見えるもの
左右対称のお城はどれだけ見ても飽きない。じっと眺めていると、シロも一緒に見上げる。
「とても美しいですね」
「うん」
「上からの景色が見てみたいのですが」
「行ってみよう」
私の想像がどこまで作り込まれているか分からないが、中へ行ってみることにした。
意外にもしっかりとした造りになっていた。古い内装は、昔見たお城と似ている。足を進める度に軋む床や、風が吹くとガタガタと揺れる壁。そして、果てしない階段も。まるで、観光にでも来たみたいだ。
一緒に行ってくれる友達がいたら、楽しかったのだろうか。ひとりでいることに慣れた今、想像してもよく分からない。けれど、シロの隣での城内見学はいいなと思えた。
「本当に立派なお城ですね」
シロは辺りを見渡しながら、ゆっくりと階段を登る。おかげで、息を切らさずにすんだ。
展望台に着いた時には、足がぷるぷるしていた。けれど、シロは顔色ひとつ変えずに私に手を差し出した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
まただ。シロの瞳の奥が不意に歪んだように見えた。ふとした瞬間に見せる表情。けれど、すぐにいつもの彼に戻るから何も言えないでいた。
じっと見ていると、目が合った。不思議そうなの顔で、頭をかしげる姿はなんだか可愛かった。
私が何もの言わないでいると、シロは窓を指さした。
「景色を見に行きましょう」
「うん」
そこから見える景色は、どこまでも続く花畑。流れる川は輝いていて、汚れているものは何もない。目に見えるもの全てが、心地いい。
「あなたには好きなものは沢山あるのですね」
「そうだったのかな」
好きなもの、大切にしていたこと。確かにあった。けれど、時が経つにつれて褪せていく。覚えているのに、あの時感じたものが思い出せなかった。




