番外編⑥ 終わり
「パトリーナから離れて!」
「近寄らないで!」
友人達の声が聞こえた。
「な、何よ!あんた達前回パトリーナに対して冷たい態度をとった同級生だった人達なんでしょう?だから今回、守ろうとしているんじゃないの?」
「そうよ、わたしは前回パトリーナを裏切ったわ。友人なのに噂に惑わされた、ずっと後悔して生きたの」
「わたしもそうよ、友人なのに信じてあげられなかった。お墓参りすらできなかった、謝ることもできなかった。だから今回は何があっても守ると決めたの」
「わたしもそうよ!」
「わたしだって今度こそパトリーナのそばにいるわ」
「あんた達だってわたしと変わらない裏切り者のくせに今更いい顔して!パトリーナだって記憶を取り戻したらあんた達のことも信じられないと思うわ」
ーーこの会話は?
わたしの前世?みんなわたしと関わっていたと言うの?
体調が悪い中頭が回らない、わからないことばかり……
「君たち、いい加減にここで話すのはやめてくれないか?」
ーーこの声は……ハリス様?
「パトリーナは今体調が悪くて倒れているんだ。もし意識があれば全て聞かれているんだ。前世の記憶のないパトリーナに聞かれるわけにはいかない。みんな部屋から出て行け!」
「ふん、もう、どうせ死ぬだけなんだからこんな女どうでもいいわ」
マーガレット様は吐き捨てて去っていった。
わたしは倒れただけなのに死ぬことを前提で話されている。
前世でわたしは早死にしたのだろうか?
「すみません、パトリーナの体調が落ち着いたらお見舞いに伺います」
友人達も医務室から出ていった。
「ジェシー、君は帰らないのかい?」
ハリス様の冷たい声。
そして二人も医務室から出ていった。
◇ ◇ ◇
隣の部屋に俺はジェシーを連れて入った。
「僕は……今回も守れませんでした、関わらないことが守ることだと思ったのに……いつも目がパトリーナを追ってしまっていてマーガレットにそれがわかってしまったみたいで……マーガレットは僕が決着をつけます」
「決着?」
「ジェシー、君に犯罪を犯せと言っているわけではない。マーガレットは警察に突き出す、それできちんと罰してもらう」
「だけど……」
「そのあとは、国外追放にしてパトリーナには接近禁止、もう二度とこの国に戻ってこれないように最北の国にでも住んでもらうさ」
「そんなこと出来るのですか?」
「俺の母親は我が国の現国王の妹、父親は筆頭公爵家の当主。そして俺は公爵嫡男。この国の国王陛下には幼い頃から可愛がっていただいているんだ、マーガレットの罪を問い、害があることをきちんと話せば俺の言った罰くらい聞いてもらえるだろう。
それにマーガレットの父親は違法薬物の売買をしているしマーガレットはそれを先生達に安く売って先生達は高い値段で売り荒稼ぎをしていたらしい。
さらに自分の体も使って先生達を懐柔していた。これだけの罪があれば未成年でもしっかり罰を与えられるよ」
ーーま、薬の売買をさせるように持っていったのは俺なんだけどね。この国の悪い奴らにマーガレットの親なら金に困っているから簡単に言うことを聞くだろうと教えたのは俺だ。
まさかその薬を使って先生達を懐柔してパトリーナに酷いことをしようとするとは思わなかった。それも自分の体まで使って……
さすが前世で男達の慰み者になっていただけある。しっかり体が快楽を覚えて17歳の体でも男をたらし込んでいる。
「パトリーナは全く前世の記憶はない。だからこのまま守ってやりたい。もう二度と君には近づいて欲しくない。この前も警告したはずだ、その所為でパトリーナを守れなかった俺も大概だけどね」
ーーあの時ジェシーを追って話をしなければパトリーナが襲われることなく俺が守ってあげられたのに。
なんのためにこの国に来たのか……彼女を守るためなのに。
予想より早い病気、また肺癌かもしれない。
俺はパトリーナの心を、そして病気から守るためにこの国に来たんだ。
前世の俺は医者だった。だからこの半年現代医療についてしっかり知識を蓄えてきた。
今は医師ではないけど、知識があればまた病気になった時彼女の病気を治す手立てになるだろうと思って。
「………僕は……パトリーナの前から去ります」
そう言うとジェシーは頭を下げて「今度こそ彼女を救ってください」と去って行った。
俺が医師だったことを覚えているのだろう。
そして……パトリーナはやはり今回も肺癌だった。
だけど医療技術は進歩している。すぐに俺の国に連れて行き治療を開始した。
痩せて顔色が悪かったパトリーナも少しずつ元気を取り戻して行った。
一年かけて治療をして、完全に病気を克服したパトリーナ。
「パトリーナ、俺と結婚して欲しい」
俺はパトリーナにプロポーズをした。
「ハリス様………こんなわたしですが……よろしくお願いします」
やっと、やっと、俺はパトリーナを幸せにすることができる。
病気の間、パトリーナは辛い治療も必死で耐えた。慣れない国で過ごすのも辛かっただろう。
それでも生きようと頑張ってくれた。
『ハリス様は留学したのに……わたしのせいで途中でやめてしまうことになってすみません』
パトリーナは何度も謝ったけど、俺が留学したのは初めは自分のためだった。だけど前世を思い出してからはパトリーナを守るためだと目的が変わっていた。
だから留学をやめたことなんてどうでもいい。
俺の隣に寝ているパトリーナを抱きしめた。
「もう絶対に離さない。愛しているパトリーナ」
終わり
◇ ◇ ◇
「パトリーナ、結婚おめでとう」
お兄様がわたしを抱きしめた。
わたしを見つめるお兄様の目には涙が溢れていた。
「お兄様ありがとうございます」
わたしは病気に勝つことができた。
頭がボーッとしていた医務室でのみんなの会話……
結局よくわからないで終わった。
ハリス様に後で聞いたけど、「なんのこと?」と言われた。あれは全て夢だったのかもしれない。
ーーーーー
「パトリーナ、今回は幸せになれてよかった」
俺は前世でジェシーの弟だった。何故か今回パトリーナの兄として生まれた。俺はパトリーナに恋をすることはできなかった、だけど家族として彼女を愛することができた。
ーーーーー
「僕が君の前に現れることは二度とない、幸せになって欲しい、パトリーナ……」
僕はパトリーナとハリス殿の結婚式の日、遠い場所で青い空をじっと見上げた。
ーーーーー
「寒い、何もない、なんでわたしがこんなところで暮らさなきゃいけないの!」
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
数年後……
「な、なんでここに居るのよ!」
「妹のためにお前には死んでもらわないといけない、もう二度と生き返ってくるな」
「や、やめて……い、いや……死にたくない……」