表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
三周目の偽物賢者は教会サイドにつきました。
42/55

兪貴と偽物勇者



私は、堂々と王都に舞い戻った。

キールの姿をして、シヴァを従わせ、私は誰にも引き止められることなく王都の門をくぐる。


私が往来を歩けば、キールだ!と、道行く人々が声をあげた。

適当に手を振って、それに応えながら私は、王城へと進む。これだけの民に目撃されたら、もういいだろう。そう思って、歩みを速めた時だ。


「キール!」


私は誰かに呼び止められた。振り返ると、そこには蒼馬を含む勇者一行が佇んでいる。


「今までどこにいたのだ」


そう問うたのはリィーヤだった。蒼馬は死んだと聞かされていたためか、押し黙ってじっとこちらを観察してくる。


「とっても素敵なお土産をみつけたからね、寄り道しちゃった!」


「土産?」


「そう!あとでみんなにもみせてあげる!」


私は、上機嫌に笑ってみせた。

そして迷いのない足取りで王城の門をくぐる。誰も私を止める者はいない。


勇者一行はキールの異常性に気づいており、あまり機嫌を損ねることはしないはずだ。今だって、問いつめることなく、私の後ろに続いている。


私はまっすぐジェラールの元へと急いだ。


「ねぇ、ジェラール!ミーヤが私に協力してくれるって!」


そして、会議の中に空気を読まず乱入する。普通なら顔を顰められる行為であるがキールは平然としていたので、それを真似る。ここにはキールに魅了された者たちばかりで、普段なら誰も咎めない。しかし、キールが死んだ今は魅了が解けているので、再び私がジンの力を使い、魅了をかけてやった。後ろのシヴァから冷たい視線が飛んできたが気にしない。


「キール!帰って来たのか」


魅了されたジェラールが立ち上がってキールを出迎えた。

他にも国の重鎮たちが好意的な雰囲気で歓迎する。しかし、こうも自分に都合良く動いてくれると、気持ちの悪いものだ。蒼馬たち勇者一行も気味が悪そうな様子をしている。


「それで、ミーヤとは何者なのだ?」


「建国の賢者だよ。彼がまたこの異世界に来たのさ!ミーヤが教会に入り込んで、エルネストの陰謀を探ってくれるって言ってたよ」


建国の賢者なんていう100年以上も前に生きていた人物を引き合いに出しても、誰も疑いを持つことなく、信じ込む。魅了した私が言う台詞ではないが、なんて愚かしい。


「あとね、いいものを貰って来たんだ!あとで、皆にお披露目してあげるからね。エルネストが教会の長たちを連れてこっちにくるみたいだから」


ばっちりとウインクを決めて、私は踵を返した。

これで茶番は終わりだ。追いかけてくるキール一行は無視する。そして、私はシヴァに合図して、影の空間へと沈み込んでいった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





影の空間で、私は用意しておいた衣装に着替えた。赤のラインが入った黒の軍服は、魔王側近の証。これより私は、魔王軍の側近 アマギとして行動するのだから。



そのまま私は影の空間を利用して、すぐ魔王城の図書室に向かった。

ここには、アシュマのミラコスタ王国国外での、足取りが納められている。アシュマは、キールの縄張りであったミラコスタ王国、ティタニアの聖域、イフリートの魔大陸の三つの場所以外で、災厄を振りまいていたのだ。

自身は一切表に出てこず、自分の気にいった人物を歴史に名を残すほどの悪党に仕立て上げる…それがアシュマの手口だ。

できる限り、アシュマの動向を知ることで彼への対抗手段を得ようとしているのだが、うまくはいかない。もしアシュマが銀の剣で死ななかった場合、私には打つ手がないのだ。今のアシュマのお気に入りは、天城 兪貴。彼から解放されるには、彼を殺すしかない。それか、私がアシュマを上回るバケモノになるかの二つに一つだ。


