防壁
強くあるために固めた防御は、音もなく崩れ落ちる。弱い自分を見ないため。自分で自分を守れるように。
それはいつしか周囲の優しささえも拒んでいたのかもしれない。けれど、その優しさも私には恐ろしかった。本当はシロの言葉も聞きたくない。他の人と同じようにはね除けてしまえばいいのに。暖かい言葉は優しく包み込んでくれるよう。マフラーのような、毛布のような。じんわりとしたぬくもりが、冷めた心を温めてくれる。
「大丈夫。あなたはここに居ていいんですから」
「私、なんの役にもたたないよ」
社会のために働くことも出来なくなり、居場所も無くなった。お金を生み出すことも出来ない。穀潰しと言われてもその通りだとしか言えない。
「意味の無い存在なんだよ」
「違います。あなたがここに生きている。それだけで僕は幸せです」
そんなの噓だ、と言おうと思った。けれど、シロの顔があまりにも泣きそうだったので何も言えなくなった。
なぜ彼がそんな顔をするのだろう。なにも関係ないのに。私の気持ちと同じような顔。
「あなたにそう言わせているのは、この社会ですか?」
「さあ、どうなんだろうね」
誰かのせいに出来るのならどんなにいいか。自分には関係ないと、悪いのはあいつらだと。そう思えていたらこんなに苦しくなってなんかいない。
いつだって責めるのは弱い自分だ。すぐに萎んでしまうこの心だ。
こんなに悲しいなら。こんなに苦しいなら、心なんて要らなかった。喜びも幸せも、要らなかった。