がたくた
私が頭で描いたそのものが目の前に広がっていた。虹の滝に星屑の池。綿菓子の雲の下には、大きなクッキーとチョコレートの家。その壁をつまみ食いするリス。
空では竜が優雅に泳いでいた。白い虎は木陰で寝そべり、兎と遊んでいる。
大きな鷹は、足元で私を見上げる。頭を撫でると、大空へ羽ばたいていった。
なんてことない、子供の頃の夢の世界。だけど、私が願った理想の世界はここだった。小さかった頃、絵本で見たものをかき集めたような場所。
「素敵ですね」
「うん」
「とても、あなたらしい」
嬉しいような恥ずかしいような。でも、これは紛れもなく私だ。嘘偽りのない姿を見せるのは躊躇われる。けれど、シロは素敵だと言ってくれた。
どんな褒め言葉にも敵わない。誰にも見せないように隠してきた。それなのに、彼に知ってもらえて嬉しいと思ってしまった。そして、そう思えたことがまた嬉しかった。
あの頃思い描いた景色とは変わらない。私の好きなもので溢れている。
「私、忘れてなかった」
「言ったでしょ」
「ありがとう」
シロが言ってくれなかったら、思い出せないままだった。私だけが知っている大切な思い出。
苦しくなった時、逃げられない時に心に描いていた。忘れるはずなんか無いのに、見つからないような場所に押し込んでいた。
「ただいま」
ここは私の帰る場所。もう一つの家なのだ。
「おかえりなさい」
シロはそう言って私に微笑みかけた。




