夏の音
何の収穫もないまま、1週間が過ぎた。あれから鈴の音は聞こえていない
音の主に会えなかったのは残念だが、その時が来たら会えるだろうと月夜が言った。だから、それまで待つことにした。
部屋で微睡んでいると、いつの間にか鈴虫の鳴き声が聞こえてくるよいになっていた。ここへ来る前はそんなこと、気にもとめなかった。
忙しなく過ぎる毎日に、必死にしがみつく日々。余裕の欠片もなかったあの頃とは全く違う。
仕事が終われば、夕日が沈む前に帰路につく。みんなからの「おかえり」の声に返事しながら、部屋に行く。その途中で、声が掛かる。
「今日のご飯は冷やし中華だよ」
「やったー」
「デザートにかき氷もあるから、早く着てね」
「はーい」
急いで部屋に行き荷物を置く。
私の部屋には、あまりものがない。数少ない服に必要な物だけの日用品。ここへはリュック一つで引っ越してきた。
殺風景な部屋だが、家具はみんなが作ってくれたもの。だから、とても気に入っている。
レースの刺繍が入ったカーテンは兎月、繊細な模様の脚のクローゼットやベッドは美鷹やりつ達が作ってくれたらしい。他にも小物やテーブルなども彼らの手作りだった。
この部屋に入るのみんなの優しさを感じる。職場でどんなに悲しいことがあっても、ここへ戻ればみんながいる。
そう思えるから私は明日へ進める。
「きみー。まだなのかー」
下の階からりつの催促の声がかかる。相当お腹が空いているようだ。先に食べていてもいいのにと言っているのだが、いつも私を待っていてくれる。
りつがつまみ食いしているのはお馴染みの光景。彼女を待たせないようにと、急いで居間に降りた。




