雪の結晶
暇な時間が多くなったので、この屋敷を歩き回る時間が増えた。そのおかげか、見えるものが増えてきた。
廊下をすれ違う影が手を振ってくれてたり、風が花びらを運んでくれたり。今まで気づけないことに目を向けることが出来ているのかもしれない。
何もしない時間に罪悪感を覚えるが、反対に安心感もあった。
窓の外に見えるきらめき。近づくと、綺麗な雪の結晶が空から降ってくる。窓を開けると、冷たい風が吹き込んでくるがお構いなしに手を伸ばす。
手のひらにふわりと舞い落ちた結晶は、体温で溶けることなく輝いている。
どの結晶も同じ形のものはない。けれど、どれも綺麗でしかたない。
「きみ、何してんだ?」
「美鷹、見て。雪の結晶をつかまえたの」
この美しさを美鷹にも伝えたくて、彼のそばに駆け寄った。
「最近、ましな顔になってきたな」
「え?」
「前は笑ってても、笑えてなかったから」
美鷹は私の頬を軽くつねった。優しさが残った頬の痛みは、じんわりと広がっていった。
「言葉にはしねぇが、みんなきみを心配してた」
「ごめんなさい」
「謝ることはねぇよ。笑いやすくなったなら、それでいい」
「ありがとう」
「礼も必要ねぇよ」
ぽんと肩をたたき、去って行った。
生きてるだけでいいと人は言うけれど、実際はそんなことない。何もしていない人は、いい印象は持たれない。休むにしても覚悟がいる。
けれど、彼らはそんなことは少しも言わない。それがどれだけ嬉しいことか。なにかお礼が出来ないかと、雪の結晶を握りしめた。




