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『追放令嬢は辺境惑星で最強領地を経営する ~前世のゲーマー知識で、私を捨てた皇子たちが食糧援助を請いに来ました~』  作者: とびぃ


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1-4:帝都を後に

アストレアが広間を去ろうとした、その時。

「待ちなさい」

低く、しかし有無を言わせぬ威厳に満ちた声が響いた。声の主は、玉座から静かにこの一部始終を見ていた銀河帝国皇帝、ユリウスの父であった。

皇帝はゆっくりと立ち上がると、階段を数段下り、息子とアストレアを見下ろした。その表情は能面のように固く、何を考えているのか誰にも読み取れない。広間の空気は、先ほどとは違う、凍り付くような緊張感に包まれた。

ユリウスは、父の登場に一瞬たじろいだが、すぐに自分の正当性を主張しようと口を開いた。

「父上! ご覧の通りです。アストレアは、このような罪を犯しながら反省の色すら見せない。もはや皇太子の婚約者として…」

「黙れ」

皇帝の一言が、ユリウスの言葉を遮った。冷たい拒絶だった。ユリウスは屈辱に顔を歪ませる。

皇帝は、アストレアに視線を移した。

「アストレア・フォン・ヒンメル。皇太子の決定、真に受け入れるか」

「はい、陛下。謹んで」

アストレアは、皇帝に対しても変わらぬ冷静さで答えた。その瞳は、一切揺らいでいない。

皇帝はしばらくの間、沈黙していた。誰もが、皇帝が息子のあまりに性急な判断を覆すのではないかと期待した。アストレアの父であるヒンメル公爵も、固い表情で事の成り行きを見守っている。だが、皇帝の口から出た言葉は、非情なものだった。

「…よかろう。皇太子の決定を、(表向き)追認する」

絶望的な最終宣告だった。ヒンメル公爵がかすかに目を見開いたが、それ以上何も言わなかった。これが、帝国の決定なのだ。

皇帝は続けた。「ただし、フォン・ヒンメル公爵家の名誉に免じ、追放は正式な領主としての赴任という形を取る。エレボス星系の管理を、アストレア・フォン・ヒンメルに一任する」

名目上の配慮だった。誰もがそう理解した。ゴミ捨て場に領主も何もない。それは、ただの体面に過ぎなかった。

「御聖断、痛み入ります」

アストレアは、皇帝に対しても深く一礼した。その姿には、悲壮感のかけらもなかった。すべての手続きを、ただ淡々とこなしているようにしか見えない。

彼女は、もう一度くるりと踵を返すと、今度こそ誰にも止められることなく、広間の巨大な扉に向かって歩き始めた。その小さな背中は、驚くほどまっすぐに伸びていた。

扉が開き、彼女の姿が光の向こうに消える。そして、重い音を立てて扉が閉ざされた。

後に残されたのは、気まずい沈黙と、勝利を噛みしめるロゼッタ、そして、満足しているはずなのに、なぜか言いようのない苛立ちと敗北感を覚えるユリウスだった。彼は、自分の思い通りになったはずなのに、まるでアストレアの掌の上で踊らされていたかのような、奇妙な感覚に囚われていた。

帝都の宇宙港は、華やかな宮殿とは対照的に、雑然としていた。アストレアが乗り込むことになっていた追放艦は、その中でも特にみすぼらしい、旧式の貨物船を改造しただけのオンボロだった。

タラップを上がろうとするアストレアの背中に、嘲笑するような声が投げかけられた。振り返ると、ユリウスと彼に寄り添うロゼッタが、見送りに来ていた。

「アストレア、せいぜいゴミに埋もれて暮らすがいい! それが貴様にお似合いだ!」

ユリウスが悪態をつくと、ロゼッタがくすくすと笑う。

「ごきげんよう、アストレア様。どうぞ、お元気で」

その声には、隠しきれない勝利の喜びが滲んでいた。

アストレアは、そんな二人を一瞥すると、何も言わずにタラップを上がり、船内へと姿を消した。その無関心な態度が、またしてもユリウスを苛立たせた。

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