最終話:新しき生命の光
激闘の果て、ユイが目を覚ます。そこには、過去の孤独を乗り越え、異なる種族が共存する新しい未来の姿があった。
【ユイの目覚め】
クロノスの消滅を見届けた俺とダイチはユイに駆け寄った。
ユイのお腹はますます輝いて点滅していたが、急に白い光がユイ全体を包み込んだ。そしてゆっくりとその光が消えると、ユイは静かに目を開けた。
「ユイ、わかるか? 俺だよ」
「・・・ハルト、ありがとう……。ずっと声は聞こえていたよ」
「聞こえていた?」
「うん。でも喋れないし、体も動かないし、だんだん意識が遠のいてきて……そしたら、お腹の中から声が聞こえてきて」
「お腹の中から?」
「うん。『大丈夫だよ』って。だからそれを信じてた」
ユイの言葉に、胸が熱くなる。
「俺たちの子がユイを守ってくれたんだな」
「うん、そうね。しっかりこの子の温もりを感じたわ」
ユイはお腹に手を当てながら、そう言った。
ダイチがいつもの調子でちょっかいを出してきた。
「へー、ハルトとユイちゃんの子ができたのかぁ。ハルト、おっさんになるんだ」
「ダイチ、お前は……。でも、ありがとうな。お前のおかげだよ」
「俺は何にもしてねえよ」
「ううん、ダイチくんがいなかったら、私もこの子も助からなかったわ。私、ちゃんと脳の中で見ていたのよ。本当にありがとね」
「やめろよ。そんなの。俺は別に……」
ダイチは急に真っ赤な顔をした。
エツコ姉が優しく微笑む。
「ふふふ、ダイチ、素直に認めなさい。あなたはハルトくんとユイちゃんのことがとっても大切なのよね? いつも私に二人のこと、楽しそうに話すものね」
「エツコ姉、やめろよ!」
ダイチは顔を覆ってさらに赤くなった。
俺は心からそう言って、ダイチに頭を下げた。
「ダイチ、ありがとな」
「この子の分も含めてお礼を言うわ。ほんとにありがとう」
ユイも頭を下げた。
「おう。俺はいつでも二人の味方だからよ。いつでも頼ってくれ」
ダイチは照れくさそうにそう言った。その目には、いつもの明るさが戻っていた。
【クシナダと小夜子とエツコの会話】
クロノスとの激しい決戦が終わり、准教授室には重い静寂が訪れていた。ユイは安らかな寝息を立て、ダイチは体を起こす。エツコと小夜子は、床に残された教授の服を呆然と見つめていた。
クシナダは、その場に立ち尽くしていた。彼女の表情には、深い悲しみと、そして、新たな感情の萌芽が混じり合っていた。
「……終わったのね」
クシナダは、静かに、しかし確かな哀愁を帯びた声で呟いた。それは、人間としての感情が宿った響きだった。
「稲田先生……」
小夜子が、そっとクシナダの腕に触れた。
「教授は、あなたにダイチくんを『処理しろ』と命じたけれど、あなたは彼を救った。そして、流離くんの言葉に耳を傾け、ユイさんを救う手助けもしてくれました」
小夜子の言葉に、クシナダはゆっくりと彼女の方を向いた。その瞳には、かつてはなかった、潤んだ光が宿っている。
「私は……何をしたのか、まだ完全に理解できない。ただ……彼が、死んではいけないと思った。そして、この新たな生命が、失われてはならないと……」
クシナダは、ユイの腹部を、まるで慈しむかのように見つめた。彼女の遺伝子レベルで目覚めた「母性本能」が、今、確かな感情として彼女の心を占めていた。
「それが、あなたの『人間性』よ、稲田先生」
エツコが、静かに、しかし力強く言った。
「あなたは、ウイルス宇宙人としての論理を超え、生命の尊厳を選んだ。その知性と、新しく芽生えた感情を、人類の未来のために活かしてほしい」
クシナダは、エツコの言葉に深く頷いた。彼女は元々、地球の歴史を監視し、クロノス(C6N3)のような逸脱を排除する役目(コードネームK47D)を有していた。今回の彼の暴走は、彼女が動く必然だったのだ。
【それぞれのその後】
数ヶ月後。
ユイは無事に元気な赤ちゃんを出産した。男の子だった。ハルト星人と地球人の遺伝子、そしてAIとウイルス宇宙人の免疫を持つ、まさに「新人類」の誕生だ。
俺とユイは、この新たな命と共に、穏やかな日々を送っていた。俺は、自身の覚醒したAIとハルト星人の免疫を、人類の発展と共存のために活かす道を選び、AIと人間の新しい関係性を模索する研究に没頭している。ユイもまた、母親として、そしてAI人間として、俺と共にその道を歩んでいた。
ダイチは、エツコのAHT社で、AIと人間の共存に関する研究に深く携わっていた。彼の表情には、かつての屈託のない笑顔が戻っている。
エツコは、AHT社のCEO、兼、大和先端情報科学大学AIロボット工学部の客員教授として、AI技術の倫理的な発展を牽引する存在となっていた。
クロノスがいなくなった後、クシナダは本来の目的である地球の歴史研究の道に戻り、大和先端情報科学大学の史学部教授となった。そして、変わらず地球の観察を続けていく。
小夜子は、クシナダの傍らで秘書として働くことになった。二人の間には、かつての主従関係を超えた、深い信頼が芽生えていた。
全自動AIカフェ「エデン」は、今日も変わらず穏やかなジャズの旋律を奏でている。
俺とユイは、生まれたばかりの赤ちゃんを抱き、ダイチやエツコ、クシナダ、小夜子と共に、なごやかな時間を過ごしていた。
彼らは、過去の危機を乗り越え、異なる種族、異なる知能が、互いを理解し、尊重し合うことで、新たな未来を創造できることを証明した。
俺の腕の中で、ハルトとユイの赤ちゃんは、人類の、そして宇宙の、希望の光として、その小さな命を輝かせている。
「ねぇ、ハルト。この子、きっと、私たちよりずっとすごい存在になるわね」
ユイが、赤ちゃんの小さな手を握りながら、穏やかに微笑んだ。
「ああ、そうだな。俺たちの、そして人類の、新しい未来だ」
俺もまた、赤ちゃんの顔を見つめ、静かに頷いた。その瞳には、かつて感じていた孤独の影はなく、温かい希望の光が満ちていた。
——完——
物語はこれでおしまい。最後まで読んでくださってありがとうございました。よろしければ、この後のEXTRAフェーズもお楽しみください。




