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第8話・氷塊の船〔ラスト〕

 一夜明けて、ペンライトとディライトは湖上で作業を続けている、デス家兵士たちを観察した。

 望遠鏡を覗いて観察しているディライトに、ペンライトが訊ねる。

「どうですペン……何を造っているのかわかりますかペン」

「ふんっ、木材の細かいパルプを氷の中に混ぜて溶けにくくした複合素材の氷の塊『バイクリート』と、鉄骨の骨組みで何やらでかい建造物を造っておるわい……あんな湖の上に要塞でもあるまいし……おやっ?」


「どうしましたペン?」

「厄介な男が指揮をしている……派遣将軍『フリュ・ギア』戦略家だ」

 ディライトから手渡された望遠鏡で、覗くペンライト。

 ディライトが言った。

「ふんっ、これは敗北村の家にもどって。作戦を練った方がよさそうだな」


 敗北村の宿泊させてもらっている家で、机の上に湖周辺の地図を広げて、ディライトと話し合っていたペンライトたちの所に、勝利村の者たちが数名──困り顔で飛び込んできて言った。

「助けてくれ! 大変なコトになった、魔女の力でなんとかしてくれ!」

「わたくしは、魔女ではありませんペン。どうしました?」


「デス家の兵士がやって来て『今から湖の通行は閉鎖する』と、言ってきた……村で共同備蓄している炭薪だけじゃ、この寒さは乗り切れない! 町へ行って炭薪を大量に購入しないと、家族が凍え死ぬ」

「山岳の回り道を通って町へ行ってはペン」

「あんな危険な道、勝者のオレたちが行けるか!」


 話しを聞いていた敗北村の者たちが、怒りをあらわにする。

「ふざけるな! 自分たちだけ安全な道を使って、敗者のオレたちが山道から滑落して死亡しても何も言わないくせに! 言っておくが、敗北村には勝利村みたいな炭薪の共同備蓄所はないからな。各家での備蓄だから、おまえたち勝利村の連中に分けるだけの余裕はない!」


 少し間を開けて勝利村の代表が口を開く。

「デス家の兵士が笑いながらオレたちに言った『燃やすモノが欲しかったら、敗北村の家を襲撃して解体した家を燃やせばいい』と……」


 激怒する敗北村の代表。

「ふざけるな! オレたち敗北村を。なんだと思っているんだ!」

「わかっている……さすがに、オレたち勝利村も他の村を襲って燃やすモノを手に入れるなんてできない……それをやったら、略奪者になってしまう。頼む助けてくれ! 妻や子供が凍え死んでしまう!」


 話しを聞きながら、地図を見て考えていたペンライトが、ディライトに言った。

「さっき話した計画……可能そうですかペン」

「ふんっ、地形を見る限りは五分五分だな……計算通りに流れればいいが」


「やってみるだけの価値はあるということですねベン……勝利村の方々と敗北村の方々、わたくしに協力して力を貸していただけませんかペン……二つの村の力が必要なのですペン」

「なんでも言ってくれ、勝利村は協力する」

「敗北村も、できる限りの力を貸す」

 ペンライトは、微笑みうなづいた。


  ◇◇◇◇◇◇


 凍った湖上……植物繊維を混ぜた四角い氷の塊を積んで、造っているあるモノの上で長剣を目の高さに掲げた、フリュ・ギアが小動物の脳に話しかける。

「母さん見てくれ、計画は順調に進んでいるピョン」

 深紅の陣羽織(サーコート)を着て氷の上に立つギアに、デス家兵士の一人が話しかけてきた。

「ギアさま、魔女皇女が村で妙なコトをはじめました」


「魔女皇女『イザーヤ・ペンライト』か……何をはじめたピョン」

「二つの村人たちを使って、湖近くの凍土に深さ一メートルほどの、堀を作ってます」

「二つの村は、仲が悪いはずだビョン」

 ギアは、ニアの知恵を受けて【勝利村】と【敗北村】を、憎しみ合う方向へと近づけてきた……現在、湖で進行している計画のために。


「何を考えている……魔女皇女? 妨害される前に、こちらの計画を急ピッチで進めるピョン……もう少しで船は完成するピョン、城の巨人は湖には入ってこれないピョン……重みで湖底に沈むビョン」

「もしも、城の巨人が岸からこちらに向かって、巨石を投げてきたらどうしますか?」

「……それは、考えるなピョン」



 湖岸を周回するように掘られていく、堀のような窪み。

 固く凍った土は、なかなか掘り進めなかった。

 炎で少し溶かして柔らかくなった凍土を掘っては、寒さで動かなくなった手を暖めて作業をする過酷な作業。

 勝利村の者が、汗びっしょりになって白い息を吐きながら、冷えた手を擦り会わせていると敗北村の者が言った。


「続きは敗北村の者が代わって掘ろう、汗で濡れた衣服を着替えて休憩して体を暖めてくれ」

「すまない……体が暖まって体力が回復したら交替するから……今まで敗北村の者にキツい言葉を吐きかけてばかりで……すまなかった」

「気にするな、うちのじいさんの代に勝利村だった時は、オレたちも同じ仕打ちをしていた……反省する、どこかで悪習は断ち切らないとな」


 ある程度の距離を掘った時に、ペンライトが言った。

「そこまで、掘っていただければ十分です……ここから先は、わたくしがやりますペン」

 ペンライトは、堀道の起点に立つと超科学の錫杖を地面に突き刺して言った。

「北方大地の女神よ……新たな流れを大地に作るコトを、お許しください」


 錫杖から発せられた超振動波が、湖の縁を砕いて堀道の中に──部分的に氷が溶けていた湖の水が流れ込み川になった。

 川は湖を周回して向こう岸の町の近くで湾曲して、山の谷間を流れていく。

 ところどころ、凍る川の道を示してペンライトが言った。

「成功したペン、一歩間違うと町の中央を濁流が流れる危険もあったペン……この川の道を使えば安全に町まで行けるペン」


 エンジェライトが、ペンライトが作った新たな川の流れで湖の流れが変わり、デス家兵士とフリュ・ギアが乗った氷の山がゆっくりと動き出したのを見た。


「見ろ! 氷の塊が湖から流れる大河に向かって動きはじめたぞ!?」

「ふんっ、アレは船じゃったか……巨大な輸送戦艦だ」

 氷の甲板では、デス家兵士たちが何やら叫びながら、こちらに向かって手を振っていた。

 ペンライトたちも、手を振り返す。


 湖から河口を出て流れていく、氷の輸送戦艦の上ではデス家兵士たちが助けを求めていた。

「助けてくれぇ! まだ未完成なんだ!」

「流されているだけなんだよ!」


 フリュ・ギアは、困惑した表情で。

「母さん……このまま、海まで流れで行こうピョン……恐るべし魔女皇女イザーヤ・ペンライト」

 と、言った。


 一方、ペンライトの方は、錫杖を強く握り締めて言った。

「デス家の計画を阻止できなかったペン、あたくしの負けだペン……派遣将軍フリュ・ギア、一筋縄ではいかない男だペン」



第三章・凍てつく心と少しだけ溶けた心~おわり ~


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