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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
三周目の偽物賢者は教会サイドにつきました。
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兪貴と港町

天城雅を召喚したあと、私たちは着替えていた。そうしながら現状についてを雅に伝えておく。


「はしたないですよ、兪貴。」


雅は私の衣装に、私は教徒がよく着る服にそれぞれ着替える。


「何百年と生きたアガレスが今更、私の体如きで何か思うと思います?」


堂々と脱ぎ散らかしていたら、雅に窘められた。


「そういう問題じゃありません。」


アガレスは微妙な顔つきで視線を逸らしていた。


「それより、今後の計画について確認しましょう。私は国内担当、兄さんは国外兼アシュマ担当です。」


私の計画は、簡単だ。ミラコスタ王国で広く長く信仰されているホルテ教。その中枢とも言える王都の教会が突如として王家に断罪された。あまりにも急なそれに王都はまだしも地方の教会や教徒は、戸惑いを隠せないでいる。それを利用して、私はミラコスタ王国に内戦を起こそうという計画だ。勿論、妖精をすべて悪役に仕立て上げることを忘れずに。


「アシュマですか…。憂鬱ですね。」


ミラコスタ王国は腐っても大国で、ホルテ教は国外にも広がっている。なので、雅は隣国に掛け合い、ホルテ教奪還という名の、侵略を手伝ってもらう予定である。必然ミラコスタ王国王家は、国の内と外からに対処しなければいけなくなるので、妖精に頼らざるを得ない状況に持っていく。そしてその際に頼る妖精は、キールにほかならない。


私がどうしても手を出せないのは、聖域である。あそこは完全に妖精女王ティタニアの領域で、聖域は妖精の安全地帯だ。まずはそこからキールを引っぱり出し、殺さなければならない。

セフィルに続き、キールもやられたとなれば、さすがの妖精女王ティタニアも傍観しているわけには行かなくなる。


「何故二人してそれほどアシュマを危険視するんだ?」


アガレスが尋ねた。そう問題は、アシュマなのだ。


「あのバケモノを銀で殺せる確証がありません。所詮、私たちは人間です。術式はもう使えませんし、あれと真正面からやっても勝ち目がありません。」


キールに取り憑かれていた頃は、術式を瞬時に編めていたのだが、今は紙に書き出して必要に応じてそれに魔力をこめて使うといった風に、インターバルが必要となる。術式自体はどうにか作れるのだが、時間がかかるのだ。


「仕方がありません。銀で殺して死ななかったら、即座に離脱しましょう。」


雅が肩を竦めてみせた。


「あれはこの世界においてはほかの妖精と比べるもなく無害です。私に執着するが故に、私の帰還を邪魔する可能性がありますので、それさえクリアすれば問題ないでしょう。」


「最悪兪貴を人身御供に置いていきましょう。」


「兄さん、あなたは私をキールに引き続き、アシュマにも引き渡すと…?」


「私は武力は苦手です。彼らに勝てる可能性は万に一つもありません。その分、頭を動かしますので勘弁してください。」


雅は運動は大の苦手で、参謀向きだ。対する私は、キールがいなくなってからというもの何故か体が軽いのだ。キールの動きと私本来の動きが、全く違ったのだろう。

今なら、戦えなくなっていようが、キールから解放されたからだと誤摩化せる。入れ替えができるのは今だけなのだ。


雅には私になりきってアシュマをうまく操縦しながら、隣国と交渉してもらう。

私はエルネストを使って、地方教会をまとめあげ、反王家勢力を築き上げる。

連絡係としてアガレスには協力してもらう。また、魔族をミラコスタ王国に立ち入らせないよう管理しなければならない。


「さ、兄さん。バケモノの相手は頼みましたよ。」


そろそろ一人で行動している私が気になって、アシュマがやってくる頃だ。

アガレスが召喚陣を影の空間に持っていく。ここで私とアガレスは退散だ。


「はいはい、妹のために頑張ってみせますよ。」


貴族風の衣装に身を包んだ雅は、苦笑してみせた。




%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%




影の空間に待たせてあったエルネストとアルカを連れて、私はミラコスタ王国の港町ミクラに降り立った。

エルネストによればここの教会は腐食の巣窟らしい。さすが教皇モードレッドの故郷とでも言おうか。


「さてさて、エルネストさん。貴方の役目は何だと思います?」


私は問うた。


「突如として王宮に粛正された教会本部を救う旗頭となることです。」


うんざりした顔でエルネストは答える。


「正解です。あの粛正はあまりにも性急でした。王宮も後始末に奔走しているようですが、長年隠し続けた腐敗はそう簡単には洗い流せません。地方の教会では教会本部の腐敗を知らない者も多い。そう言うわけで教徒たちはこの粛正に疑問を持っています。」


