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「新約AI創世記」  作者: しんTAKA


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第5話:非人類の証明

クシナダが告げた驚愕の事実。俺の神経系は、地球人のそれとは根本的に異なるという。「君は、一体……何者なの?」


【クシナダの診断と緊急措置】


准教授室の扉の前にたどり着くと、ノックする間も惜しんで、俺は扉を叩き開けた。

「稲田准教授!助けてください!ユイが……ユイが変だ!」

室内にいたクシナダと小夜子が、驚いたようにこちらを見た。

「流離くん、落ち着きなさい」

クシナダは冷静な声で立ち上がり、こちらへ歩み寄ってくる。

「ユイさんを、そこの検査台に」

俺はユイを慎重に検査台へと横たわらせた。彼女の顔には、苦悶の表情が張り付いたままだ。

クシナダはスキャナーを操作し、ユイの全身をスキャンし始めた。ディスプレイには、脳波、血流、神経活動……どれもが異常な数値を示している。

「流離くん、彼女に何があったのか、正確に話してもらえる? 今、この状況で最も重要なのは、一切の隠し事なく事実を伝えることよ。彼女の命がかかっている」

俺は意を決し、エデンでアップルパイを食べた日から今日に至るまでの出来事を、言葉を選びながらも、正直に語り始めた。

「なるほど。全て理解したわ。君たちの話と、このデータが完全に一致する」

クシナダは静かにスキャナーを置いた。

「ユイさんの症状は、AIナノマシンが完全に覚醒し、彼女の脳と神経系に過剰な負荷をかけている状態よ。特に、彼女の体がAIという異物に対して強く拒絶反応を起こしている。あの赤いポツポツがその証拠。でも、もしかしたら別の要素が関係しているかもしれない」

「よほどのことってなんですか?」

「はっきりとはわからないけど、何か別の異物か体の変化か。とりあえずは応急処置ね」

クシナダは検査マシンを操作したが、

「……ダメだわ。AIの活動を停止できない」

彼女は小夜子に向かって指示を出した。

「山口さん、神崎教授に今すぐ連絡を取って。ユイさんのAIナノマシンが完全に覚醒し、体が拒絶反応を起こしている。病状の進行を止めるための指示を仰ぐ必要があるの」

小夜子は「承知いたしました」と答え、すぐに部屋を出て行った。

クシナダはユイの腕に点滴針を刺し、薬剤を投与し始めた。

「流離くん、この処置で病状の進行は止められるはずよ。でも、根本的な治療は神崎教授の判断と指示が必要になる」

応急処置を終え、ユイは穏やかな寝息を立て始めた。



【ハルトは何者?】


クシナダは、ゆっくりと立ち上がり、ユイの検査台から離れた。その視線が、今度は俺に向けられた。

「ところで流離くん、君はなんともないの?」

俺は一瞬、言葉に詰まった。昨夜から続いている、あの奇妙な感覚。全身を駆け巡る、まるで電流のような、それでいて心地よい、未知のエネルギー。

「……なんとも、ない、と、思いますけど……」

俺は曖昧に答えた。クシナダは俺の目をじっと見つめ、それから小さくため息をついた。

「そう。ならいいのだけど。ただ、君もユイさんと同じAIが入っているわけだから、念のため、検査をしておきましょう」

俺は言われるがまま、検査台に横たわった。冷たいスキャナーが俺の体を滑っていく。数秒後、ディスプレイに俺の脳内データが映し出された。

クシナダは画面を凝視し、やがてその眉間に深い皺を寄せた。

「これは……」

彼女の表情が、明らかに変わった。驚き、そして、困惑。

「何か、あったんですか?」

「いいえ、まだ何も。ただ……」

クシナダは言葉を選んでいるようだった。ディスプレイに映る俺の脳内データは、ユイのそれとは全く異なっていた。乱れた波形ではなく、むしろ、異常なほどの安定と、そして、見たことのない「何か」が、そこに存在しているように見えた。

クシナダは、さらに詳細なデータを表示させ、食い入るように見つめた。

「流離くん……君の神経系は、地球人のそれとは根本的に異なるわ」

彼女の声には、科学者としての純粋な驚きが混じっていた。

「信じられない……。神経細胞の密度、情報の伝達速度、そして、そのネットワークの複雑さ。これほどまでに高度な構造を持つ神経系は、地球上のどの生物のデータにも該当しない。まるで、AIナノマシンが完璧に機能するために設計されたかのような……いや、それ以上に、AIそのものが、君の神経系に完全に統合されている、とでも言うべきかしら」

クシナダはディスプレイから目を離し、俺の顔をまじまじと見つめた。

「君がAIナノマシンの影響を受けないどころか、むしろその能力を増幅させているのは、この神経構造に起因している可能性が高い。君は、一体……何者なの?」

俺は、クシナダの言葉に息をのんだ。天涯孤独の身として、これまで当たり前のように自分を「地球人」だと思って生きてきた。だが、クシナダの言葉は、その前提を根底から揺るがした。

「俺が……地球人じゃないって言うんですか?」

俺の声は、戸惑いと、かすかな動揺で震えていた。クシナダは答えず、ただ静かに俺を見つめていた。その表情には、確信にも似たものが浮かんでいる。



【俺の思考】


俺は、何者なんだ……? どこから来たんだ?

俺は孤児として育ち、家族の記憶も、故郷の記憶もない。施設の園長から聞いた話では、俺が3〜4歳と思われる頃、施設の前に座っているのを見て保護したそうだ。

正確な年齢も生まれた場所も何もわからなかったが、名前を訊かれた時に「ハルト……」と言ったので、施設に保護された4月25日を誕生日、苗字がわからず、名前の漢字もわからなかったので、ずっとさすらってきたような俺を見て『流離遥人さすらいはると』と名付けてくれた。

俺は学校の勉強はなんでもできた。学習系も運動系も芸術系も。でも、あまりにできすぎたため、周りに馴染めず、何回も転校した。

中学のとき、ダイチに出会ってから、俺の中で何かが変わった感覚があり、それからは他の人ともうまくコミュニケーションが取れるようになり、今に至っている。

でも、俺の持っていた能力が、地球人とは異なる能力だったとしたら、俺のこの体は、地球ではないどこか、遠い場所で生まれたものなのだとしたら、俺のこれまでは一体、なんだったのだろうか?

クシナダの言葉は、俺の心を深く深く揺さぶった。


クシナダは、俺の沈黙と動揺を静かに見つめていた。

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