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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。
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ソーマとキール

現れた二つの人影の姿がはっきりと確認できた。

一人はゆるやかに波打つ白い髪、桃色の瞳、浮世離れして美しい顔立ちの少女。

もう一人は、赤い髪に金の瞳、褐色の肌をしている青年で異国のような見慣れない衣装を纏っている。


「ティタニアと精霊王だ。用心しろ。」


隣にいた魔王アガレスが、俺だけに聞こえるよう小さな声で警告した。


「久しぶりね〜、キール。そしてクラウンも。」


少女ティタニアが場に似つかわしくなくのんびりと言う。


「珍しいね。ティタニアが聖域から出てくるなんて。」


応えるキールにも緊張感はない。反対にクラウンは癇癪を起こす。


「姉様、また僕の邪魔をしにきたの!?」


「そう言うわけではないわ〜。あなたがわたしの邪魔をするから、排除しただけじゃない。」


なんか…クラウンと同類の発言をしたぞ、それでいいのか。

アガレスが俺に警告した意味が分かった気がした。


(……妖精はみんな、敵……)


さらにはサラが俺の中で爆弾発言を投下する。

確かに思い返せば、今までの妖精は自己中って感じがありありとにじみ出ていた。


「さあ、キール!闇の精霊の力でクラウンを拘束するのよ〜!」


ティタニアはやっちゃえ!とばかりにクラウンを指さした。

キールも軽く応えて傍に転がっていた剣を手に取る。カレンがゆきを刺したあの剣だ。


キールはその剣を軽く構えて、切っ先をクラウンに向けた。対するクラウンは大量の魔力を放出し、俺では近づくこともままならない。

しかしキールは臆することなく、クラウンに近づいていった。

そして魔力の圧でクラウンが吹き飛ばそうとした刹那、キールが一瞬で間合いを詰めクラウンの懐に入り込む。

一閃。ひとつの首が宙を舞った。

アルカの首が舞っていた。


「---え?」


キールは知らないのか?

俺の代わりにアルカの体がクラウンに乗っ取られていたことを知らないのか?


俺にはどうやってキールがあの魔力の圧の中を一瞬で間合いを詰めたのか、見当もつかなかったが、事実としてクラウンの首がキールによって刈り取られている。

クラウンを倒すのに文句はないが、あれはアルカの体だ。

ジンの例を鑑みるとそれでも再生するのかもしれない。だが、キールの太刀筋には一遍も躊躇いがなかった。


分離されたクラウンは頭と胴をそれぞれ結界で封じ込められている。


「出してよ!僕を閉じ込めるなんて何を考えてるの!!僕はこの世界の王なのに!」


案の定頭だけになっても生きているようだ。クラウンは戯言をまき散らしている。


「アルカはどうなるんだ?」


俺はアガレスに尋ねた。


「さあな。妖精を殺す術がないゆえ、ティタニアがまた封印を施すのだろう。封印の準備が整うまでは、闇の空間に保管されるのではないか?」


俺が聞きたいのは、アルカに憑依したクラウンをどうやって引き剥がすかということなのだが、おそらくアガレスはそれを知ってわざとずれた答えを返したのだと思う。

つまり、もうアルカを救う術はないのだ。


この世界は、狂っている。いや、すべては妖精に狂わされている。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




----後日----


アガレスの言った通り、クラウン・ジン・教皇の三人は胴と頭を分離された上、それぞれを結界に閉じ込められて、闇の空間に保管された。


カレンはセフィルという傍観者に洗脳を受けていたようで、その際ゆきを刺したことによる精神的なショックで寝台から出られなくなっていた。今は王宮の一室で静養している。


ゆきは相変わらず行方不明のままだ。アガレスが言うには、ゆきはキールに半分憑依されていたが、そのキールを無理矢理引き剥がしたことで人格・記憶をすべて失ったそうだ。しかし、人格も記憶もすべて失った者があそこから自力で逃げ出せるはずがない。誰かがゆきをあそこから連れ出したのか、人格も記憶も失うことなく自力で姿を眩ましたのか。俺は後者であると信じている。


そして俺は今、王宮で生活している。元の世界に戻る術は確立されており、アガレスがゆきを探して連れてくるのを待っている状態だ。


教会では上層部のすげ替えが為され、それと同時に聖職者の断罪が行われている。

教会が信仰しているホルテ教は、建国当初より崇められてきたものらしく、ミラコスタ国民のほとんどがこのホルテ教徒だそうだ。突然の教会崩壊により、教徒たちが国王に反感をもたないよう事情説明やらに王宮は奔走している。


