真実の愛を貫きましょう?お互いに。
「エミリー・フォルステア伯爵令嬢、君との婚約は本日破棄とする」
卒業式の祝宴で響き渡る声に、私は思わず微笑んだ。
そうそう、こうでなくちゃ。
微笑んだまま、私は宣言をしたマークス・ベリファイル侯爵令息の前に進み出て、大袈裟に拍手をした。
「やっとですのね!わたくしの妹、アリッサと真実の愛を育まれていた事は存じ上げておりました。どうぞ、幸せにしてあげてくださいませ」
怪訝な顔をするマークスと取り巻き達。
マークスは煌めく金の髪に、青い目の美しい青年だ。
爵位も高いので、それなりに人気もあったのだ、三年に上がるまでは。
マークスの隣で、その腕に寄り添っていた異母妹のアリッサも、可愛らしい顔が間抜けに見えるほど口を開けて驚いている。
私の友人達や、その他の人々もにこやかに拍手をしているからかもしれない。
祝われるとは予想外だったのだろう。
それに、想定外に私の味方が多かったからか。
よく、こういう断罪ものの物語では、嫉妬から虐めに走った、と主張してくるわけですけれど。
先手を打ったらどうするのか、気になるのでこの演出にしてみたのだ。
ここまで拍手を受けて祝われては、嫉妬していたのだろう!とは言い出せないようだ。
言い出してみたところで、疑問視されるだけなのだから仕方ない。
私は笑顔を絶やさずに、マークスを見上げる。
「……祝って、くれるのか?」
「ええ、勿論ですわ。お慕いしていたマークス様…いえ、失礼ベリファイル様と、母が違うとはいえ妹であるアリッサが真実の愛で結ばれるのですもの。どんな困難にも負けない真実の愛で、この先もお二人で仲良く暮らして頂きたいですわ。つきましては」
私は祝いの言葉を区切って、掌を上にすると、その上に書類が載せられた。
普段は侍従として仕えてくれている、キリアンがその書類を胸元から取り出したのだ。
「こちらに署名を頂けましょうか?一刻も早く、その障害の一つである婚約破棄を進めねばなりませんもの」
「あ、ああ……」
気圧された様にマークスは書類に署名をする。
何枚もある書類を、細部まで確認はしないが、すらすらと。
だが、一枚に目を留めてマークスはペンを止めた。
「慰謝料で、鉱山の権利を…?」
「ええ、婚約時の約束にございましたでしょう?共同開発する代わりに、領地の間にある鉱山、正式には我が伯爵領地にある鉱山の権利を半分渡すという約定。有責側がその権利を放棄するというお話でございます。真実の愛、とはいえ、浮気は浮気にございますれば、ここで慰謝料として支払われる事でわたくしも、貴方の瑕疵も少しは和らぎましょう」
有責という言葉で、む、と眉根を寄せたものの、虐めの罪状という正当さを欠いてしまった今は、有責の理由は浮気でしかない。
己の名誉を守り、速やかに事を進めるには署名するしかないのだ。
それに、彼はこれが侯爵家が伯爵家に支払う対価だと思っている。
結局は、自分の手に戻ってくるものだと。
「分かった」
渋々といった態度を装いながらも、マークスが署名した書類を受け取って、キリアンに渡す。
キリアンは一礼して、すぐに書類を胸元にしまって会場の外へと歩き出した。
ああ、これでわたくしはやっと自由。
勝ち誇った笑みを浮かべる異母妹に微笑み返しながら、私は彼女と初めて会った時の事を思い出していた。
10歳を迎えて暫くした頃、私は母を喪った。
そして、葬式を終えた後に屋敷に乗り込んできたのが、殆ど家に居なかった入り婿の父親と、その愛人のメリッサだ。
煽情的な赤髪と豊満な肉体、緑の瞳は妖艶で美しい。
愛人が連れていたのが、アリッサだ。
髪の色は父親譲りの金髪に、瞳の色は母親譲りの緑色。
可愛らしい容姿で、妖艶な母親とは対照的に庇護欲をそそりそうな可憐な容姿だった。
「まあ、貴方がこの家の娘なのね?今後は私がここの女主人になるのよ。生意気な態度は許しませんからね?」
いきなり、メリッサに宣言されて、私は静かに頷いた。
「では、何とお呼びすればいいのでしょうか?お義母様ですか?それとも奥様とお呼びしましょうか?」
子どもにしては生意気な聞き方だったろうと思うが、メリッサは満足したように唇を歪めて笑った。
「そうね。じゃあ奥様と呼んで頂戴。貴女は私の娘でも何でもないもの」
「じゃあ、私の事はお嬢様、って呼んでね、お義姉さま」
意地悪な母娘を見つめて、私は微笑んだ。
この人達は身分が低いだけではなくて、知識もないのね。
何て、哀れなのかしら?
