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二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。  作者: さな
二周目の転生勇者は魔王サイドにつきました。
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ソーマと妖精王

エルネストは、教会の奥へ奥へと進んでいく。


地下へと続く階段にさしかかったところで流石におかしいと気づく。なによりいつも饒舌なエルネストが、最初に言葉を交わしただけで、あとは口を噤んでいる。


「なぁ、エルネスト。どこに向かっているんだ?」


階段を下りながら、俺は訊いた。エルネストは俺が階段を下りきったのを確認してから口を開く。


「---妖精王のもとだ」


その声はひどく嗄れていた。

途端に悪寒が走り、俺は反射的に身を翻す。


『……逃、げてっ……』


遠くでサラの声が聞こえたような気がしたが、俺はすぐに立ち止まるほかはなかった。


後ろには教皇がいるのだ。教皇の視線は、逸らされることなく俺に向けられている。

こいつはヤバい…異様な雰囲気にそう悟った俺は、反射的に剣を抜いて逃げる隙を窺う。


「ホルテ教の唯一神たる女神アウローラは、邪悪なる姉君から身を隠すために使われている”妖精王”オベロン様の仮名である」


教皇は唐突に恍惚とした表情で語りだす。そういえば、エルネスト?も妖精王などと言っていた。


「傲慢な姉君により封印され数百年。ようやくオベロン様の復活の悲願が達成される時がきた。喜ぶがいい、貴殿は”器”に選ばれたのだ」


彼は俺の腕をすごい力で掴んで、引きずっていく。異様な雰囲気に呑まれてか、抵抗しようにもうまく力が入らない。


やがて大きな広間にでる。その広間の中心にあるのは、古い焦げ跡を残した台座に、突き刺さっている大剣。その台座は薄紅の泉の中に鎮座している。


「うん、やっぱり君だったね」


ふわりと、半透明の少年が泉に現れた。半透明ということにも驚きだが、それよりも神々しいまでの美貌と甘美な響きをもつ声に、無意識に跪く。俺の思考はすべてその少年に埋め尽くされる。


この人に見てもらいたい、声をかけてほしい、あなた様が欲してくださるなら喜んで俺の体を----


少年から目が離せない。思考がこの少年一色に埋め尽くされていく。


---バチッと右手に強烈な痛みがはしった。

はじかれるように立ち上がり、浸食されていた思考の渦から引き戻される。


先ほどまでのことは何だったのだろうか。俺は夢を見ていたかのような感覚に戸惑う。


「さすがはぼくの器だね。魅了がきかないなんて……召喚の条件通りだ!」


少年は嬉しそうな声をあげる。


「お、まえは、何なんだ」


気味が悪かった。エルネストと教皇は跪いたままで、一言も発しない。


「あぁ、自己紹介がまだだったね。ぼくは”妖精王オベロン”、君をこの世界に喚んであげたんだよ」


「……は?」


さらりと言われて聞き逃しそうになったが、この少年 オベロンは重大なことを言わなかったか?

一体何がどうなっているのか。キャパオーバーしそうになりながら、必死に頭を働かせる。


「せっかくぼくが”器”を召喚したっていうのに、余分なものが二つもついてきてどれが”器”か判定するのに時間がかかってしまたよ」


”器”というのは俺のことなのだろう。だとしたら、ゆきとカレンは俺の巻き添えで異世界に飛ばされたっていうのか。


「ゆきとカレンは巻き込まれたってことか!?」


「んー、それは少し違うかな?ぼくが君を喚んだのに便乗して、他のやつらが喚んだんだよ。」


天上の声を響かせ、オベロンは俺の問いに答える。


「姉様が喚んだシノノメはキールの体を乗っ取ってぼくに反抗してくるし、傍観者が喚んだカレンもなんか企んでいるみたい……ホント、みーんなぼくの邪魔ばっかりするんだよね。」


どうやらゆきもカレンもコイツを倒そうとしているように思われる。しかもゆきなんていつの間に前勇者を乗っ取ってるんだ…?

ゆきの様子がおかしかったのは、そのせいかもしれない。


今までの話や状況を鑑みると……コイツは今封印されていて、それを解くのに俺が必要。そして、ゆきとカレンはコイツのやろうとしている事を止めようとしている。

……どうみてもコイツの傍にいたっていいことがない。


----よし、逃げよう!