ティタニアとキールもこの王宮で暮らしており、人間の事情など知らぬとばかりに、王都観光だのにいそしんでいるようだ。


「みんなが精霊に意識を向けていない今、私は自由に行動できるの。」


突然、俺の前に現れた精霊は、開口一番にそう言った。


「初めまして、私は国王ジェラールと契約している水の五大精霊 ミーアよ。」


青い長髪の美しい女性は名乗って、ソファに腰掛ける。そして俺に正面に座るよう勧めた。

サラも顕現し、ミーアの隣に座る。


「何が始まるんだ?」


突然精霊に押し掛けられる用など思いつかず、俺は問うた。


「忌々しい妖精の排除を少々。あなたには多大な迷惑を被っているでしょう?だから今回の召喚のあらましを教えないと、と思って。」


「……あなたには、知る権利がある。妖精の所行の数々を……」


俺には、知らないことがたくさんある。

アガレスには軽くこの世界の事情を聞いたが、それだけではすべての事態を把握することはできなかった。


「すべての始まりは、旧ミラコスタ国の王女として妖精女王ティタニアが生まれたことよ。もともと精霊は自然そのもの。意思を持つのはわたしたち五大精霊と精霊王以外にいなかった。しかし、ティタニアに続き生まれたクラウンが、精霊を支配しようとしたことにより、すべての精霊が小さな人間に似た姿と意思を持つようになってしまったの。さらには精霊の支配を巡ってティタニアとクラウンが衝突。この争いで旧ミラコスタ国は滅びたわ。」


妖精二人の争いで国が滅びるなんて、驚きだった。


「その争いで精霊王はティタニアに魅了された。嘆かわしいことに私たちはティタニアに管理される存在となった。聖域も乗っ取られ、今でも精霊王はティタニアの下僕に成り下がっているの。私たちは妖精の存在しなかった頃に戻りたい。」


「……妖精を排除したい……」


妖精はいろんなところに迷惑をかけているらしい。いや、迷惑というよりは災害のようなものといった方がしっくりくる。


「ほかの妖精は、なにをやらかしたんだ?」


「セフィルは昔はまともだったわ。賢者と共にミラコスタ国の立て直しに尽力し、それからはティタニアとクラウンの監視に務めていたわ。今では、異世界からきたあなたたちを利用して邪魔な妖精を排除しようと企んでるようだけどね。光の五大精霊 ティルカがセフィルに魅了されたわ。」


セフィルといえばカレンに手をかけた奴だ。


「ジンとイフリートは、クラウンに魅了された下僕よ。」


「……イフリートは教皇……」


なるほど教会のトップがクラウンの手先だったから、好き放題できたわけだ。


「キールは闇の五大精霊 シヴァを魅了したわ。そのうえ、ジンに唆され、異世界に逃げ込む始末よ。賢者を頼ったようだけど、関係ない子に憑依していたし…その子が一番被害を被っているわね。」


その子はゆきのことだろう。だが、異世界に逃げて、賢者に頼るってまるで賢者が異世界出身のようだ。


「賢者は異世界からきたのか?」


「ええ、そうよ。賢者ミーヤは異世界からきたの。その召喚陣をもとにあなたたちが召喚されたのよ。賢者の本名は何だったかしら…?」


本日一番の驚愕だった。俺たちの前に異世界トリップした人がいるなんて!


「まあいいわ。話を元に戻すわ。残る妖精は二人よ。この二人は純粋な妖精ではないの。あなたも知っているアガレスは私たちの味方。建国の女王とセフィルを親とするため、彼には寿命と死があり、妖精に翻弄され続けているこの世界を憂いている。異世界の人間を巻き込むようになってからはなおさらね。けど彼は、闇の精霊によって行動が監視されているから、目立ったことはできないの。」


俺たちが倒すよう言われていた魔王が一番の協力者ってとんでもない状況だな。なんか驚くことが多すぎて、麻痺してきた。とりあえず妖精は災害ってことでいいだろう。


「最後になったけど、アシュマは最も注意すべき妖精。ティタニアと精霊王を親とするバケモノ。彼は人間に混じって生活しているだけで今までなにかを起こしたことはないわ。でも彼の実力はティタニアやクラウンを凌ぐから、警戒するにこしたことはないわ。」


あの商人のアシュマが裏ボスなのか。気のいいお兄さんって感じだったのにな。


「アシュマには私たちの眷属を監視につけているの。その子たちが言うには、アシュマがアマギを拾ったって……」


「……は?」


「アマギったら妖精皆殺し計画をたてているらしくって、私たちの仲間が増えて嬉しいわ!」


「………はぁ!?」


ゆき…おまえは何を目指しているんだ。

遠い目をする俺をよそにミーアとサラきゃっきゃと喜んでいる。


「あ、それとさっきジェラールに聞いたんだけど、拘束していたクラウンたち三人の姿が見えないらしいわ。アマギったら行動が早いのね!」



……もう俺、ついていけないっ!





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