「そうですわね。だって、貴女はわたくしの継母にはなれないし、貴方もわたくしの義妹にはなれないのですもの」
意味が分かっている使用人が笑いを押し殺すのを見て、メリッサが激高した。
「どういう事!?」
「あら嫌ですわ。まさかお父様は貴女を騙していたのかしら……お父様にお尋ねになって下さいな。何故、貴女を後妻に出来ないのかを」
見た目通り苛烈な性格をしているらしいメリッサは、ドカドカと足音も荒く、父の書斎へと歩いて行く。
遺されたのは可愛いアリッサ。
母の剣幕におろおろしつつ、その場に残っていたので囁いた。
「ねえ、お嬢様、貴方は平民。生まれながらの平民。そして愛人の子なのよ。貴族には絶対なれないし、貴族と絶対結婚出来ないの。うふふ、可哀そうなアリッサ」
金の巻き毛を指に絡めながら言うと、アリッサは大きな目にみるみる涙を溜めた。
物語の悪役みたいに、私は意地悪く微笑む。
「だからね、出自は隠して生きるのよ?わたくしに関わらず、目立たずに生きて行くというのなら、その位の小さな嘘は目溢ししてあげても良いわ。だって、哀れなんですもの」
そう哀れ。
私の母もそうだった。
帰らぬ父を呪っていたし、振り回され続けたのだ。
今だってそう。
メリッサだって、多分捨てられる。
父は面倒ごとが嫌いなのだ。
毎日責められれば、また安易な方に流れるだろう。
そして、アリッサも母親に振り回されて、父親に捨てられるのだ。
でも、私にとってはその方が都合が良い。
領地の仕事は生母の側近を務めていた男爵と家令、領地の管理官で回している。
父は必要な書類に署名するだけ。
今は私が領地の経営について学んでいるけれど、いずれは自由になるつもりだ。
無能な父は家に寄り付かない位が丁度いい。
私の予想と計画通り、父はやはり家に帰ってこなくなった。
調べさせたところ、今はまた下町で別宅を作って愛人を囲っているそうだ。
私はと言えば、さっさと別棟を建てて、そちらで暮らしている。
古くからの使用人も殆どが別棟で暮らし、愛人とその娘は本邸に残っていた。
財産をどうこうする権利もなく、父から渡される幾許かの金で暮らしていくしかないのだけれど、それでも庶民よりは楽に暮らせるし、黙っていても食事は出る。
贅沢は出来ないが、そもそも茶会に招待される身分でもないので、衣装を揃える必要は無い。
文句を言いながらも、元気で暮らしているようだ。
没交渉を貫いていたある日、私と侯爵令息の婚約話が持ち上がった。
私も先方も14歳。
丁度その頃、お互いの領地に跨る形で鉱山が発見されたのだ。
跨るといいつつも、本山は伯爵家の領地に在り、山裾がすこし侯爵家の領地に入っているだけ。
だが、開発するにもお金がかかるという事で、両家の結婚話を無能な父親が勝手に決めてきたのだ。
共同開発の名のもとに初期費用や開発資金は侯爵家が負担し、鉱山の権利や売り上げは折半とする事で話は決まってしまっていた。
こちらも格上の家門と縁づける機会だが、メリットは侯爵家の方が遥かに大きい。
彼らは今後鉱山で生まれる莫大な利益も得られる上に、次男を婿にと押し付ける事が出来るのだ。
前伯爵の祖父と私に話を通さずに、一時的に代理人をしているだけの無能な父が、一時的な金を目当てに決めた婚約。
だが、望まないとはいえ高位貴族と私の婚約話に、愛人のメリッサは怒り狂ったらしい。
そして、父を追い詰めて、アリッサも貴族と結婚できるよう貴族学院へと入れるという約束をさせられた。
そんな事をしても無理なのに。
