カレンと傍観者
どうも、こちら絶賛拉致られ中のカレンです。
目の前には、土下座しているティルカと気怠げな美少年がいます。
「ごめんね、カレンちゃん。ぼ、ぼくは誘拐なんてしたくなかったんだけど…こうするしかなかったんだ」
純情系ショタのティルカがいいわけを並べたてるのですが、わたしは全く事情が飲み込めていません。
わたしの困惑を看てとったのか、美少年の方が口を開きました。
「我がおまえを連れてこさせたのは、すべての始末をおまえにしてもらうためだ」
ますます意味がわからないのですが……この美少年ったらわたし好みの低く掠れた美声です!
そうと分かればお近づきになるためにも、とりあえず!
「ぜひお名前を教えてください!」
「…………セフィルだ」
「…………カレンちゃんってほんとにメンクイだね」
ティルカが呆れた目で呟きましたが、黙殺しときます。
「それでセフィルさんが言ったすべての始末ってどういうことですか?」
異世界トリップから続くわたしにしてみれば異常なことについて、彼はなにか知っていて、わたしに何かを成させようとしているのだと思う。
「順を追って説明しよう。まずはこの世界における長き対決についてだ」
「それって人間と魔族の戦争のことですか?」
わたしの問いにセフィルは首を横に振ります。
だけど魔王を倒す勇者としてわたしたちがこの世界に召喚されたのが始まりで、わたしたちは人間と魔族の戦争を終わらせるためにきたはずです。
「魔族は長命種、人間は短命種と呼ばれ共存していた頃、魔族と人間の間にはじめて子を授かったのがすべての原因だろう。のちにその子らは妖精と呼ばれるようになった。かくいう我も妖精だ。序列はティアラ、クラウンに続き3番目になるだろう」
そんな事言われても全然誰か分かりません。けど、精一杯神妙な顔をして聞いておく。
「妖精というのは厄介な事に死なぬ。今、ティアラは妖精女王を名乗り、クラウンは妖精王を名乗り反目し合っている。一度はクラウンが敗北し、封印されたものの、また奴はすぐ近くに復活するだろう。」
妖精って言ったらファンタジー世界の小さくてふわふわした愛くるしいマスコット的存在じゃないですか。なんでこんなに戦闘種族っぽくなってるんでしょう?しかも等身大ですし・・・
「さて、17年前に前勇者キールが前魔王を討ち取り死んだのは知っているだろう。その両者ともが妖精であり、彼らはティタニアとクラウンの代理として戦ったにすぎない。」
「……?人間側にティタニアの手下のキールさん、魔族側にクラウン?の手下妖精がついたってことですか?」
なんというか…妖精の争いに人間と魔族が巻き込まれているという感じなのです。
「そうだ、クラウンにつく妖精は二体、元ティタニア側のジンと前魔王のイフリートだ。対するティタニア側の妖精は三体、キールに現魔王アガレス、商人のアシュマだ。」
「アシュマさんて妖精だったんですね。…ていうか、キールさんも前魔王も死んでるんじゃないですか?」
「妖精は死なないと言っただろう。キールは肉体と魂を分離させる術式で妖精を殺す術を生み出そうとしたが、それは失敗した。結局、その術式を受けたイフリートは、肉体こそ消滅したものの現教皇に憑依した。同じくジンに唆され、その術式を受けたキールもまた肉体を凍結させたものの……。」
不自然に言葉を切ったセフィルにわたしは首を傾げます。
とりあえずキールさんとイフリートは生きていると、いうことですね。しかも憑依ってなんだか怨霊みたいです。
「それで、キールさんもまた憑依したのですか?」
そうなのだが……、となんだか煮え切らない様子でセフィルは言葉を濁します。
「キールは厄介なことをしてくれたのだ。もともと憑依とは、ジンが独自に編み出したものであり、文字通り他者の肉体を乗っ取るものなのだ。イフリートはそのジンの力を借りてなんなく憑依できたが、キールは違う。魂が消滅することを恐れ、保険をかけたのだ。魂を二分し、一方を契約していた闇の五大精霊シヴァに受け渡し、一方は世界を渡って相性の良い赤子に憑依したのだ。」
世界まで渡るとは凄いですね。でも、確かに赤ちゃんに憑依するのは楽そうです。なんたって自我がないのでしょうし…された方はたまったものじゃないですね。
「ちなみにキールが渡ったのはおまえたちの世界だぞ。」
「…なんだか嫌な予感がしてきました。」
さっきからゆきちゃんの姿が脳裏にちらつくのです。
「キールが憑依した赤子の名は----天城 ゆきだ。」
ああ…、ゆきちゃんのこの世界に来てからの行動がしっくりきました。
「今回の召喚でクラウンが復活するための最も相性の良い肉体として緒方 蒼馬が喚ばれ、それに対抗するべくキールである天城 ゆきが喚ばれた。そして我が、藤崎 カレンを喚んだのだ。この不毛な戦いに終止符を打ち、この世界からおまえの世界への干渉を断ち切るために、おまえが必要なのだ。」
この世界からの干渉。それこそがわたしたちが巻き込まれた原因なのでしょう。
「現在、クラウンは教会を拠点にしている。まもなくティタニアに削がれた大量の魔力が溜まる。急ぎ緒方蒼馬を保護しなければならない。そして、キールの魂を天城ゆきから引き剥がしてもらう。」
「引き剥がすことができるんですか?」
「そのために我が作った術式がある。それに必要な魔力も既に込めている。ただ、長年キールの影響下にあった天城ゆきは本来の姿にもどるだろう。キールの美貌も声も知識も失い、残るのは17年間憑依されていたという事実だけだ。記憶すら残るか分からないそれは自我を失うに等しい。今後天城ゆきが全うな人間として生きていけるか分からない、精神だけが赤子のままかもしれない。それでもやってくれるか?」
ゆきちゃんがゆきちゃんでなくなる。でもそれは本来のあるべき姿に戻るだけなのです。わたしならゆきちゃんがどんなになったって受け入れますし、支えます。
「もちろんです!やっとわたしにも真打ち的展開がやってきました!!」
びばファンタジー世界!わたしはやってやります!最後に美味しいとことっていくのはこのわたしなのです!
「---それは良かったよ、これで私も完全になれるね。」
テンションマックス!なわたしにゆきちゃんの声が届きました。




