表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『追放令嬢は辺境惑星で最強領地を経営する ~前世のゲーマー知識で、私を捨てた皇子たちが食糧援助を請いに来ました~』  作者: とびぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/37

3-4:最初の『建設』と忍び寄る影

水脈の確保と、50名という貴重な『労働力』の獲得。これは、アストレアの惑星経営シミュレーションにおいて、決定的なブレイクスルーだった。

メインクエストのタイムリミット(防護服のフィルター耐久値)は、残り約62時間。時間はなかった。

「K'サル、休んでいる暇はないわ。すぐに、あなたの民を半分、私に貸してちょうだい」

「領主様、我々ハ何ヲスレバ?」

K'サルは、もはやアストレアの指示に一切の疑いを見せなかった。水という絶対的な「結果」が、彼の忠誠度を確固たるものにしていた。

「ここ(農業プラント)は、水と食料の生産拠点とするわ。でも、私たちの『本拠地』は、ここじゃない」

アストレアは、インターフェイスに管理棟の位置をマッピングした。

「北東へ15キロ。私たちが来た『管理棟』よ。あそこには、この星のすべてを管理するAIがいて、頑丈な隔壁もある。あそこを、私たちの『キャピタル』にするのよ」

彼女のプランは明確だった。

1.K'サルの民の半分(25名)は、このプラントに残り、アストレアが教える【灌漑システム】と【基本水耕栽培】の技術(前世の知識とインターフェイスの補助)を使い、農業を開始する。(担当:ガロ)

2.残りの半分(25名)は、アストレアと共に管理棟へ移動し、『本拠地』の建設作業に従事する。

「ガロ、あなたにはここの農業を任せるわ。インターフェイスが作業手順をサポートする。できる?」

「…オレニカ? 分カッタ、ヤッテヤル。領主様ガ水ヲ出シタナラ、オレガ食イ物ヲ作ッテミセル」

ガロの敵対心は、すでに尊敬の念に変わっていた。

アストレアは、K'サルを含む25名の獣人族を率いて、管理棟への帰路についた。行きとは違い、彼らはこの土地の「獣道」を熟知しており、移動速度は格段に速かった。

管理棟に到着すると、セバスチャンはまだスリープモードで自己修復中だった。

『オカエリナサイマセ、リョウシュ。ソシテ…新タナ領民ノ皆様』

ユニット・ゼロが、ホログラムで彼らを出迎えた。獣人たちは、喋る光の玉(AI)を見て、腰を抜かさんばかりに驚いていた。

「ユニット・ゼロ。メインクエストの報酬でアンロックされた【簡易居住区】と【小型発電機】の建設プランを提示して」

『リョウカイ。建設ニ必要ナリソースハ、報酬デ得タ【汎用資材x100】デ、ほぼ賄エマス。不足分ハ、周辺ノジャンクヤードカラノ採取ヲ推奨』

アストレアは、K'サルたちに命じた。

「これが、あなたたちの新しい『家』の設計図よ。そして、これは『光(電力)』を生み出す機械。このAIの指示に従って、周辺から資材を集め、建設を開始して!」

「ウオオ! コレガ家カ!」

「光ガ…俺タチノモノニ…!」

獣人たちは、飢えを水で満たしたばかりだというのに、信じられないほどの熱量で作業に取り掛かった。彼らの忠誠度は【+30(感謝)】から、さらに【+40(未来への期待)】へと上昇していた。

彼らは、その強靭な肉体を使い、巨大な金属板を運び、ケーブルを引きずり、アストレアとAIが指示する通りに、管理棟の周辺に拠点の基礎を築いていく。

アストレアも、防護服のまま、彼らに混じって資材の仕分けや、インターフェイスを使った精密な設計指示を行っていた。公爵令嬢だった頃には、想像もつかない泥まみれの作業だったが、彼女の心は、帝都のどのパーティーにいる時よりも満たされていた。

(これよ…! リソースを配置し、指示を出し、領地がリアルタイムで発展していく。これこそが、私のやりたかったゲームよ!)

