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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
三周目の偽物賢者は教会サイドにつきました。
32/55

兪貴と実験

------私がようやくキールから解放されてから、三日後。


アシュマの影の一角には、異常なものが置かれている。

頭と胴体をそれぞれ分離して、結界で閉じ込められているそれは、妖精に憑依された被害者たちだ。私はその被害者に会いにきていた。


「誰だか知らないけど、早く僕を助けてよ!なんで僕がこんな目に合わなくちゃいけないの!?」


さっそく喚きだしたのは、クラウンだ。彼は、王に仕える密偵で聖職者のアルカに憑依している。


「早くせよ、人間。妖精王オベロン様にこのような仕打ちなど、許せるはずもなかろう!!」


次に憤慨しているのは、教皇に憑依しているイフリートだ。彼の隣にはジンがこちらを睨んでいる。そして彼女も例に漏れず、エルネストに憑依しているのだ。


私は煩わしい妖精三人の胴体の方の結界を解いた。しかし、頭部を失っているため、動きだすことはない。


「さてと、実験でも始めましょうか?」


「なぜすべてとかない?」


ジンが嗄れた声で問うてくる。


「なぜ解く必要が?私は実験をしにきたのです。」


鉄、十字架、聖水、銀……その他諸々。私の世界では化物退治に使われる物を一通り試してみようということにしたのだ。妖精を確実に殺す術を私は見つけなければならない。


「実験?何を言ってるの…。君の名前は何?僕が助けてくれたら君をかわいがってあげるよ。」


「はい、ではメジャーなやつからいきます。」


クラウンの戯言は無視して、私は十字架を装備する。想像するのは、祓魔師だ。なんかそれらしい悪魔退治の台詞でも言ってみよう!


「三位一体の名の下に、悪魔よ。正体を示せ!!」


「「「………………。」」」


うん、視線が痛い。

だが私は気にしない。ついでに聖水をかけてみる。当然何も起こらないので、ぐさっと十字架で刺しといた。しかし何の効果もなく、傷はすぐに塞がる。


よし、次にいこう。私は悪霊退散と書いておいた札を持って、陰陽師になりきる。


「急急如律令!!」


たてた人差し指と中指の間に札をはさんで飛ばす。


「「「………………。」」」


ただの紙切れが飛ぶなんてことはなく、ひらひらと床に落ちただけである。仕方がないので、札を拾ってクラウンの体に貼ってみる。……何も起こらない。


よし次だ。私はお手製の数珠を取り出した。そして坊さんになりきってみる。


「仏説摩訶般若波羅蜜多心経ぶっせつまかはんにゃはらみたしんぎょう……」


般若心経を唱えてみた。


「「「………………。」」」


とくに苦しんだ様子はない。これもダメか。ジンに数珠を投げつける。特に効果はなかった。


「ねぇ、君…大丈夫?」


クラウンになんか可哀想なものを見る目を向けられた。おまえだけには言われたくなかったよ…。


「次、行きます。」


とりあえず、私は検証を続けた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



検証の結果は、十分に得られた。あとは、アシュマに悟られぬうちに実行するだけだ。しかし、影の空間を利用している限り、バレるのも時間の問題だろうが…。


「兪貴、本当にいいのか?」


私を尋ねてきたアガレスが、尋ねてくる。


「勿論、私はやる気ですよ。」


長い黒髪をばっさりと切って、肩につかないくらいの長さで揃えた。服は貴族のような男物の衣装を身にまとう。くるりとまわってアガレスに微笑む。さらに意識して声を低く変えて、私は問う。


「どうです?」


「………間違いなくミーヤ本人にしか見えない。声まで同じとは、恐れ入る。」


鏡に映るは、絶世の美人だ。ぶっちゃけキールより綺麗だと思う。キールから解放されたあと、私は鏡を見て非常に驚いたものである。なにしろ私本来の顔は、兄にそっくりだったのだから。


同じように驚愕したアガレスから、兄の…賢者のことを聞き、私はすべてを理解した。

そして、今回の作戦を思いついたのだ。アシュマに見張られずに、私が自由に動ける作戦を…。


「さ、連れて行ってください。ここでアシュマに見つかれば、すべて水の泡となってしまいます。」


「分かった。」


アガレスの声は沈んでいる。無理もない。これから私は、彼の父親であるセフィルを殺しにいくのだから。

だが、アガレスはこのままセフィルを放置することを望んでない。色々と葛藤があるのだろう。


私は差し出されたアガレスの手をとった。影空間のワープ機能を使って、とある場所を目指す。


旧ミラコスタ王国の首都にして、地下に沈む街ミシロ。その元王城にセフィルはいた。


「……ミーヤ。」


セフィルが驚愕の表情で呟く。


「何故おまえがここにいる。なぜ今更おまえが…アガレスが喚んだのか!」


「いいえ、私の妹が異世界に連れ去られましたので、彼女の奪還に参ったのですよ。」


セフィルは声を荒げている。完全に私を兄と間違えているようだ。


「妹?」


「ええ、私の名前忘れましたか?」


「天城 みやび。まさか…おまえの妹は、」


にこりと私はセフィルに微笑む。アガレスは何も言わなかった。ただ顔をこわばらせて、私の後ろに立っている。


「そういうことです。兪貴をどこに隠しました?」


「天城 ゆきがおまえの妹だと…?我が何度喚んでもおまえは応えなかった。だが、妹のためならまたこの世界にやってくるというのか?」


私に聞かれても、知らんがな。妹のために異世界に来るくらい、兄ならやりそうなものだが…?


