不在の席
りつは食事を口に詰め込むと、どこからともなく絵の具セットと紙を取り出した。なにかいい景色がみつかったのだろう。
食事をしながら、みんながその完成を待っていた。
食卓にはいつも不在の椅子がある。この椅子に座るべき人は、未だ姿を現さなかった。他の住人もめったにその姿を見たことがないという。
月夜の話によると、その人はひどく人見知りらしい。だから、その声も未だ聞いたことがない。
けれど、孤立している訳ではなさそうだ。時折その人の話が出てくる。
「白夜のやつ、また俺に雑用させやがった」
「美鷹が暇そうだったんでしょ」
「俺は忙しいんだ」
「そーですかー」
また2人が騒がしくしている。せっかく話題になったので、月夜に聞いてみることにした。
「あの、白夜さんってどんな人なんですか?」
「ああ、きみはまだ会ったことがなかったね」
「はい」
「今はまだ会うのは難しいかな」
月夜はしかめっ面になった。そう言われれば、何も言えない。
「まあ、いつか会いに来てくれるさ」
その言葉を信じていつか来るその日を待つことにした。
「出来た」
りつが私達に見せてくれた絵は、私が買ってきたコロッケとそれを囲む住人達。みんなが楽しそうな顔をしている。
その中に私もちゃんといる。どこかよそ者のように思っていた。けれど、りつから見たら違うのだと教えてもらえたようで嬉しかった。