好きの理由
思い出した。好きで溢れている日々は、幸せだった。まさに心が踊っているよう。
飽きることなく星を眺め続けた夜。嫌なことなんて、何一つ無かった。夜空が全てを吸い込んでしまったかのように、他はなにも見えなかった。
積み上げられた石垣もまた、いびつな美しさがあった。まじまじと見ては、その不思議な魅力にみとれていた。
そんな時間を無駄だと言われた日、好きが濁った。集めた天体図鑑や城の攻略本を捨てられた時、好きでいてはいけないのだと思った。
「こんなもの見てる暇があれば勉強しなさい」
「そんなもの買わずに、節約したら?」
「無駄遣い止めたらいいのに。そしたら化粧品もアクセサリーもいいの買えるよ」
よく言われていた。そうしているうちに、私の好きは否定され続け無駄なものだと。好きになることは悪いことなのだと思うようになった。
無駄なものは、生きるのに必要ではない。無くても困りはしない。けれど、それは心が折れそうになった時、支えになってくれたりする。
他人には理解してもらえないもの。そんなことにお金や時間を費やすのは、ばかばかしく見えるだろう。けれど、私には大切なこと。だから、手放したくない。
「まだ好きでいていいのかな?」
「誰の許可もいりませんよ」
「そうだね」
確かにシロの言う通り。それでも、肯定の声がほしい。意味のないことだと分かっていても。
「あなたが好きなものは、僕も好きなんです」
「なんで?」
理解してもらえなかったことばかり。今更分かってほしいとは思わない。物の優劣を共有するのは難しいものだから。
「なんでと言われましても。好きなものは好きなんですよ」
好きなんてそんなものでいいと言っているように、シロは笑った。
「確かにね」
その笑い方を好きになった理由は分からなかった。ただ、心がふんわりとしたものに包まれるような感じが心地よかった。