たまゆらの庭
シロは川に近づき、オーロラを両手ですくい上げていた。手から流れ落ちるそれは揺らめきながら川へ戻っていく。
あの川は触ってもいいものだったのか。さきほど、触れてみようか迷った末止めた。
揺らめく姿はオーロラさながら。すぐにでも、溶けてなくなってしまいそうだった。けれど、また川に戻るのなら大丈夫そうだ。
川の近くにいこうとすると、私を覆っていた花びらがシロの元へと吹いていく。そのひとひらが彼の手元へと収まった。そして、彼は立ち上がり振り返る。
優しく笑いかけられるのは、どうも心臓に悪い。薄い色の目が細められるど、こちらの心まで緩んでしまいそう。
「また会えましたね」
「うん。私、ずっと会いたかった」
「僕も同じですよ」
「ほんと?」
「ええ。あなたを待っていました」
彼の言葉はいつも温かい。熱すぎず冷たすぎない、心地いい温度。一定の温度で発せられる言葉は、心を揺さぶらない。
こんな風に話せる人は、どれ程いるだろう。私はまだ、シロ1人しか知らない。
汚れていたり、刺のある言葉が飛び交う世の中。耳を塞ぎたくなるような雑音の中で過ごすことが強要されるようなあの場所。
そこに居る時は気づけなかった。淀んだ環境は、感覚を鈍らせるようだ。
ここから見る景色は、こんなにも美しい。ほんのわずかな川のせせらぎさえも、聞き入ってしまう。
「ここは、不思議な庭だね」
「そうですね。僕はたまゆらの庭と呼んでいます」
「たまゆらの庭?」
「ええ。一瞬にして姿を変えてしまう。儚くも美しい場所と言う意味を込めて」
素敵な名前だ。その名の通り、散る桜は空へ舞い上がり雪となり降り積もる。かと思えば、白波に変わり寄せては返す。そしてそのしぶきはまた花びらに変わり、舞い踊った。