「あの方達の脳内には花畑があるんでしょうね」
男爵家のキリアンですらも、そう辛辣な感想を漏らすほどだ。
黒に近い紫の髪に、冷たい紫水晶の瞳は、この国では珍しい色である。
幼馴染であり、侍従として仕えてくれていた。
男爵家にとっては口減らしであり、うまくいけば私の婿に据えて貰えるという下心から遣わされたのだ。
私は棘のある言葉に、微笑みながら頷いた。
「まあまあ、良いではないの。わたくしの自由になる為の布石ですもの。せいぜい頑張って頂かなくては」
「上手く、行かなかったらどうするのです」
ため息交じりに告げる白皙の頬に、私は悪戯を仕掛けるように指を滑らせた。
「そうなったら、お前に連れて逃げてもらうわ」
「悪い人ですね」
眉を顰めても、本当は嫌ではないのは知っている。
でも、たとえ彼が連れて逃げてくれなくても。
私は一人でも逃げられるからいいのよ。
でも領民だけは。
貴族の責務と権利を放り出しても、罪のない彼らの為にはきちんとけじめはつけてから去るつもり。
上手くいかなければ、私がきちんと責務を全うするわ。
貴族学院で三年に上がった時、可憐なアリッサが貴族学院に入学した。
病弱な私の異母妹は、病弱故に教育を受けていない。
そういう触れ込みで、教育の無さを誤魔化した。
入学前に慌てて施した淑女教育と、勉強の成果はあまり芳しくはない。
だが、それが異性達の同情と歓心を買ったようだ。
馬鹿でか弱い、美しい少女というものは男心を擽るものらしい。
私はわざと、マークスにアリッサの事を押し付けた。
アリッサにもきちんと、マークスは身分の高い人で、私の大事な婚約者だと言い含めるのも忘れない。
障害や背徳感で、燃え上がる恋心。
やがて二人は恋に落ちた。
アリッサはマークスだけじゃなく、色々な殿方に食指を動かしていたけれど。
それが理由で、義姉である私の元に苦情が舞い込むのは辟易したわ。
でも、お陰で友人と人脈が増えた事には感謝しなくては。
友人のロメラが、大袈裟に私に話しかけて来て、私は意識を戻された。
念願の婚約破棄が叶って、安心しきっていたかもしれない。
「あらいけませんわ、エミリー嬢。あの事、まだお伝えしていないんじゃなくって?」
「ロメラ嬢ったら、真実の愛で結ばれたお二人ですもの。きっと秘密は無いに決まっておりますわ」
私は大声でそう返した。
秘密、という言葉に人は弱い。
既に知っている令嬢達はくすくすと笑いさざめく。
アリッサに煮え湯を飲まされ続けていた彼女達は、秘密を共有する事で溜飲を下げていたのだ。
貴族学院、というものの、この学院はごく少数の優秀な平民にも門戸は開かれている。
ただしそれは、親が貴族籍を持っていた者限定だ。
この国の法律では、貴族であった、または元貴族である一親等以内の者であれば、平民であっても貴族籍に入る事が許される。
つまり優秀な平民をまた貴族へと戻す事が可能なのだ。
色々な事件を越えて、れっきとした平民は、叙爵という特例なしでは貴族になれない。
他国を含めて、色々動乱があったせいで制定された法律である。
いくら美しかろうが賢かろうが、平民は貴族の養子にも入れないので、物語の様に王子と結婚などという事も出来ないのだ。
そして、ただの平民と貴族も結婚が許されていない。
それ故に両者の間に生まれた婚外子は、平民となる。
片親が貴族でも、片親が平民だからその枠からは抜け出せないのだ。
アリッサの貴族学院への入学はこの穴を巧みに突いたものだった。
親が貴族籍を持っている者ではあるから入学は出来る。