私は数冊の本を抜き取って、図書室を後にする。そして私に与えられた部屋に向かった。

机と椅子しかない殺風景なその部屋では、元側近のシェイドが、書類と格闘している。


「進んでいるか?」


ここではミーヤやキールに扮しなくてもよい。


「進むも何も、バケモノっぷりに辟易しているところだ」


つまり、未だ対抗策はないということだな。まぁ、文献だけで弱点が分かるなんて都合のいいことはそう起こりはしないだろう。分かっているのは、アシュマは他の妖精との接触を避けているということぐらいだ。

クラウンなんて実に、アシュマの餌向きだったと思うのだがな。


ただ妖精には及ばない程度の力しか持たないというのなら、それでいいが…。


持って来た本をぱらぱらめくって流し読む。変化に秀でたアガレスだからこそこれほど仔細にアシュマの情報を集めることができたのだろう。

しかし、探っても何もでないなら、こちらから揺さぶるしかあるまい?

そう思案していたところで、部屋の扉が開く。


「やっぱり…」


そちらへと視線を動かせば、そこには金髪の少女が立っていた。

天城 ゆきの幼なじみにして、共に異世界に召喚された藤崎 カレンがそこにいたのだ。カレンはミラコスタの王城にて療養中だと聞いたが…ここにいるということは、アガレスの仕業か。


「やっぱりゆきちゃんだ」


キールの憑依から解放された私の姿は、全くの別人だ。


「藤崎 カレンさん、私は兪貴ではなく兄の雅です。私は以前この異世界に召喚されたことがありまして、妹の失踪は異世界転移の可能性が高く、またこの異世界に訪れたまで……要するに、私は兪貴ではありませんよ」


ともかくカレンには、私を雅だと思ってもらおうとしたのだが、カレンはそんなこと一切聞かないで、私の胸に飛び込んで来た。


「ゆきちゃん!!ごめんなさい、ごめんなさい…!わたしは、ゆきちゃんを刺して…ああ、無事で良かったー……」


ここまで密着されては、性別はバレただろう。どうせなら、男の体に変化しておけばよかった。


「カレンを連れて来たのは、アガレスか?」


もう私は偽ることを諦めることにする。


「そう、ウサギさんみたいな可愛い美少年が連れて来てくれたの」


私に密着したままカレンは答えた。アガレスがウサギ?細身の男なのは、私も知っているが、そのアガレスを可愛いウサギと表現するカレンの感性はよくわからない。


私が首を傾げているところに当の本人が顔を出した。


「兪貴、来ていると聞いたが…どうやら先に会っていたようだな」


白金の髪に赤い瞳の魔王は、20代後半といった容姿をしており身長も私よりも頭一つ分高い、どう見ても少年とは言い難いのだが…


「血なまぐさいおまえの計画に巻き込まれぬようカレンは、魔王城にて保護した」


「アシュマにはバレていないだろうな」


血なまぐさいとは失礼な。私は最善を尽くしているだけだ。


「勿論だ」


今の私は、同じく召喚されたカレンや蒼馬など全く意に介さない姿勢を貫いている。アシュマに2人を人質に取られては、面倒だからだ。


「……えと、ゆきちゃん、そのイケメンは…?」


くいと裾を引かれてみれば、カレンが鼻を押さえていた。


「アガレスだ。カレンはそいつに連れてこられたのだろう?」


アガレスを指さして言えば、カレンはぶんぶんと首を横に振る。


「わたしは、ウサギさんみたいな可愛い美少年のアガレスに連れて来てもらったんだよ!で、そのイケメンもアガレスって言うの!?」


そう聞いて合点がいった。アガレスは変化して、カレンを連れ出したらしい。カレンは、美形美形目の保養!と怪しく呟きながら、彼を舐め回すように見つめ続けていた。アガレスはそんなカレンにドン引きだ。

困ったような視線が送られてくるが、面白いのでこのままにしておこう。


私は持ってきた本の続きに目を落とした。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