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第2話・床冬の大地に芽吹いてしまった小さな疑問②

 数日後──ペンライトは雪が降り積もった敷地内にある、職人町にある集合職人作業場へと向かった。

 作業場の中では、機械技師の職人たちが忙しそうに作業をしていた。

 ペンライトは、一番奥の作業机の所で図面を広げて、気むずかしい表情で作業をしている尖耳鉤鼻(かぎばな)の老人の前に進む。


 職人妖精と人間のハーフな老人は、近づいてきたペンライトをチラッと見ただけで、作業の手を休めるコトはなかった。

 ペンライトが持ってきた、黒パンの入ったバスケットを机の隅に置いて言った。

「屋敷で今朝焼けた、黒パンと竜ミルクだペン……食べて欲しいペン」

 偏屈な職人気質の老人は、ぶっきらぼうな口調で言った。

「ふんっ、腹が減ったら食べてやる……そこに置いておけ」

 老人が作っているのは、雪の結晶飾りが先端に付いた、超科学の万能錫杖(しゃくじょう)だった。

 万能錫杖はペンライトの為に作られている。


 ペンライトは、壁に立て掛けた完成している、雪結晶飾りの万能錫杖を見つけ首をかしげる。

「もう一本、完成しているペン? 昨日はまだ製作中だったペン?」

「ふんっ、昨夜一人で作業をしていたら不思議なコトがあってな」

 

 語りはじめる職人気質老人。

「完成した超科学の錫杖を持った、ペンライトさまがやって来て……完成品の万能錫杖を置いていった」

「わたくしが、ここに?」


「ふん、昨夜のペンライトさまはどこか雰囲気と服装が違っていた……経験を積んだような、その昨夜のペンライトさまが言っていた『現世界〔アチの世界〕に召喚されて。元の時間軸に戻る途中に、手違いでこの時間軸に立ち寄っただけだペン……万能錫杖を残しておくので、明日訪れるこの時間軸のペンライトに渡して欲しいペン』と」


 イザーヤ・ペンライトは完成された万能錫杖を手に取る──手に馴染んだ感触の錫杖だった。

「不思議な話だペン……別の時間軸の、わたくしが現れたなんて」

「ふんっ、あり得ないコトではない……北方地域で主体になっている科学技術は、森外れの洞窟内で発見された未知の乗り物の超科学(テクノロジー)が、流用されているからな……科学も進歩すれば魔法と変わらん」


 北方地域の科学技術は、アチの世界と繋がっている洞窟内で発見された、未確認飛行物体の科学技術が使われている。

 なぜ、洞窟内で墜落したような痕跡がある未確認飛行が存在しているのか? それは不明だが老人はある仮説をペンライトに伝えた。

「ふんっ、おそらくアチの世界から。コチの世界〔異世界〕を侵略しようと、やって来た宇宙の民が、なんらかの原因でもどる途中に墜落したのだろう……乗っていた宇宙の民はウ●コに変わって」

 コチの世界〔異界大陸国レザリムス〕とアチの世界〔多元現世界〕を繋ぐルート通過には、ある特殊な法則がある。


 コチの世界の住人はアチの世界を自由に往復できる、ただし一度繋がりができた多元世界の現世界のみを限定で。

 Aの現世界と最初に繋がりを持ったコチの世界の者は、B現世界へ行くコトはできず。

 B世界と往復できるコチの世界の者は、A世界に行くコトはできない。


 アチの世界の者は、どの現世界の者でもコチの世界に行くコトはできるが、アチの世界に戻ってくるコトはできない……戻ろとすると途中でウ●コに変わってしまう。


 ペンライトは、錫杖が立て掛けられていた壁近くにある棚に置かれていた、奇妙な玩具に目を留める。

 それはアチの世界で売られている、赤い変形合体ロボットのオモチャだった。

「これは、なんだペン?」

「ふんっ、そのオモチャも錫杖と一緒に置いていった、近い将来役に立つと言い残してな……そう言えば、万能錫杖は自分が本来いるべき時間軸には、二本存在するから心配ないとも言っていたな? ペンライトさまが名付づけてくださった儂が作るとか」


