〜過去〜 魔物と妖精2
影の空間から出てきたそこは、まだ森の中だった。
少女に手を引かれ森を抜けると、王女様がいた。褐色の肌の青年も一緒だ。
「ゼノ~、契約できた~?」
ゼノというのが少女の名前のようだ。王女 ティアラは間延びした口調でゼノに尋ねる。
「まだこれからなの。闇の長に邪魔されたのよ!」
「仕方あるまい。闇の長に空間を借りただけでも驚きだ」
憤慨したゼノに青年が応えた。
ゼノはくるりとこちらに向き直ると、態度を改めて、言った。
「あたしはあなたと契約を結びたい。契約によりあなたを縛ることはなく、あたしはあなたの唯一無二の存在としてあなたと共にあり続ける。契約に是と、答えるのならあたしの手を―――」
ゼノが手を差し出す。わたしはその手を迷うことなくとった。
「契約とかよくわからないけど、ずっとそばにいてくれる?」
初めてわたしを助けてくれたゼノと一緒にいたかったんだもの。
ゼノは満面の笑みで頷いてくれた。
◇◇◇◇◇
わたしは王城で暮らすことになった。わたしの身分は王女様の小間使い。
小間使いと言っても、それはわたしが王城で暮らすための身分で、実質的にはわたしはティアラ様の友人だった。
わたしはまず、文字や歴史など教育を受けさせてもらっている。この世界は今、非常に危うい均衡関係にあるらしい。
この世界では、人間は二つの種類に分けられるそうだ。
ひとつは短命種。短命種は60歳前後の寿命をもち、精霊と契約する力を得ている。
もうひとつは長命種。長命種は200歳前後の寿命をもち、短命種より強靭な肉体と多くの魔力を持つ。
わたしの住んでいた村は短命種しかいなかったがために、余計にわたしは迫害の対象だったのだろうと王女様は言っていた。
わたしは短命種と長命種の間に生まれた特殊な人間で、妖精と呼ばれているらしい。
王女様は最初の妖精として短命種と長命種が入り交じるこの国の象徴なのだ。
現在、国々は東と西に分かれ、短命種と長命種の二極化が進んでいる。東西の中間にあるこの国の名はミラコスタ、おそらく最後の中立国だ。
そのため、王女様は日々、小さな争いを繰り返す国々の対処に追われているようなのだ。
そうして、数年が経った後に、王女様はこの国の新たな女王として君臨することとなった。
わたしはそんな新女王ティアラ様の側仕えとなり、恩人でもある彼女に尽くしていた。
……とある妖精を見つけるまでは――――




