表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『追放令嬢は辺境惑星で最強領地を経営する ~前世のゲーマー知識で、私を捨てた皇子たちが食糧援助を請いに来ました~』  作者: とびぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/37

3-3:農業革命(Lv.1)と最初の『領民』

旧農業プラントの残骸は、内部も酷い状態だった。ドームの天井だった部分は崩落し、灰色の空がそのまま見える。床だった場所には、瓦礫と錆びた農機具が散乱していた。

「コッチダ」

K'サルに先導され、アストレアは施設の地下深くへと続く、暗い階段を下りていった。獣人たちは、松明代わりに、発光性の鉱石(おそらくこの星で採れるものだろう)を棒の先に括り付けたものを使っていた。

(テクノロジーレベル0は伊達じゃないわね…)

地下は、地上よりも空気がひんやりとしており、カビと金属錆の匂いが充満していた。やがて、彼らは巨大な空間に出た。

「…ここが、ポンプ室…」

アストレアの目の前にあったのは、直径20メートルはあろうかという巨大なタービンのような機械だった。それが、このプラントの心臓部、地下水脈ポンプだ。

「ココガ、我々ノ『聖域』ダ」

K'サルが、その巨大な機械を、どこか敬虔な目で見上げながら言った。

「我々ノ先祖ハ、コノ機械ガ動イテイタ『緑ノ時代』ヲ知ッテイル。ソシテ、イツカコノ機械ガ再ビ動キ出シ、水ガ戻ッテクルト信ジテ生キテキタ」

「…そう」

(なるほど。彼らにとって、ここはただの水場じゃない。信仰の対象なのね)

アストレアは、インターフェイスを起動し、ポンプの状態を詳細にスキャンさせた。

【対象:旧型ジオサーマル・アクアポンプ】

【状態:機能停止】

【損傷箇所:メイン動力ケーブル(セクターB-4)ニ、物理的切断ヲ確認】

【損傷箇所:第3タービンベアリング、腐食ニヨリ固着】

【必要リソース:高出力ケーブルx50m, 高純度潤滑油x10L, 溶接機(簡易型)x1】

(…思ったより、損傷が酷いわ。ケーブルだけじゃなかった)

ユニット・ゼロの遠隔スキャンでは、ケーブル切断しか分からなかった。だが、現地での詳細スキャンで、内部の腐食も判明した。

「どうした、帝国ノ領主様。修理デキルノデハナカッタノカ?」

アストレアが黙り込んだのを見て、K'サルが嘲るように言った。

「…ええ、もちろんよ。ただし、少し『材料』が足りないわ」

アストレアは、インターフェイスに表示された必要リソースのリストを、獣人たちに見えるようにホログラムで投影した。

「ナンダ、コレハ…」

「修理に必要な部品よ。このプラントのどこか、あるいは、あなたたちが知っている資材置き場に、こういうものはないかしら?」

彼女は、ケーブルや金属部品の形状を、分かりやすく立体図で示した。

「…コレナラ、見たコトガアル」

戦士の一人、ガロが反応した。

「北ノ『鉄ノ谷』ニ、コノ『ケーブル』ガ山ホド捨テテアル」

「ソノ『油(潤滑油)』ミタイナモノハ、壊レタ機械ロボットノ残骸カラヨク滲ミ出テイル」

獣人たちが、次々と情報を寄せてきた。彼らは、このゴミ捨てエレボスの「資源マップ」を、アストレアとは別の形で、経験として熟知していたのだ。

「素晴らしいわ」

アストレアは、K'サルに向き直った。

「K'サル。あなたの仲間を集めて。今すぐ、このリストにある材料を集めてきてちょうだい。それと、頑丈な金属板と、・・を起こす道具も」

「火? ソンナモノデ、コレガ直ルノカ?」

「ええ。溶接機の代わりよ。簡易的な『鍛冶』を行うわ」

アストレアの頭の中では、前世のサバイバルゲームの知識がフル回転していた。文明が後退した世界での「クラフト」だ。

K'サルは、まだ半信半疑だったが、水が手に入るという一縷の望みに賭け、部下たちに指示を飛ばした。

「ガロ! 一番足ノ速イ者ヲ10人連レテ、鉄ノ谷へ行ケ! 他ノ者ハ、油ト金属板ヲ探セ! 急ゲ!」

獣人たちは、驚くべき俊敏さで暗闇の中へと散っていった。彼らは飢えてはいたが、その動きには野性の力がみなぎっていた。

(…すごい。指示を出してから、実行に移るまでの速度が尋常じゃない。これが、私の最初の『領民』…!)