ただし、庶子なので平民であり、貴族の養女にも配偶者にもなれない。
「そうですわよ、きっとマークス様は貴族籍をお捨てになられますのよ」
「素敵ですわね、真実の愛って」
他の令嬢も参戦してきて口々言われる言葉に、驚きのあまりぱくぱくと口を動かしていたマークスが、やっと声を絞り出した。
「どういう事だ?私が貴族籍を捨てる?」
令嬢達と目を見合わせて、私は首を傾げた。
「ええ、だって、わたくしが伯爵家を継ぐとして、アリッサにその権利もなければ、勉強もしておりませんもの」
「酷いわ、お義姉さま!またそうやって私を見下すのね!」
大きな緑の瞳に涙を溜めて、ポロポロと大粒の涙を零す可憐なアリッサに取り巻きの男たちが寄り添って勇気づけている。
マークスもその震える細い肩を抱き寄せた。
「大丈夫だアリッサ、私が何とかしよう。エミリー、君という女は何て意地が悪いんだ!」
「意地が悪い?まさか、婚約者だけでなく爵位を奪おうとする妹が意地悪ではないと、そう仰るの?」
私の問いかけに、怯んだようにマークスは辺りを見回した。
軽蔑する目、冷たい目、馬鹿にする目、呆れた目。
色々な視線に晒されて、言葉を呑み込む。
「だが、その権利はあるだろう」
「ございませんわ。だって庶子ですもの」
「…………は?」
一瞬の、長い間を置いて。
マークスはこれ以上ないくらい間抜けな顔を晒した。
彼は誤解していたのだ。
アリッサの母は「後妻」なのだ、と。
扇で口元を隠してくすくすと、満足そうに笑う令嬢達に、アリッサは不思議そうに首を傾げる。
「何故、庶子だといけないの?」
「……………えっ?」
それはそれは、素朴でありつつも、破壊力のある疑問だった。
思わず、というように、マークスも周囲の令息達も表情を強張らせて聞き返す。
この国では重婚は認められていないし、貴族を愛人として囲う事は許されていない。
貴族同士の婚外子は、教会を通じて貴族の家に養子に出されることになっている。
庶子に成り得るのは、片親が平民の場合に限定されるのだ。
従って、王国の法律では庶子は平民であり、貴族になれない者なのである。
マークスは驚きのあまりか、アリッサの肩から手を離した。
アリッサの周囲で、アリッサを崇めていた男達も少し距離が開いている。
貴族だから。
伯爵位であり、婿取りが可能だから。
馬鹿で扱いやすそうだから。
それに何より可愛らしいから。
一番の理由であり基本なのは、貴族だからである。
今後も、親しくしていれば益があるから。
けれど、何も権利の無い平民。
「いや、何故、……って、そんな事も、知らないのか?」
「貴族になれないって、昔お義姉様は意地悪で仰っていたけれど、嘘でしょう?マークスのお嫁さんになったら、私も侯爵夫人でしょ?」
ここにきて、黙って見守っていた男性陣も思わず、というように噴出した。
あちこちで、楽しそうな笑い声が上がる。
「後妻では、なかったのか。まさか、愛妾だなんて……」
「何で?何で皆笑うの?マークスは侯爵家の息子でしょう?結婚したら、私が…」
「ふふ、ふふふっ……一年もあったのに、何の話もなさってなかったなんて。真実の愛だというのに」
もし。
アリッサが弁えていれば。
私の忠告に忘れずに、マークスとも距離を取り、周囲に流されなければ。
私の母に苦痛を与えていた加害者でなく、同じく実母に振り回された被害者として救いの手を差し伸べる気でいた。
「……エミリー……知らなかったんだ……」
縋る様な目を、マークスが向けてくる。
もし、わたくしを裏切らなければ?