「貴方に応える義務はないはずです。」


適当にそう答えれば、かつかつとセフィルが詰め寄ってくる。


「ふざけるな!おまえは、アウローラを愛していたはずだ!そのアウローラが愛したこの国が、妖精の手により腐敗してしまったのだぞ!!」


アウローラといえば、建国の女王だ。アガレスの母であり、とうの昔に亡くなった故人である。


「いつまで死んだ彼女に執着しているのです。そもそも国を守りたいなら、貴方一人でやればいいのでは?妖精の貴方ならできるはずです。……ああ、もしかして貴方は、寂しいのですか?アウローラが死に、自分を知る人間が私しかいないから。」


「なんだと…。何百年と生きる我が寂しいだと!笑わせるな!」


胸ぐらを掴まれながら、激昂するセフィルを私は冷静に観察する。どう見ても彼は飢えているようにしか見えないのだ。自分をわかってくれる人を求め、一人は嫌だと誰かをこの世界に引きずり込みたがっている。-----アガレスには目もくれず。


「では、なぜ異世界を頼ったのです。私の面影でも探しましたか?」


私は後ろ手で短剣を抜く。今のセフィルは血が上り、私の顔しか見ていない。


「一度我らに救いの手を差し伸べたのは、おまえだ。おまえこそつまらぬおまえの世界を抜け出して、この世界で自由に力を振るっていたではないか!それを忘れたとは、」


彼を抱きしめるように手を回して、剣を刺した。銀製の剣を、ちょうど心臓を貫くように-----


私は後ろに下がって、セフィルから離れる。


「さようなら、化け物。」


セフィルはたたらを踏み、ひざをついた。はくはくと口が動いたが、何も声を発することなく、彼の体は一瞬で塵と化す。


「なっ!?」


魔法のように崩れ去ったセフィルにアガレスから声が驚愕の漏れる。


「私の世界では、化け物退治の際に銀の杭を化け物の心臓に打ち立てるなんてものがありまして、実験してみましたところ…こんな風になるのがわかりました。杭でなくとも銀製の武器ならなんでも効果があります。」


「妖精は銀で死ぬのか。」


「そうみたいです。今まで本人たちすら気づいてなかったのには、驚きましたが。」


私が残念な目で見られながら行った実験は、非常に有効な結果が得られたのだ。


-----妖精は銀の武器で心臓を貫かれるとき、死ぬ。


「さ、いつまでも呆けてないで、探してください。」


放心しているアガレスを小突いて、我を取り戻させる。

私の目的は、セフィルを殺すことだけではない。私がこの世界に呼び出された際に使われた召喚陣を探しに来たのだ。


程なくしてそれは見つかった。


「どうするつもりだ。先に蒼馬とカレンを返すのか?」


古びた広間に召喚陣はわずかに発光しながら、描かれている。


「これは、もとは天城 雅を呼び出すものを改良したものです。なので…」


私はその召喚陣に手を加えた。元に戻るように-----

そして、書き換えた後に魔力を込め、それを発動させる。


「何を、おまえまさか…。」


「そのまさかです。天城 雅を呼び出します。」


召喚陣から眩しい光が溢れ出す。思わず目を閉じ、手で庇うほどの強い光だった。


「……仕事中なんですけどね。」


ため息交じりの声が聞こえる。目を開ければ、そこには私そっくりの美人がいた。ただやはり性差はあるようで、私より線が太い上に背も高い。


「そんなこと言ってないで、後始末してください。兄さん。」


「兪貴、家出したかと思えば、整形でもしました?」


「私を見て、兪貴だと言い当てるんなら、わかってますよね?」


キールは雅を頼って、異世界に渡った。おそらく雅はそれを放置した。その結果、雅の傍にいた赤ん坊である私に取り憑いたのだ。

おかげで私は両親に似てないから不倫かと離婚騒動になるわ、離婚したがいいが引き取り手はいないわで大変な目にあったのだ。…ということで、私はほぼ兄に育てられたのだ。さらに言うなら、兄が私を妹として溺愛していたのは、取り憑かせてしまった罪悪感からだろう。


「分かっていますよ。こうして大人しく召喚されたのですから。こうなった以上、兪貴に協力しますよ。」


これで私の下準備は整った。私は微笑んで、雅に計画を伝える。


----妖精抹殺計画、開始。





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