アストレアは、彼らの「労働力」としてのポテンシャルの高さに、密かに舌を巻いていた。

それから約2時間。アストレアは、K'サルが見守る中、ポンプの制御盤を解体し、インターフェイスの指示に従って内部構造を分析していた。

やがて、ガロたちが大量のケーブルや資材を持って戻ってきた。

「コレデ足リルカ!」

「十分すぎるわ。よくやったわね、ガロ」

アストレアが素直に褒めると、ガロは意外そうな顔をして、少しだけ敵意を緩めた。

ここからが、アストレアの独壇場だった。

「ガロ、あなたはそのケーブルの被膜を、そのナイフで剥がして。中の導線をこれだけの長さで切り出して」

「K'サル、あなたはその金属板を、この鉱石(発光石)の火で炙って。赤くなるまで。その後、私が指示する形に叩いて曲げてちょうだい」

「そこのあなた、その油を集めて、タービンのあの隙間に流し込んで」

彼女は、公爵令嬢だったとは思えないほど、テキパキと、そして的確に指示を飛ばしていく。その姿には、迷いというものが一切なかった。

獣人たちは、最初こそ戸惑っていたが、アストレアの淀みない指示と、インターフェイスが投影する分かりやすい作業図ホログラムに導かれ、次第に一つのチームとして機能し始めた。

彼らは、帝国語は片言だったが、作業の飲み込みは驚くほど早かった。

そして、さらに1時間後。

切断されていたケーブルは、剥き出しの導線を束ね、炙った金属板で無理やり固定・圧着された。固着していたベアリングには、集めた潤滑油が注ぎ込まれ、K'サルが体重をかけてタービンを回すことで、強引に固着が剥がされた。

(…原始的すぎるわ。応急処置にもならない。でも、今はこの一瞬、動けばいい…!)

アストレアは、メインコンソールに戻り、埃を被った起動スイッチに手をかけた。

「…みんな、下がって」

獣人たちが、ゴクリと息をのんで後ずさる。

アストレアは、スイッチを、入れた。

ガ、ガ、ガ…

重い、嫌な音が響き渡る。

『警告:動力ケーブルノ接続ガ不安定。オーバーヒートノ危険アリ』

インターフェイスが警告を発する。

(知ってるわよ! 動け…!)

ガギン!

一際大きな金属音が響き、すべてが静かになった。

「…ダメカ」

K'サルの肩が、失望に落ちる。

だが、アストレアは、スイッチから手を離さなかった。

「…いいえ。まだよ」

ゴゴゴゴゴゴ…

地響きのような、低い振動が始まった。

「…!」

獣人たちが、その音の正体に気づく。

それは、数百年ぶりに、この巨大なポンプが、地下深くの水を吸い上げ始めた音だった。

「ウオオオオオオ!!」

K'サルが、天を仰いで咆哮した。

その直後、ポンプ室の端にある、ひび割れた貯水槽のパイプから、轟音と共に、濁流のような水が溢れ出した!

獣人たちは、我先にとその水に駆け寄り、その清浄な(少なくとも彼らが知るどの水よりも綺麗な)水を、手ですくい、貪るように飲んだ。

「水ダ! 本当ニ水ガ…!」

「生キテル! コノ水ハ生キテイル!」

歓喜の叫びが、地下空間にこだました。

K'サルは、自らもその水を一口飲むと、濡れた顔のまま、アストレアの前に進み出た。

そして、彼は、獣人族の最大級の敬意を示す作法――片膝をつき、頭を垂れた。

「…領主様」

K'サルは、はっきりとした声で言った。

「我々、灰色のアッシュ・ファング族ハ、今日コノ日ヨリ、貴女様ヲ我々ノ『領主』ト認メ、コノ命ヲ捧ゲルコトヲ誓ウ」

その言葉と共に、アストレアのインターフェイスが、高らかな達成音を鳴らした。

【メインクエスト更新:『拠点の確保』】

・旧農業プラントの地下水脈を確保せよ (達成)

・未確認の集落と接触せよ (達成)

【新規領民獲得:灰色のアッシュ・ファング族】

【人口:52名(アストレア, セバスチャン, 獣人族50名)】

【領民忠誠度:+30(感謝)】

【農業レベルがアンロックされました:農業Lv.1】

【報酬:技術【基本水耕栽培】【灌漑システム】、研究ポイントx200 を獲得しました】

「ええ、確かに受け取ったわ。K'サル」

アストレアは、初めて「領主」として、自らの民の前に立った。

「でも、これは始まりに過ぎないわよ。水が手に入ったのなら、次は『食料』よ」

彼女は、インターフェイスを開き、獲得したばかりの【灌漑システム】の技術データを、K'サルたちの前に投影した。

「この水を使って、このプラントを、もう一度『緑の時代』に戻すのよ」

獣人たちの目に、飢えと絶望以外の色――「希望」が、初めてはっきりと宿った瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