きょうだい-③
これは本当に、ほんっとに誰にも言ったことない話なんだけど。言うつもりも、無かったんだけど。姉ちゃんが頑張って僕に話をしてくれたから、僕も話すよ。
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何かきっかけがあったわけじゃない、と思う。僕のいっちばん古い記憶の中でも、そうだったんだけど。…うわー、人に自分のこと話すって緊張する。心臓痛いし、口から飛び出そうなくらいバクバク言ってるんだけど。あー、ごめん。真面目に話すよ。緊張してるんだって。
まあつまり、僕は昔から憧れてるんだよね。例えば、物語の中のお姫様だったり、クラスの女の子だったり、姉ちゃんにもそう。きれいに着飾って、かわいいアクセサリーとかつけて、嬉しそうに笑ってる。
心の底から、羨ましかった。
でも僕は、そんな風に着飾れない。
だから、本当に悲しかった。僕はああいう服を着れないんだって知ったとき。
あ、でも別に僕は男の子であることが嫌なわけじゃないよ。ただ……
「ただ、自分を好きになりたかっただけ」
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「ねぇ、明日暇?」
僕が、自分のことを全部―とまではいかないけども―話し終えて、部屋に多少気まずい空気が満ちる。喋ってしまったことを後悔しつつ、取りあえず反応を見ようと少し視線を上げると、顎に手を当てた姉ちゃんとバッチリ視線が合ってしまった。と思ったら突然あの発言。
話の内容に触れてこないのはありがたい、と思う反面、何も言わないのかと拍子抜けした部分もあり複雑な心境だ。
「…い、おーい聞いてる?」
「あ…ごめん。えっと明日、だよね。空いてる、けど」
返事を聞くやいなや、姉ちゃんは立ち上がって僕に手を伸ばした。
「大丈夫だよ、晶。お前がどんなことを考えて恐れていても、私は晶の味方で、晶は私の大事な弟だ」
だから、お前が自分のことを好きになれるように、好きになれなくたってずっと、私が手を繋いでるよ。 何があっても、一人にしないから。
涙で視界が滲んでいく。
姉ちゃんの言葉は、ひどく無責任に聞こえる言葉で、何が大丈夫なのか分からなくて。
でも、その無責任な言葉に、下を向いて静かに泣き出した僕と慌てて目線を合わせる姉ちゃんに、これ以上ない安心感を覚えて。ポロポロと途切れることなく涙が溢れた。
「明日、晶が好きな服を買いに行こう。美味しいものも食べよう。お前が好きなことを、たくさんしよう」
俯いたままの僕に姉ちゃんはゆっくりとした口調で語りかけ、手を握り、肩を貸して、頭を撫で続けた。
○輝海
20歳。大学生。
○晶
13歳。中学生。