夏の夜
今日のメニューは夏盛りだくさんだった。冷やし中華はもちろん、きゅうりがそのまま置いてあったり、向こうにはスイカも見える。
「待ちくたびれてしまったよ」
「ごめんね、りつ」
「僕も待ってたんだからね」
兎月は頬を膨らませている。彼がこんなことを言うのは珍しい。いつも私が来たら笑って手を引いてくれるのに。
「そんなに急かさなくてもいいだろ」
「だって、早く花火見たいよ」
「子供じゃねぇんだから」
兎月の怒り顔は美鷹に向けられた。
「だって、ずっと楽しみにしてたもん」
彼の顔は、すぐさましょんぼり顔になった。
「そんなに焦らなくても、夜はまた来るさ」
「そうだけど……」
月夜に諭されても、その顔は晴れない。
「ごめんね、私が遅かったから」
「ううん。僕が悪かったよ」
彼の顔は晴れることなく、食事が終わった。「ごちそうさま」とつぶやくと、俯きがちに食堂を出て行こうとする。
「兎月、この後花火見るんじゃないの?」
「もう遅いから駄目だよ」
そう言っているがまだ、夜の七時。世間一般では遅い時間には入らないだろう。それに、花火大会は今始まったばかり。
近くで音が聞こえてくるが、部屋の中からは見えない。窓の反対側で上がっているのだろう。一緒に外に出ようと促すも、首を横に振り兎月は部屋を出て行った。
響き渡る花火の音はどこか寂しい気持ちになった。




