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『追放令嬢は辺境惑星で最強領地を経営する ~前世のゲーマー知識で、私を捨てた皇子たちが食糧援助を請いに来ました~』  作者: とびぃ


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5-4:星屑の凱旋と最初の『艦隊』

時間は、まるで永遠のように引き伸ばされた。

エララのラボ。アストレアは、管制席で、静かに目を閉じていた。

インターフェイスが、冷徹にカウントダウンを告げる。

【敵主砲発射マデ:3】

【マスドライバー発射マデ:3】

【スパイク:脱出イジェクト完了。バイタル安定】

【レイピア(弾丸):巡洋艦砲口ニ突入】

【敵主砲発射マDE:2】

【マスドライバー発射マDE:2】

【敵主砲発射マDE:1】

【マスドライバー発射マDE:1】

アストレアは、目を見開いた。

「――『撃テ』(ファイア)」

エララが、その細い指で、発射トリガーを叩き割らんばかりに押し込んだ。

ラボ全体が、シンギュラリティ・コアの咆哮で激しく揺れる。セバスチャンがアストレアを庇うように立ち、K'サルが床に牙を立てて耐える。

エレボスの地表が、一瞬、真昼のように白く輝いた。

エララが魔改造したマスドライバーが、その全エネルギーを、たった一点の「座標」――スパイクが命懸けで送信した、巡洋艦の砲口内部の座標――目掛けて、解き放った。

『レイピア』は、すでにプラズマの渦に飲み込まれ、気化し始めていた。だが、その機体が完全に消滅するよりも早く、地上から放たれた「光の槍」が、その機体の残骸・・を、さらに亜光速まで加速させた。

それは、「弾丸」が「弾丸」を撃ち出す、二段構えの「矢」だった。

ヴァイス艦隊のブリッジ。アレクシスは、その光景を、ただ呆然と見ていた。

巡洋艦『クリムゾン・ジョウ』が、主砲を放とうとした、その刹那。

その砲口から、逆に、太陽が生まれたかのような、凄まじい光が溢れ出した。

音は、ない。

ただ、巡洋艦の艦首が、内部からの圧力に耐えきれず、まるで熟れた果実が弾けるように、膨張し、そして、砕け散った。

プラズマキャノンのエネルギーが、マスドライバーの運動エネルギーと衝突し、艦の内部で暴走したのだ。

連鎖反応が、巡洋艦の動力炉を誘爆させる。

一瞬の静寂の後、エレボスの軌道上に、二つ目の「太陽」が生まれた。

『クリムゾン・ジョウ』は、その乗組員もろとも、一瞬で星屑と化した。

「「「…………」」」

ヴァイス艦隊のブリッジは、死んだような静寂に包まれた。

「…き、旗艦ガ…一撃で…」

誰かが、絞り出すように言った。

アレクシスは、震える手で、指揮官席の肘掛けを強く握りしめた。

(…勝った…? あの、ゴミ捨て場の、たった一人の追放令嬢が…? 重武装の巡洋艦を、地上からの狙撃・・で…?)

彼の脳裏に、帝都で見た、あの冷徹なまでの美しさを湛えた公爵令嬢の姿が蘇る。

(アストレア・フォン・ヒンメル…! 貴様は、一体、何者なのだ…!)

巡洋艦の爆発は、あまりにも壮絶だった。その爆風と、飛び散った残骸が、逃げ遅れた二隻のフリゲート艦を直撃した。

『ギャアアア!』

『ワープドライブ、やられた! 動力も!』

海賊たちの、阿鼻叫喚の通信が、オープンチャンネルで響き渡る。

旗艦を失い、さらに船足まで奪われた二隻のフリゲートは、もはや宇宙を漂う、ただの「鉄クズ」だった。

エララのラボでも、歓喜が爆発していた。

「ヤッタアアアアア!!」

エララが、アストレアに飛びつかんばかりの勢いで叫ぶ。

「見た!? 見た、イカれ領主! 私のマスドライバーが! アイツらを! フハハハハ!」

K'サルも、セバスチャンも、ただ、スクリーンの残光を見つめ、言葉を失っていた。

アストレアだけが、冷静だった。

彼女は、管制席で、ゆっくりと息を吐き出した。

【緊急クエスト:『最初の襲撃』】

【メイン目標:旗艦『クリムゾン・ジョウ』ノ撃沈(達成)】

【サブ目標:フリゲート艦2隻ノ無力化(達成)】

【クエスト、クリア】

【報酬:技術【艦船修理(初級)】【シールド工学(Lv.1)】、研究ポイントx1000、及び、拿捕可能ナ艦船x2 ヲ獲得】

「…勝ったわ」

アストレアは、安堵に身を任せることなく、即座に次の指示を飛ばした。

「エララ。あの二隻のフリゲートに、降伏勧告を。拒否するなら、マスドライバー(もう撃てないが)の『次弾』を撃ち込む、と脅して」

「了解!」

「セバスチャン、K'サル。管理棟の地下にいる民たちに、勝利を伝えて。それと、ガロの農業プラントも無事か、確認を」

「はっ!」

「スパイクの回収急いで。彼は、この勝利の最大の功労者よ」

そして、アストレアは、メインスクリーンに、もう一つの「客」――ヴァイス子爵家の艦隊を映し出した。

「…さて。あちらの『監視役』さんには、どうご挨拶したものかしらね」

その頃、アレクシスは、我に返っていた。

「…撤退する」

彼は、短く命じた。

「か、閣下! ヴォルコフ辺境伯への報告は…」

「『海賊は、正体不明の勢力・・・・・の攻撃を受け、壊滅した』と。そう報告しろ」

アレクシスは、アストレアがいるであろう、赤茶けた大地を、憎悪とも、畏怖とも、あるいは、それ以外の何か(・・・)ともつかない、複雑な感情で見つめていた。

「…全艦、ワープアウト。この宙域から離脱する」

純白の艦隊が、静かに空間の歪みへと消えていく。

嵐は、去った。

アストレアは、無力化された二隻の海賊船を見ながら、冷たく、しかし確かな野心を持って、宣言した。

「セバスチャン、スパイクが回復したら、彼を隊長に任命するわ」

「隊長、でございますか?」

「ええ。今日から、あの二隻は、私たちの『エレボス自衛艦隊』よ」

人口52名、インフラLv.1の辺境惑星が、皮肉にも、海賊の襲撃という「イベント」をクリアしたことで、いきなりフリゲート艦二隻を手に入れるという、異常な「スタートダッシュ」をキメた瞬間だった。

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