜を過ごすことはついぞなく、色事に関しては全く免疫がないのです。ああ、嘆かわしや」


いつの間にそこにいたのか、宰相が目元を押さえている。だが、その口元には笑みが浮かんでいた。


「アガレス……本当に相手をしてやろうか?」


悪ノリした私は、そう申し出てやる。


「……うるさい!!」


目元を赤らめたアガレスの怒号が、執務室に響き渡ったのだった。






ありがとうございました!

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