第10話 ポチとクーさん
「……え?」
あまりの出来事に呆然と突っ立っていたボクの前に、瞬間移動のようにポチが現れていた。
優雅な仕草で跪くと、恭しくボクの手を取って口付けする。
そしてポカンと口を半開きにした間抜け面のボクに向かって、こう言いやがったのだ。
「真名を頂けたことで、このような姿を得られました。
このポチ、アルツァ様を我が殿として永遠の忠誠を捧げます」
「って……えええ~~!?」
な、なに? ワガトノって……??
呆然に続いて唖然の態で突っ立つボクを、ポチのけっこうなイケメン面が見上げて、
「殿、一体何を驚いておいでで?」
ぬけぬけとこう申しやがりました。
「…………」
これがボクの精一杯。
いや、ナンというか、ジョブチェンジして一人称こそボク(←まだちょっと現実に対して抵抗中、ここんトコ重要)になりましたが、だからといって……野郎に手を握られたり、ましてやそこにチュッなんてされても…………嬉しくも何ともないんじゃ~~!!
イケメンだったら何でもありだとは思うなよ!
許すまじ、ポチ!!
チワワの名前なんか付けてちょっとは悪いと思ってたけど、オマエなんか一生ポチで決定だ!
「これこれポチ、アルツァさんが驚かれて居るではありませんか。
お許しも得ずに、そのようなことをしてはダメですよ」
ソピアさんが「はっはっは」と、空々しく笑いながらポチに手をひらひらと振っている。
さながら悟空を生暖かく見守る三蔵法師のようだな。
う~む、絶対に楽しんでるよなこのヒト。
ポチも「ははっ、それはまことに失礼なことをいたしました」なんて言ってるのにボクの前から動かないどころか、さっきよりもキラキラした目つきで見上げてるし。
どーする、どーする俺、っていうかボク……。
心の中を吹き荒れる嵐(激風)に身体をぷるぷる震わせていたボクだったが、ふとあることに気づいた。
……クーもポチと同じようなヤツだったら……うぁ~~っ! ど~すんだ!?
あのモジャモジャのお髭がボクの手の甲をジョリッ、とキて、分厚い唇がムチュ~ッ、と……うおおおお……考えただけで天元突破しそうになったわ!
抱きしめられたら……骨が砕けますね、マジで。
その前にココロのほうがコナゴナに砕けるとはオモイマスガ……。
ですが、
「あいや、ポチ殿、待たれい!
そなたのその振る舞い、殿に対して無礼であろう」
黒騎士クーさんからのまさかの発言。
おっ、これは何だか違う雰囲気だな。
ちょっと武士っぽいが、ポチに比べると真面そうだ。
「いやですねクーさん。
ほらこの通り我が殿は迷惑そうになど、されて居られないではありませんか」
イケメン=ポチがニカッと笑った。
うわ~、白い歯がキラン! と輝いてるよ。
さっきまで唯の死霊騎士だった筈なのに、エライ変わり様だな。
死霊騎士一騎で、普通の騎士百騎に相当すると言われているから、「唯の」なんて表現はそもそもあり得ないのだが、ここは敢えて「唯の」と言わせて貰いたい。
「なんと! そうであったか。しからば拙者も」
うおー! 拙者もじゃねーよ! アナタもなのですかクーさん。
と思う間もなく、これまた音もなくボクの前に傅いた黒騎士クーさんであった。
「殿、拙者にもお手を許していただけませぬか」
無断でチュッとはしないのか。
クーさん、出来るヤツだな。
「いやちょっと、手はですね……」
躊躇うボクを見てクーさんは何かを察したようで、
「そうでござるか。
見たかポチ、やはり殿は嫌がっておいでではないか」
隣に控えているポチにそう言った後、ボクのほうへ向き直った。
「然らば拙者に騎士の誓いを立てさせていただけませぬか」
ボクの騎士になるってのか?
ソピアさんが門番としてクリエイトしたと聞いているし、さすがに拙いのでは。
「え~と、ソピアさん?
クーさんがこのように言われてるんですけど、本当に宜しいのですか」
おそるおそる尋ねたボクに、ソピアさんがじつに軽い調子で、
「ええ構いませんよ。
死霊騎士でしたら、とくに問題なく死成出来ますし。
彼を貴女の輩に加えてあげてください」
死霊騎士2体を同時にクリエイトする死霊騎士死成は第六階梯魔法だが、そんな高難易度魔法を簡単に行使できるとは、ひょっとしてソピアさんは第六階梯でもカンストに近い高レベルなのだろうか。
「わかりました。
それではクーさん、あなたの剣の誓いを受けましょう」
「おお! 拙者の剣を受けてくださるか」
感極まった様子でクーさんが背中から巨大な両刃の大剣を引き抜いた。
「おいっ! クー、お前だけなんてズルイぞ!」
その横でポチが何か叫いているが当然無視だ。