「その疑問を煽り、王宮から教会本部を救う、教徒たちの【救済軍】を創り出すのが私の役割でしょう。何度も聞かされているのだからもう覚えましたよ。」


「それならいいですけどね。はっ、なにが救済軍だ。こいつらを利用して私は元の地位を取り戻してやる!なんて考えてそうですから。」


「…………あなたはどうしてこうも小賢しいのですかね。」


図星を突かれたからかエルネストは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「貴方が私たちよりも矮小な人間だからです。」


「……………。」


「ま、それは置いとくとして、さっそくお仕事ですよ。私は貴方の参謀気取りで、横に張り付いてますから。」


私たちは地方の教会のひとつに足を踏み入れた。礼拝の時間を終わったところを見計らったので、一般人はあまりいない。


「どうしました?」


聖職者のひとりが問いかける。


「長はいらっしゃいますか?」


これにはエルネストが対応する。教会の責任者の任についている高位聖職者のことを長と呼ぶそうだ。聖職者は、彼の顔を見てはっと驚いたものの、すぐに奧に通した。エルネストは腐敗の頂点に立つだけあって、顔は売れているらしい。


「アルカは、待っててくださいね。」


「わかりました、ミーヤ様。」


無垢な笑みでアルカは私たちを送り出す。エルネストは問題なかったが、アルカはダメだったのだ。クラウンを引き剥がした衝撃で記憶を失ってしまった。

ついでにいえば、教皇モードレッドはもっとダメだった。銀でイフリートを殺したのはいいが、そのあと胴と頭が離れていたために普通の人に戻った瞬間、死んだ。


とりあえずアルカがいつ記憶を取り戻すか分からないので、私の側に置いている。アルカには私たちは聖職者で、不当に王家に迫害されたために立ち上がったホルテ教の救済者なのだと教えている。そして記憶を失う以前のアルカは優秀な私たちの仲間で、その任務中に事故にあって記憶を失ってしまったのだと話してあった。


彼は素直にそれを呑み込み、救済軍に協力しようと、張り切っている。無邪気すぎて、真っ黒な自分が悲しい。


ミクラ教会の奥で待ち構えていたのは、でっぷりと肥え太った中年の男だった。エルネストの情報によれば、彼の名は、ヘルマン。多大な寄付をしている上流階級相手に、見目麗しい女・子供の斡旋をしていた外道だ。


「エルネスト様!よくご無事で…!」


ヘルマンがエルネストの姿を見て、立ち上がった。


「お久しぶりですね、ヘルマン。」


鷹揚に応えるエルネストに席をすすめ、二人は向かい合って座る。こうしてつまらない、狸の会話が始まった。


「国王陛下が突如、死んだはずの勇者キールを使って、本部の教会を悪に仕立て上げたと聞き及んでおります。」


仕立て上げたのではなく、正確には悪を暴いたのだが…都合良く変換されるのは、つきものである。


「そのキールのことですが、彼女の正体は妖精というこの国に住み着く化物だということが分かりました。化物は、国王陛下を魅了し、裏からこの国を操っています。私は運良くこの者に助けていただきましたが、教皇様は…奴ら妖精の手にかかり……。」


「おいたわしい……。まさか教皇様に害を加えるとは、なんと罰当たりな…!」


実際は、教皇殺したの私だけど…。

エルネストはなかなかに演技がうまい。


「それで、その方は?」


「彼は、ミーヤ。妖精の魔の手から私を救ったまさしく聖人のごとき教徒ですよ。」


紹介を受けた私は、微笑んで優雅に一礼してみせる。それを見たヘルマンが顔を赤らめた。私の顔は女顔っぽい美人の男って感じだからな。気持ち悪いが、私の美しさに見蕩れるのは仕方がない。


「…聖人、とは、驚きましたが、ええ、とても彼ならその称号にふさわしいかと…。」


「それは光栄です。ヘルマン様。改めまして、私はミーヤと申します。私は長らく妖精を追っておりまして、このたびはこのミラコスタ王国に現れたのとの情報によりこの地に参上した次第でございます。」


「では、ミーヤ殿は妖精に詳しいと?」


「はい。ですから、次のものを用意していただきたいのです。化物である妖精を殺す術はひとつだけ、銀の武器です。私一人では、妖精を駆逐することが難しゅうございます。それ故、王都の教会を取り戻すためにも、教徒たちによる救済軍を結成させていただきたいのです。」


「お、お待ちください。救済軍など前代未聞ですよ。」


要するに武力で王都の教会を取り戻そう、と言っているのである。大きくなった話にヘルマンは、焦りだす。彼の頭は今、利益計算で忙しいのであろう。


「今の時代には、必要なものです。我々教会を無下にしたミラコスタ王国に分からせてやらねばなりません。」


エルネストが私を支持する。


「確かに、このままでは王家による身勝手な粛清がいつ我が教会にも降りかかるか…。私で良ければ、お手伝いさせていただきます。」


ヘルマンが禿げた頭を下げた。王都の教会では、今聖職者たちの断罪がなされている。彼らの中からいつ自分の情報が漏れるか、心配でならなかったのだろう。


ヘルマンはその後忘れずに自分に利益をよこすよう取りつけていった。







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