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『追放令嬢は辺境惑星で最強領地を経営する ~前世のゲーマー知識で、私を捨てた皇子たちが食糧援助を請いに来ました~』  作者: とびぃ


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2-3:最初の『クエスト』と次なる一手

「ユニット・ゼロ。最優先事項を伝達するわ」

管理棟の薄暗いコントロールルームで、アストレアは再起動したコンソールを操作しながら、AIに命じた。セバスチャンは、ジェネレーターを酷使した反動で、壁際で予備バッテリーを接続し、ぐったりと休息している。彼のサイバネティクスは、このオンボロAIを起動するために、限界ギリギリまで働いたのだ。

『ハイ。リョウシュ。命令ヲどうぞ』

AIの声は、まだ少しノイズが混じっているが、忠実に応答した。

「水と食料の安定確保よ。メインクエストの制限時間はあと69時間。それまでに、私たちが生存可能な拠点を稼働させなければならない。この星のどこかに、まだ機能している水処理施設、あるいは浄化可能な水源はある?」

これは、彼女が前世でプレイした、あらゆるサバイバル系シミュレーションゲームの鉄則だった。どんな高度な技術も、水と食料がなければ意味をなさない。

『リョウカイ。データベースヲ検索…同期サレタ最新ノ地質データト照合シマス…』

アストレアの目の前のホログラムスクリーンに、エレボスの地殻データが展開される。AIがダウンロードした大戦前のデータと、アストレアのインターフェイスがリアルタイムでスキャンした現在の状況が組み合わさっていく。

『……該当アリ。当施設ヨリ南西15キロ、セクター7-ガンマニ、旧大戦前ノ大規模農業プラントガ存在シマス』

スクリーンに、ある地点がハイライトされる。そこは、ジャンクの山に埋もれてはいるものの、巨大なドーム状の建造物の残骸が確認できる場所だった。

『プラントハ機能停止シテイマスガ、動力源トシテ利用サレテイタ地下水脈ハ、現在モ健在ノ可能性大。汚染デブリ層ノ下ニアルタメ、水質ハ良好ト推測サレマス』

「よし。すぐに、その地下水脈ポンプの再起動を試みなさい。遠隔操作は可能?」

『……試行シマス。……エラー。対象施設ニ、物理的ナ損傷ヲ確認。メイン動力ケーブルガ切断サレテイマス。遠隔操作デハ再起動不可能』

「そう。なら、現地に行って修理するまでね」

アストレアは、即座に結論を下した。休息中のセバスチャンを一瞥する。

(彼をこれ以上酷使するのは危険ね。ジェネレーターの修理には時間がかかる。私一人で行くしかないか…)

彼女のインターフェイスに、セバスチャンのステータスが表示されていた。【状態:重度の疲労サイバネティクス・オーバーロード】。これ以上の無理は、彼の生命維持に関わる。

アストレアが立ち上がろうとした、その時だった。

ユニット・ゼロが、警告音と共に、新たな情報を表示した。

『…警告。セクター7-ガンマノ周辺ヲ、再スキャン…ミカクニンノ生命反応ヲ多数カンチ』

「なんですって?」

アストレアの眉がピクリと動いた。この星の人口は「2名」ではなかったのか。

『熱源、及ビ、微弱ナ電波パターンヲ分析。…チセイタイノ集落ト推測サレマス。規模、約50名。帝国ノ登録ニナイ、未確認ノ種族デス』

「知性体…50名…」

アストレアは、驚きよりも先に、歓喜を覚えていた。

(労働力よ…! 人口50! このクソマップに、初期領民候補が最初から実装されていたなんて!)

どんなシミュレーションゲームでも、人口(労働力)は最も重要なリソースだ。初期人口2名で、どうやってインフラを建設するのかと危惧していたが、これで目処が立った。

インターフェイスにも、即座に新しい通知がポップアップした。

【メインクエスト更新:『拠点の確保』】

・旧農業プラントの地下水脈を確保せよ (New)

・同地に存在する未確認の集落と接触せよ (New)

報酬:安定した水源の確保、農業技術【基本水耕栽培】のアンロック

(先住民…あるいは、私と同じような追放者の末裔かしら? いずれにせよ…)

アストレアの口元に、不敵な笑みが浮かんだ。

「面白いじゃない。この星の『最初の領民』候補というわけね」

彼女は、壁際で苦しそうにしているセバスチャンを振り返った。

「セバスチャン、休めるところ悪いけど、朗報よ」

「…お嬢様…もう、これ以上の無茶は…」

「無茶じゃないわ。『仲間』が見つかったかもしれないのよ」

アストレアは、防護服のヘルメットを再び装着し直した。

「あなたはここでジェネレーターの回復に努めて。ユニット・ゼロ、この管理棟の最低限のセキュリティ(隔壁のロック)は機能する?」

『ハイ。電力ハ、セバスチャン氏ノ供給ヲモトニ、内部ノ予備バッテリーガ機能ヲ回復シマシタ。48時間ハ、隔壁ノロックヲ維持可能デス』

「上等よ。セバスチャンはここで待機。私は一人で、そのセクター7-ガンマに行ってくるわ」

「お嬢様! なりませぬ! 知性体とはいえ、敵対的であった場合、お一人では…!」

セバスチャンが、慌てて立ち上がろうとする。

「交渉は、私の得意分野よ。帝都の腹黒い貴族たちを相手にするより、よっぽど簡単だわ」

彼女のインターフェイスには、すでに【交渉】スキルツリーが表示されていたが、今はまだロックされている。

(まあ、スキルがなくても、前世の知識(ゲーマーとしての交渉術)で十分よ)

ゲームにおけるNPCとの交渉の基本は、相手の「ニーズ」を把握し、こちらの「メリット」を提示することだ。

「彼らがそこにいる理由は、十中八九、その『水脈』よ。つまり、私と彼らは『水』という共通のリソースを求めている。利害は一致しているわ」

「しかし…」

「大丈夫よ。このインターフェイスが、彼らの『忠誠度』や『感情』も可視化してくれるかもしれないしね」

アストレアは、半分冗談、半分本気でそう言った。

「さあ、最初の『領民』にご挨拶といきましょうか」

アストレアは、管理棟の暗闇を後にし、再び赤茶けた大地へと一人で踏み出していく。彼女の小さな背中は、この広大なゴミ捨て場を支配する、唯一無二の「領主」の風格を漂わせ始めていた。

『惑星基本情報』のウィンドウに表示されていた【人口:2名】という絶望的な数字が、間もなく変わろうとしていた。

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