第5話・幽閉城デュナミスと城巨人エネルゲイア③ラスト
妖精スプライトのリーダーは、ペンライトたちを隠し扉で隔てた、城のシークレットエリアに案内した。
シークレットエリアには、魚を城内で養殖している城内池や、少ない太陽光を鏡の反射を利用して城奥の畑で野菜などを栽培している場所もあった。
それを見て感心する老職人。
「ふんっ、幽閉の城なのにとんでもない──この城は戦闘に特化した長期戦向けの〝要塞籠城〟だ」
スプライトのリーダーが、自慢気に説明する。
「甘い蜜が採取できる樹木の場所や、壁や床に岩塩の結晶が染み出ている場所もあるぞ……あとは、オレたち北の妖精種には必要はないが……人間が高価だと価値する鉱石が生まれ続けている場所もある……欲しかったら好きなだけ持っていって、売って資金にすればいい」
スターライトが呟く。
「まるで、この城自体が一つの国ですね……自給自足で産業も成り立ちます」
ペンライトが、スプライト族のリーダーに質問する。
「ところで、あなたの名前の件ですが……名称案が二つあります、一つは【アレクサンドライト】もう一つは【エンジェライト】……どちらがいいですかペン」
「短い方が覚えられて言いやすいオレ名前は『エンジェライト』でいいよ……オレの方からも質問だけれど」
エンジェライトと名づけられた、銀髪褐色のフェアリーはペンライトの周囲を飛び回りながら質問する。
「この城を動かして、あんたいったい何をするつもりだ?」
ペンライトはエンジェライトに事情を説明してから、落ち着いた口調で言った。
「『デス家』の計画を邪魔するペン」
ペンライトの言葉を聞いて、高らかに笑いだすエンジェライト。
「ははははっ、ムカつくデス家の噂はオレたちの耳にも届いている。あんた最高だよ! デス家に牙を向ける人間なんて初めて見た……おもしれぇ! 協力するぜ」
そしてついに、幽閉城デュナミスのリノベーション工事は完了した。
外見はまったく変化が無い城の変形レバーを、握り締めた老職人が後方で見守っている者たちに、視線で変形起動の確認をする。
うなづく、ペンライト。
スプライトたちが吹き鳴らす、角笛の音色が響き。
老職人は、幽閉城デュナミスの変形レバーを倒しながら叫ぶ。
「リノベーション! 【城巨人エネルゲイア】」
巨人形態に変形した古城が、ゆっくりと歩き出す。
城巨人エネルゲイアの夕日に染まるバルコニーで。
ペンライト、スターライト。エンジェライト、老職人の四人は感無量の表情で高台からの景色を眺めた。
両目を少し涙で潤しながら老職人が、スターライトに言った。
「ふんっ、そろそろ聞いても問題ないじゃろう……ペンライトさまが、儂につけようと考えている名前はなんじゃ?」
ペンライトが静かに言った。
「『ディライト』という名前です」
「ふんっ、正解じゃ……あの日、現れたペンライトさまも、その名前で儂を呼んでいた」
城巨人エネルゲイアの地響きで、積雪の中から驚いた雪トドが、雪上に飛び出したのを見たディライトは。
「ふんっ、驚かしてしまったか……すまんな」
そう、呟いた。
幽閉城デュナミスと城巨人エネルゲイア~おわり~