いえ、最初から私は貴方を望んでいなかった。
あの約束。
鉱山の権利を馬鹿な父親の交渉で半分失った時から、私は貴方の敵だった。
それでも私より賢く、誠実だったなら、共に責務を負う覚悟はしていたのだ。
私はただ、微笑みを返す。
「エミリー嬢。此度の話は本当かい?」
カツカツという軽やかな靴音を響かせて、歩いてきたのは第三王子だった。
銀の髪に、青の瞳の美しい王子の登場に、周囲が驚きの悲鳴を上げる。
私達よりも一つ年上で、去年卒業したばかりだ。
今はまだ王子だが、臣籍降下して公爵としての地位を賜る予定で。
彼が治める領地こそが、私やマークスの家が所有する領地と面しているのだ。
「ええ、今お話も済みましたの。じき、キリアンが戻りましたら、鉱山の権利書も殿下に献上致しましてよ」
「うむ……それで、例の話は本当に良いのか?」
美しい顔を曇らせて、第三王子は問いかける。
思い当たるのは、第三王子からの求婚。
マークスと無事婚約解消をしたら、と打診されていた。
だが、エミリーが引き換えに望んだのは。
「ええ、構いません。わたくしは爵位を返上し、領地も鉱山も殿下に献上致します」
「何故だ!!!」
悲壮な顔で叫んだのはマークスだ。
それはそうだろう。
今彼が何より欲しいのは、彼の物になる筈だった財産なのだから。
それが目の前で他の人間に渡されている。
「領民の為ですわ。第三王子殿下なら、公爵様として立派に我が領地も治めて下さいますでしょう。少なくとも数年越しの約束を直前になって破棄するような不義理な人間よりは、信頼出来ますもの」
「お義姉様、非道いわ!」
「あら、今まであなた方愛人母娘を本邸でお世話して差し上げていたのに?……もう王都の邸宅も売りに出したから、出ていく事になるでしょうけど」
「そ、そんな……!」
アリッサはおろおろとするが、周囲の令息達の顔色は優れない。
皆自分の未来を考える事に精一杯なのだろう。
彼女を慰める声も、彼女を励ます手も、何も差し出されない。
「それで……君は殿下の元へ嫁ぐのか……!浮気をしていたのは君もじゃないか!!!」
びしりと指をさしてマークスが糾弾するが、私は首を傾げた。
「いいえ?わたくしは、爵位を返上しましたので、貴族籍からも抹消されますわ?」
「………は?」
ぽかん、と目も口も見開いて、信じられないようにマークスは私を見る。
あまりにその顔がおかしくて、私の口から笑い声が漏れた。
「平民にまでなって、貫きたい真実の愛がわたくしにもございますのよ」
伯爵家の後継と、男爵家の次男として私達は出会った。
それからは、主人と侍従として過ごしていたけれど。
もう、それも終わり。
「尤も、あなた方と違って触れ合う事も、ございませんでしたけれど」
私の言葉に、マークスは絶望した表情を浮かべた。
手遅れなのだ、全て。
権利書が王族の手に渡る以上、彼や彼の家門がどう足掻こうとも覆せない。
私の不貞は立証出来ないし、出来たとしても。
思わず満面の笑みを浮かべてしまう。
貴族らしくはないが、もういいのだ。
彼が居てくれれば幸せ。
居なくてもそれなりに、私は人生を謳歌する。
「ああ、戻って参りましたわね、キリアン」
「はい。書類はお持ち致しました」
「では殿下、これにて失礼を致します。どうか、領民と領地の事をよろしくお願い致します」
「うむ。安心せよ。後の事は任された」
「では、皆さま、ごきげんよう」
私は淑女の礼を執ると、キリアンに目を向けて微笑んだ。
「さあ、後は貴方次第よ」
王都の邸宅を売った代金に、鉱山を売った代金、今までの貯金があれば、何処へでも行けるし何でも出来る。
私は答えを求めないまま、扉へ向かって歩き出した。
お屋敷の使用人達は、全員第三王子が雇ってくれます。やったね!
キリアン目線は近々アップします。
ちなみに庶子やら愛人やらの設定はこの王国だけの法律ですので、その点はご注意くださいませませ。
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです!
***
「真実の愛を追いかける」キリアン目線は29日の21時に公開予定です。