洗えない親指【親指ペロBL編】
「ん!先輩、これめっちゃ美味い!」
こどものように抹茶パフェを美味しそうに頬張るサクは、後輩であり……俺の彼氏だ。
顔が良く、いつも余裕があって格好いいサクが何故俺のことを好きになってくれたのかはわからないが、すごく幸せだと感じた。
「ここすごくオシャレですよね」
キョロキョロと見渡すようにサクは視線を横に向けた。
今日、色々あって俺たちは、何故か俺たち以外に女子しかいないのパフェが有名なカフェに来ていた。
といってもあまり甘いものは得意ではないので、ひとりアイスコーヒーを啜っていた。
男ふたりでこういうおしゃれなカフェは目立つかなと思ったけど…意外と誰にも見られない。目立つのは好きではないので、ありがたいことだ。
「はい、先輩。あーん」
呑気にそんなことを考えていれば、サクが緑に染まった白玉とあすきを乗せてスプーンを差し出してきた。
「はっ?だからいらないって」
「いいから。そんなに甘くないっすよ」
「……わかったよ」
これ以上言っても埒が明かなそうなので、そのスプーンを口に含んだ。
「…っ。あ、たしかにそんな甘くないかも」
むしろ少し苦い。甘さ控えめとメニューに書いてあったが、白玉とあずきの甘さと抹茶の苦さで、丁度よく中和している。これは良い甘さだ。
「先輩、ここついてる」
サクはふふっと笑うように、俺の口端を自分の親指で拭い、その親指を俺に突き出した。
「はぁっ!?おまっ、なにして…」
「ほら先輩、舐めて。おれもうパフェ食べれなくなっちゃうんすけど」
「……」
だからといって、サクの親指を、ましてや外で舐めるなど正気の沙汰ではない。
だが、造形のいい顔にずっと見つめられては、俺の心臓が異常をきたしてしまう。仕方なく、俺はサクの親指を優しく舐めた。
ーーー
今日はナギサ先輩との、久しぶりのデート。こうゆうゆったりとしたデートは、最近はお互い仕事が忙しくてできていなかったから、なんだか朝から気持ちが舞い上がっていた。
美容の仕事に進むと上京した先輩のことを、おれは3年以上経った今もずっと想い続けていた。
追いかけるように上京したが、逢えるわけもない。いつも通り楽しみもないまま、お気に入りの美容室で働いていた。おれがずっと想っていた先輩が。
そこからは早かった。
全力で口説くつもりだったが、嬉しいことに両想いが発覚してお付き合いさせてもらっている。
こんなの幸せな人はおれ以外にいるのだろう。いや、いない。
「サク、美味しい?」
愛らしく微笑む先輩は、アイスコーヒーを啜っていた。スタイリッシュで格好いい。
なんだか負けたくないと謎の対抗心を燃やしたおれは、スプーンに甘いものが苦手な先輩でも食べれるであろう、抹茶パウダーのかかった白玉とあずきを乗せて、先輩に差し出した。
先輩は戸惑っていたけど、やがて諦めたのかおれの親指をゆっくりと舐めた。
その仕草があまりにも色気があって、目を囚われてしまった。
「はい、ちゃんとやったぞ」
「………」
「おいサク?」
「…あっ、はい!」
恥ずかしさを紛らわすようにアイスコーヒーを啜る先輩。先輩の形の良い耳は、愛らしく赤くなっていた。
「お前、あれは流石に駄目だろ」
午後4時頃、あの後ゲーセンに行って取れた大きな猫を抱えた先輩がおれを見た。
「まあまあ。というか気になってたんですけど、今日はなんでこんな解散早いんすか?」
「ああ、今日は高校の同窓会あるんだよ」
なんだかモヤっとした。認めよう、嫉妬だ。
高校時代の先輩は、高校生とは思えないくらい色気があって、格好良くて。
オレがそんな先輩に惚れたのも事実で、きっと先輩にまだ想いを寄せる人も性別問わずいるだろう。
そんな猛獣の檻のような場所に先輩を放り込むなど耐えられない。
オレは先輩の首筋に唇を当てる。吸うようにつけた赤い痕が、先輩の白い肌によく映える。
「おまっ…なにして…!」
「あれ、先輩何照れてるんすか?オレたちもっと恥ずかしいコトしたでしょ?」
「ちょっバカ!ここ外だぞ!」
と言いながらも満更でもなさそうな先輩。かわいいなぁなんて思って見つめてたら、そっとオレの服の裾を引っ張った。
家に帰ってきたオレはほとんど放心状態だった。
オレの服を愛らしくつまんだ先輩は。
『同窓会のあと、お前んち行くから…』
先輩、照れてるのバレてないと思ってるのかもしんないけど。耳、真っ赤だから。
てか、それは流石に…。
「勝てねぇ…」
照れると耳が真っ赤になるとこも、オレの顔が大好きだから顔を見たら余計恥ずかしくなって斜め下を見ちゃうとこも、オレだけが知ってればいい、先輩のかわいいところ。
相変わらず独占欲の強い自分に嫌気が差す。顔を洗ってスッキリしようと洗面に行く。
鏡に写った、嬉しそうな気持ち悪い笑顔を、全力でつねった。