さてさて、今までなにがなんだかよくわからず悩んでいたが、方針は決まった。ならば話は早い。


「みんな邪魔するっていうけど、おまえは何をしようとして邪魔されているんだ?」


質問しながら、ここの間取りを確認する。後ろの先ほど下りてきた階段がひとつ、正面の奥に古びた扉がひとつ。さてどちらから逃げるか。


「まずは姉様が独り占めしてる精霊を取り返すでしょー。そして、ぼくが貰うはずだったこの国も取り返すんだー。そしたら、姉様を殺して、ゆーこと聞かない精霊王も殺してぼくが精霊王になるんだよ。そしてそして、ついでに魔王の座をもらっちゃおう!ぼくはこの世界でただひとりの王になるんだ♪」


つまりオベロンの目的は、世界征服ってことだろう。随分と壮大な夢だな……。


「世界の王になったら、そんなけ広い土地を治めるんだろ?面倒じゃないか?」


後ろのエルネストと教皇は、未だ跪き頭を垂れたままだ。これなら、階段で逃げ切れるか?奥の扉はどこにつながっているのかわからないしな。しかし、上は乱戦状態だ。


「え、治める?なんでそんな事しなきゃなんないのさ?ぼくが王なんだからぼくの言葉に従うものでしょー?目障りなのは殺してしまえばいいんだしー。」


「…どこの暴君だよ…」


あ、やべ、声に出た。後ろから無礼者めって感じの視線がグサグサ突き刺さってくるんですけど!

幸いにしてオベロンには、聞こえていないようだ。もう後ろは振り向きたくない。前の扉から逃げよう、そうしよう!


「そういえば…世界の王になった後の事は考えてなかったねー。そうだ、次は君のいた世界も手に入れたらいいんだ!」


迷惑きわまりねぇよ!


そうツッコミたいのをこらえて、俺はオベロンの横をすり抜け、古びた扉へと走り出した。それと同時に、後ろの二人を創り出した結界で閉じ込める。


しかし、結界はすぐに破られる感覚がした。


「そのまま走れ!」


振り返ろうとした俺は突然の声に従い、扉へ向かう。その先で、扉は外から開かれた。


「ソーマさん!こちらへ!」


そこにはエレナとアルカがいた。俺が二人のもとにたどり着くと、すぐに扉は閉められる。そしてアルカが持っていた本の一ページを破り、それを扉にはりつける。それには術式と思しき魔法陣が描かれていた。


「これは物体を固定する術式だ。今のうちに逃げるよ。」


アルカとエレナが背を向けて、走り出す。何がなんだかわからないが、とりあえず俺は二人についていく。


「えーっと、二人はどこに向かってるんだ?」


俺が困惑していると、走りながらエレナが状況を説明してくれた。


「わたしたちは、国王様にお仕えしている密偵です。勇者樣方の動向を見守り、安全を確保するよう仰せつかっています。」


二人は国王側の人間らしい。つまり二人についていけば、ゆきに会えるかもしれないのだ。


「しかし力及ばず、シノノメさんもカレンさんも見失ってしまいましたが……」


沈んだ面持ちで言うエレナに俺はあれ?と首を傾げる。


「え、ゆきはさっきいただろ?国王の隣に……」


俺の言葉にエレナもまた首を傾げてきた。……あれれ?


「キール様とアガレス様しかおられなかったように思われますが…」


「あー、そういえばオベロンとか言う奴が、」


ゆきはキールの体を乗っ取ったって言ってた。

俺は最後まで台詞を言えなかった。


「オベロン様に体を捧げる栄誉を棒に振るという気か。」


俺の後ろに教皇が迫ってきていたのだ。何故ここまで接近されていてきづかなかったのか。

アルカが即座に本から1頁破って、教皇に投げつけた。頁に書かれた魔法陣から白い煙が勢いよく吹き出す。煙幕だ。


「エレナ、後は頼むよ。最後の勇者を死守するんだ。」


「はい…!」


俺は痛いくらい腕を掴まれ、煙幕を抜け出す。俺の腕を掴んでいるエレナは、後ろを振り返ることなく、薄暗い通路を速度を上げて駆けていく。


アルカが足止めに残ったことに気づき、俺は引き返そうとしたが、エレナが決してそれを許さなかった。


「申し訳ありませんが、ソーマさんでは教皇に敵いません。しかし、アルカなら時間を稼ぐことができます。もう少しで、仲間が待機している場所につきます。それまで走ってください。お願いします。」


エレナは震えた声でそう言う。顔は前を向けたままだった。

彼女の言う通り、サラと繋がりが断たれている俺では教皇に対抗する手段がない。けれど、アルカは確実に教皇の手にかかってしまうだろう。やはり引き返そう。狙いは俺なんだから、俺が行けば他には手を出されないはずだ。


覚悟を決めた俺は、エレナの手を引きはがした。


「ソーマさん!」


エレナの非難まじりの声が、地下通路に反響する。


「だって俺には二人に守られる価値はないし、俺をかばってアルカが死ぬなんてことになったら後味悪いし……じゃ、そういうことだから!」


言うだけ言って、俺はエレナに背を向けた。しかしその出鼻は挫かれてしまう。


「まさか俺の所にくるとは……アマギが悔しがるだろうな。」


エレナの行く先から一人の青年が姿を現した。












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