建設作業が軌道に乗った頃、セバスチャンがスリープモードから復帰した。

「…お嬢様…? 私は…」

老執事が、ぼんやりとした頭で状況を理解しようとした瞬間、目の前に広がる光景に絶句した。

管理棟の前で、数十人の狼のような獣人たちが、何かの建設作業を、驚くべき効率で行っている。そして、その中心で、泥だらけの防護服のまま、彼らに指示を飛ばしている、自らの主人の姿。

「…お嬢様…コレハ、イッタイ…?」

「あら、起きたのね、セバスチャン。ちょうどよかったわ」

アストレアは、汗(ヘルメットの中は蒸し風呂状態だった)を拭う仕草をしながら、あっさりと言った。

「紹介するわ。私たちの、最初の『領民』よ。今、本拠地を建設中なの。あなたのその腕力も、すぐに必要になるわよ」

「りょ、領民…?」

セバスチャンが混乱している間に、インターフェイスが更新される。

【建設完了:小型発電機x1】

【インフラレベル:電力(Lv.1)】

ブゥゥン、という低い起動音と共に、管理棟の照明が、今度は安定した光を取り戻した。同時に、獣人たちが建設した居住区の簡易ライトが、一斉に点灯した。

「「「オオオオオオオ!!」」」

獣人たちが、人類が初めて火を見た時のように、その人工の光に歓声を上げる。

【メインクエスト達成:『拠点の確保』】

【制限時間、残り55時間デ達成。生存基盤ヲ確立シマシタ】

【報酬:技術【基本工業(Lv.1)】【ジャンク修理(初級)】、研究ポイントx300 を獲得】

「やったわ…!」

アストレアが、ガッツポーズを取る。

これで、フィルターの心配はなくなった。管理棟の空気清浄システムが、この安定した電力で再起動したからだ。

南の農業プラントからは「最初の種蒔キガ完了」とガロから通信が入る。

すべてが、順調だった。アストレアの「辺境惑星経営シミュレーション」は、最高の滑り出しを見せた。

その、祝宴ムードの、まさにその時だった。

ピピピピピピピピ!!

管理棟のコンソールが、けたたましい警告音を発した。アストレアのインターフェイスにも、同時に、真っ赤な警告ウィンドウが強制的にポップアップした。

『『警告:脅威接近』』

ユニット・ゼロとインターフェイスの声が、完璧にハモった。

『軌道上デブリベルトニ、大規模ナ『歪ミ』ヲ感知!』

『多数ノワープアウト反応ヲ確認! 所属不明艦、多数!』

アストレアは、管理棟のメインスクリーンに、軌道上のレーダー映像を映し出した。

そこには、エレボスの汚れたデブリベルトを突き破るようにして、数十隻の艦影が出現する様子が、はっきりと映し出されていた。

その艦影は、どれも歪な形をしており、明らかに正規の軍艦ではなかった。

「…海賊…!」

アストレアが、前世のゲームで幾度となく見た「敵性NPC」のアイコン。

『所属不明艦、大気圏ニ突入コース! 降下予測地点、当管理棟周辺、及ビ、セクター7-ガンマ!』

「なんですって…!」

AIの非情な報告が響き渡る。敵は、アストレアが築いたばかりの「水」と「拠点」の二箇所を、正確に狙って降下しつつあった。

「領主様! アレハ…!」

K'サルが、空を指差す。灰色の雲を突き破り、燃え盛る流星のような光点が、無数に降り注いでくるのが見えた。

【緊急クエスト発生:『最初の襲撃』】

内容:所属不明艦隊(宇宙海賊『クリムゾンファング』と推定)の襲撃を撃退し、本拠地及び農業プラントを防衛せよ。

失敗条件:領主の死亡、または、人口の50%以上の喪失。

アストレアの築いたばかりの領地(人口52名、農業Lv.1、電力Lv.1)に、いきなり、数十隻規模の艦隊という、あまりにも理不尽な「イベント」が牙を剥いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