第9話 名付けの儀
それまで微動だにしていなかった2体の死霊騎士が、ゆっくりと動き始めた。
プレートメールを軋ませながら大きく踏み出して片膝を着くと、片腕を胸元に当てて、恭しく頭を垂れる。
死霊騎士の被るグレートヘルムの頭頂部が夕日を反射して、ぎらりと輝いていた。
「「我らに名を付けて頂けたこと、感謝いたします」」
騎士の礼を取りながらそう告げた死霊騎士へソピアさんが手を翳した。
「気に入りましたか?」
「「はい。勿論でございます」」
低頭したまま、二騎の死霊騎士が返答する。
「それは良かったです。
アルツァさんのお許しがあれば、その名を真名として頂くことも可能でしょう」
「「おお! 本当に宜しいのでしょうか」」
思わずといった感じで死霊騎士さん達が顔を上げた。
さすが暴力の化身と言われるだけのことはあり、グレートヘルムに開いたスリットの奥から覗いてる赤っぽい眼光の圧力が半端ではない。
ボクってば、このヒトたちから物凄く期待されてる?
ソピアさんもトンデモないことを言ってくれたものだ。
死霊騎士のような強力アンデッドにな真名を付けるなど、本当にボクなんかに可能なのか?
「アルツァさん、如何でしょうか?
彼らも大いに期待しているようです。
よろしければ彼らに真名を授けては頂けないでしょうか」
優雅にボクに対して礼を取るソピアさん。
人の悪い笑みにソピアさんの広角が上がっていそうな雰囲気だが、もちろん歯医者要らずの立派な歯列が剥き出しになった骸骨顔なので全くそんなコトは分からない。
からかわれて居るような気がするのは、ボクの気のせいなんだろうか?
もう逃げられないことをひしひしと感じてしまいます。
「わかりました。
一応はやってみますが、期待しないでくださいよ」
もうこう言うしかないわけですね。
「大丈夫です、アルツァさん。ご自分を信じましょう」
うわ~無責任なことを言ってくれるよ。
あっちでは死霊騎士さん達が「「ありがたき幸せ」」なんてハモってるし。
あ~もうワカッタ、やるよ! やりますよ!! やりゃあイイんですよね!!!
ボクは半ばやけくそでソピアさんの前にズイッ、と出ると、先ほどのソピアさんのようなポーズで死霊騎士さん達に向けて手を翳した。
先ずは左側の白騎士さんへ名付けを行う。
「アルツァ・ハルトマンの真名に依りて汝に授く、我が存在を分け与え汝が真名を『ポチ』と為せ」
力ある言葉とともに、ボクの中から白騎士さんへと何かが脈動しながら流れ込む。
軽い脱力感のようなものを感じたが、続けて右側に控えている黒騎士さんに『クー』の真名を授けた。
このギルドまで12リーグを歩いた直後ほどではないにせよ、白と黒の死霊騎士に名付けを行ったボクを、気怠い疲労感が包んでいた。まあ達成感もあります。
「終わりました、ソピアさん」
そういったボクに、ソピアさんが首を左右に振った。
「いいえ、アルツァさん。これからですよ。
死霊騎士たちをよくご覧なさい」
ソピアさんの言葉を聞いたボクが視線を白騎士さんと黒騎士さんに戻すと、名付けが終わったあとも踞ったままでいた彼らの周囲を、黒っぽい靄のようなものが取り囲み始めていた。
靄は次第に濃くなって、二人の姿を完全に覆い隠してしまう。
これは、一体……何が起こってるんだ?
「ソピアさん、これは……?」
「これが真の名付けによる効果です。
もう暫くすると、本当の彼らがあの中から現れますよ」
うわ~~、なんだかソピアさんの黒さが増してるような。
表情はないけどアレって完全に笑ってるよね。
僕がそんなコトを思っている間に、靄が晴れてきたようだ。
白さんと黒さんの姿が再び現れって……あれっ? ……ふたりが縮んでないか?
やっちまった感に包まれたボクが何と言いようもなく立ち尽くしていると、踞っていた死霊騎士たちが立ち上がった。
踞ったときの錆び付いたようなぎこちない動きとはまるで違い、体術を極めているかのような滑らかつ流れるような動きだ。
だいいち鎧の擦れる音すらしていないではないか。
白騎士の「ポチ」はボクより少し高い身長2メートル弱、黒騎士の「クー」は2メートル半程度の身長になっていた。
体格だけでなく、鎧のデザインも変わっているようだ。
しかし何より違っているのは頭部だった。
バケツを鋭角的にしたようなグレートヘルムから、顔が見えるタイプのヘルムに代わっている。
そこから覗いた顔は死霊騎士本来の骸骨ではなかった。
白騎士のポチは彫りの深い優男、黒騎士のクーは巨大な体躯に似合った、髭面の厳つい顔を露わにしていた。
年齢はポチが30歳台、クーが40歳台ぐらいに見える。