 職人妖精と人間のハーフのこの老人は、親からの正式な名付けはされていない……古いしきたりで、名前を知られると呪いが掛けられると、老人の両親は信じていた。

「どんな名前を、別時間軸のわたくしは?」

「ふんっ、それは言えん。言ってしまったら時間の流れが変わってしまうかも知れないからな」

 ペンライトは、万能錫杖『雪結晶』と変形ロボットの玩具を持って作業場を出た。


 ◆◆◆◆◆◆


 数日後──ドラゴン馬が引く馬車に乗って私用で残雪が残る、町の大通りを進む。イザーヤ・ペンライトの姿があった。

 雪結晶の万能錫杖を膝の上に乗せたペンライトの隣には、単眼メイドのスターライトが同乗している。

 スターライトが、ペンライトに質問する。

「そんなに岩塩の味に違いがあるんですか?」

「肉料理に使うのなら、西方地域『アルプ・ラークル』産の岩塩が肉の旨味を最大限に引き出してくれる最高の岩塩だペン。ハーブの風味も含まれているペン」


 ペンライトは、スターライトが料理に使いたいと言ってきた、肉料理に最適の塩を求めて『岩塩屋』に向かっている最中だった。

 普通に買い物を済ませて屋敷にもどる……ただ、それだけの時間だった。

 しかし、ペンライトは出会ってしまった……自分の運命を大きく変えるコトになる、一人の平民女性に。


 狭い横道から急に、ドラゴン馬が引く馬車の前に飛び出してきた一人の若い成人女がいた。

 急停車するドラゴン馬の馬車。

 フード付きのマントで、顔の片側を隠した女性は恐怖に震えている。

「たす……けて……あそこにもどるのは……いやっ」

 馬車から降りて、怯えている女性を介抱しようとしていた、ペンライトの前に。


 横道から鉛の医療用前掛けをして、バケツを逆さにしたような金属マスクをかぶった男たちが現れて。

 女をムリヤリ連れていこうとした。

「まだ、初期段階の処方途中だ」

「精神が安定していない」

「もどるんだ」

 嫌がって暴れる女性。

「いやぁ、いやぁぁ!」


「これは、貴族皇女さま……あなたには、関係がないコトです」

「この女は、我が子殺しの罪人です(はら)の子を、新しい男の気を引くために木製ハンマーで胎を叩いて殺した罪深い女です……罪を免除する代わりに、デス家にその肉体を提供すると自分から契約しました……罪から逃れる一心で」


 錫杖の柄を握り締めるペンライト……ペンライトの中で何かが弾けた、今まで表に出すコトをためらっていた何かが。

「おやめなさい、その女性から手を離しなさい」

 ペンライトの言葉を無視して、女性を連れていこうとする男たちに向けた、雪結晶の錫杖が変化する。


 雪結晶の飾りが二股の槍結晶に変わり、冷気が男たちの足元に向かって放たれた。

 冷気の霧の中で、男たちの靴底と道路の密着面が凍りつき、男たちの動きが止まる。


 ペンライトが、半分放心状態の女性に向かって言った。

「さあ、早く今のうちに、お逃げなさいペン」

 駆け出す女性のかぶっていたフードがめくれて、隠れていた片面が現れる。

 女性は狂気に満ちた笑いを発しながら、建物の壁へと突進していく。

「あはははははははは……あひひひひひひひっ!」

 精神が崩壊してしまった女は、頭部を石の壁に激突させる。

 壁に血痕を散らし、頭が割れた女は、仰向けに倒れて絶命した。


 死んだ女の隠されていた側の顔を見た、ペンライトは驚く。

「影武者女王デス・ウィズ……あっ!? ペン?」

 女の顔の半分は『影武者女王デス・ウィズ』の顔をしていた。


 靴底の氷を砕いて動けるようになった、男たちが言った。

「あなたの、起こした衝動的な行動が何を意味するのか、わかっているのですか……あなたは、デス家に牙を剥いてしまったのですよ」


「デス家に対して反旗をひるがえした者に、この北方地域に平穏な居場所はないですよ──いずれ、デス家の方からなんらかの通達が、あなたの皇族一族にあるコトでしょう」


 そう言い残して、前掛けの下からデス家の紋章が覗く男たちは、立ち去って行った。

 残されたベンライトは、白い息を吐きながら錫杖を握り締めて、その場で小刻みに震え続けた。


第一章・凍てつく大地は動かない~おわり~

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