住人達
「何を思い出していたんだい?」
月夜の目が優しく細められた。彼女の目は猫のよう。まるで心の中を見透かされているような気がするのは、気のせいだろうか。
「きみはよく顔に出やすいからね」
「そうですか?」
「ああ。懐かしむように微笑んでいたよ」
そんなことまでばれていたか。
少々恥ずかしくなり、手で頬を抑えた。
「で、何思い出してたか言ってみな」
美鷹が催促するが、すかさず兎月に止められた。
「別に悪いことじゃないんだし、いいだろ」
「そうね」
みんなの顔を見て、もう一度思い出した。
「みんなを好きになりたいと思った日のこと」
彼らとの生活は、ちよっと不思議なものだった。日頃何をしているのか知らない。
だけど、必ず屋敷にいる。時々外に出ているらしいのだが。
仕事が休みの日、少し早めに起きて居間に行く。みんなのことを知りたかった。
「あれ、美鷹は?」
「さっき散歩に出掛けたよ」
「そうなんだ。りつも?」
「りつなら畑じゃないかな」
窓を指差して椅子で丸まる兎月は眠たそう。これ以上話しかけない方が良いだろう。
畑に行ってみるか。居間を出て、長い廊下の途中に畑へ続きそうな扉を見つけた。戸を開けると、少し湿った土の匂いが流れてくる。
どこか懐かしくて落ち着くその場所にりつが居た。
「どうしたんだ?」
泥だらけになったりつが手を振っている。
「これ、りつが耕したの?」
「いや、白夜さんだ」
「そうなんだ。白夜さんってどんな人?」
「そうだな。虎みたいな人」
虎みたいな人とは。よくわからないのだが、りつは上手く伝えられたといった顔。
謎は増えたが、これからまた知っていけばいいのだろう。