きょうだい-②
最近、姉ちゃんの様子が変だ。
見るからに何かが変わった訳じゃなくて、説明しにくいけど、でもとにかく変。
例えば、なにか考え込んでいる時間が増えたり、僕の方チラチラ見てきたり。ほんとーに変。
あと他に変わったことといえば………あ、たんすの中身。姉ちゃんが着ないような服が増えたかも。なんというか、韓国系?の服が好きだと思うんだけど、フリルとか多めのかわいい服が増えた気がする。
母さんとかは気づいてない、と思うんだけど……心配だし聞いてみようかなとか考えてた。でも、そこでなんとなく頭に浮かんだ可能性。最近の姉ちゃんが変な理由が、もしそうなのだとしたら。僕は、どうしたらいいんだろう。
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そんなモヤモヤを抱えたまま、気づけば一週間。テスト期間も近づいてきたことだし、僕は無心で勉強に打ち込んでいた。
ぷっつりと集中力が切れて、ふらふらとベッドに飛び込んだ。窓の隙間からかすかに聞こえる車の排気音を背に、ベッドに置いてあるぬいぐるみを引きよせる。
姉ちゃんが変な理由に思い至ってから、僕は今までにないほどに絶望し、そしてそれ以上に動揺した。自分が周りとズレてることくらい、誰かに言われなくても分かる。だから、自分のことを誰かに話すのが何よりも怖いし、それを悟られるのが嫌だった。
誰かの前で僕はいつも、「型にはまった普通の子」で居た。
姉ちゃんが嫌いなわけじゃなくて、むしろ仲は良い方だと思う。だからこそ、僕の誰にも言えずにいる秘密を知って、距離ができてしまうことが恐ろしい。引かれることはないかもしれない。でも、何を言われるかが、怖かった。
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「入ってもいい?」
ノック音と共に声がかけられる。姉ちゃんの声だった。
ほんのちょっとびっくりして、返事をするまでに妙な間が空いてしまった。
「あ、うん。大丈夫だよ」
姉ちゃんはドアから顔をのぞかせたあと、申し訳無さそうな顔をした。
「ごめん、勉強してた?」
「いや、今は休憩中だから」
「良かった~、邪魔しちゃったかと…」ヘヘ、と笑いながら入ってくる。
取りあえず座布団代わりのクッションを渡す。それを受け取りながら姉ちゃんは、ローテーブルにプリンを二つ置いた。
このタイミングで部屋に来るってことは……自分の部屋なのに落ち着かなくて、ソワソワしてしまう。
「急にどうしたの?」
黙ってても始まらない、と思い口を開いた。
「うーん、なんか最近調子よくなさげだったからさ」
「…そう?僕は姉ちゃんのほうが変だったと思うんだけど」
なんだかトゲがある言い方に聞こえる。失敗したかな、と思いながら様子を伺う。
「えっマジ?」
「うん」
姉ちゃんは一瞬考える素振りを見えたあと、「よし、うん」そうして腹をくくったように僕を見た。
「単刀直入にいこうか。あのさ、私は好きな格好したら良いと思うんだよね」
「…あ、うん」
「…何その反応。まあいいや、先に進もう」
ローテーブルを囲んで、二人してプリンをつつきながら、大真面目な顔して真面目な話が進んでいく。
「お前がどんなふうに思ってるかは知らないけどさ、やりたいことのハードルが高いんなら段階踏んでけば良いんだよ」
いきなりラスボスに勝てるわけじゃないっしょ。その前に中ボスとか居るわけじゃん。…まあ何が言いたいかって、最終的にそれを達成できるように少しずつやってけよって話。
あまり話をまとめるのが得意じゃないという姉ちゃんは、ジェスチャーも使って一生懸命に話をしてくれた。そのときに、僕がなにも話さないのは不公平な感じがして。だから、気づいたら口を開いていた。
「あのさ…」
本当になにも考えてなくて、だから言葉が詰まった。そんな僕を、姉ちゃんはなにも言わずに、なんでもない話をしてるときみたいに、ただ待ってくれた。