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鈴の音

 それから時々庭に出ては、影たちに話しかけた。姿は見えないし私の声が届いているか分からない。

 けれど、私が話し終わるまで影たちはそばに居てくれた。まだ会話は出来ないけれど、思いは通っている。

「今日は仕事帰りに綺麗な花が咲いてたよ」

「……」

「みんなは夏バテしてない?私はぐったりだよ」

「……」

「熱中症には気を付けてね」

「……」

 面白みのない他愛のない話。けれど影は居なくならなかった。

「また来てたのか」

「うん。みんなに会いたくて」

 時々畑いじりに来ていたりつが加わった日は、彼女が影たちの声を教えてくれる。


 不意にりつが私を見つめた。

「どうしたの?」

「きみ、畑にはよく来るのか?」

「うん。仕事で遅くならない日は来てるかな」

「そうか」

 もしかして邪魔になっていただろうか。話を聞いてくれていたと勘違いしていたらどうしよう。


 そんなことを考えていると、ふふっと笑い声かした。

「みんな、きみに会える時間が楽しみなんだって」

「ほんと?」

「ああ。きみが帰ってしまう時間が恨めしいと言ってる」

「そう」

 いつも私が屋敷の戸を閉めるまで、見守ってくれているのが分かる。

 振り返り手を振ると集まっていた影は揺れながら、分かれていった。


 どんな声をしているだろう。どんな顔で笑うのだろう。いつか知ることが出来る日が来たら、なんて言おうか。

 こんなことを考えていると、鈴の音が聞こえた。透き通るような音は、何故が心を掻き立てた。


 向こうから聞こえた。右に戻れば居間がある。音がするなら人が居る方だろうが、たしかに左側から聞こえた。


 長く続く廊下。この扉の先へは行ったことが無い。私の部屋は、居間から出てすぐの階段を上って2階の部屋。

 月夜からは屋敷の中は好きに歩き回っても構わないと言われていた。

 今までうろうろしなかったのは、どこか他人の家のように思っていたから。


 次第に住人たちと打ち解けるうちにこの場所に慣れてきた。それでも我が物顔で歩き回るにはまだ時間がかかりそうだった。


 部屋に戻ろうとしたが、もう一度鳴った。背を向けることは出来なかった。

 その音は私を呼んでいるような気がしたから。


 


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