番外編④
なのに…………
マーガレット様は懲りずに何故もわたしに絡んできた。
「パトリーナ様!どうしてわたしの教科書を隠すんですか?」
「わたしの悪口を陰で言ってると聞きました……わたしが何をしたというのですか?」
もちろんわたしは何もしていないし何も言っていない。そのことを彼女に伝えても彼女は
「ずるいです!男爵家だからとわたしを見下しているのですね?」
と訳のわからないことを言い返してくる。
どんなにやんわりと諭そうとしても全てわたしが悪いことのように言ってくる。そしてそれを他の生徒達に言って回る。
だけど友人達は皆高位貴族。わたしと同じ侯爵家や公爵家のご令嬢、そして中には王女殿下もいる。
その人達が常に誰か一人はわたしといるのでわたしの身の潔白は保証してもらえる。
そのことをマーガレット様に伝えると
「パトリーナ様が他の子に命令してわたしに意地悪をしているのでしょう?」と泣き出した。
もう何を言ってもわたしを悪者にしたいらしい。
困り果てていると先生から呼び出しがきた。
「パトリーナ、君はマーガレットを虐めているらしいな?学校では親の地位は関係ないと知っているだろう?何故自分の身分を盾に傲慢に振る舞うんだ?」
「わたしは何もしていません」
「全く自分の非すら認めないんだな!」
机をバンッと叩いてわたしを脅すように睨む。
「大体自分の非を認めない奴は傲慢でプライドが高い、お前みたいな奴は学校に通う資格すらない」
「それはどう言う意味でしょうか?」
「はあ?俺に逆らうのか?いいだろう、これからの学校生活を楽しみにしていろ、もう通いたくないと思っても遅いからな」
そう吐き捨てられた。
ーー何もしていないのに認めろと言われ、何もしていないのに傲慢だと罵られた。
マーガレット様は先生に泣きついたのだろう。そして全て彼女の言葉を信じきってわたしの言葉など全く聞こうとしない先生。
それからの学校生活はキツイものがあった。
授業中、少しでも姿勢を崩して座っていると、「パトリーナ、なに行儀悪く座っているんだ!」と怒られた。
宿題を提出していても
「宿題が出されていないぞ」と怒られた。
酷いのはテストの点数だった。
確かに確実に解いたはずのテスト。何度も見直したのにわたしの点数は10点だった。
そんなはずはない、今までほとんど90点以上は取っていたのに。
先生におかしいと言ったのに、「お前の自信はどこからきているんだ?」と一蹴された。
なのにテストの答案用紙は返ってこない。
「お前の答案用紙はどこかへ行った」と言われて終わった。
友人達も一緒に抗議してくれたのだけど、先生数人はわたしに対してだけ冷たい態度を崩さなかった。マーガレット様はそれを見てとてもご機嫌だった。
「パトリーナ様ってやっぱり日頃の態度が悪いから先生達も見ていらっしゃるのよ」とわたしに言ってきた。
少しずつ周りの空気が態度が、変わっていくのを感じた。
友人達だけはわたしを信じて守ってくれるのだけど、それでも先生達の態度は厳しいものがあった。
放課後、先生から叱られて課題を出された。一人教室で課題をしていたら、ジェシー様が教室に現れた。
「パトリーナ嬢、また居残りをしているんだね」
「何か御用がありましたか?ラングレー様?」
「マーガレットが君に対して執拗に絡んでいるみたいで心配しているんだ」
「何故心配を?」
「あいつは俺が興味を示したものに対して敏感で、気に入らなければ排除しようとするんだ」
「そうですか、ではわたしには当てはまりませんね」
「………どうして?パトリーナ嬢はわかっていてそんなことを言うのか?」
「どう言う意味でしょう?」
意味がわからなくてキョトンとしていると彼は驚いた顔をしていた。
「君はあのパトリーナだよね?」
「あのとは?どう言う意味なのでしょう?」
「覚えていない?」
「何をですか?」
最近こんな感じの会話が何度かあった。
マーガレット様の「なんで覚えていないのよ!あんな死に方をしたくせに」
と言った言葉を思い出した。
「…あっ……最近周りで覚えていないのかと何度か言われたことがありますがわたしにはなにも身に覚えがないのです」
「……うん、覚えていなくていいと思う。マーガレットのことは僕がなんとかするからもう少しだけ我慢してね」
「ラングレー様が悪い訳ではありません、気にしないでください」
「いや、全ての元凶は僕なんだ」
わたしを見る彼の瞳は哀しみと…何故か愛情を感じた。
彼が教室から帰った後わたしは課題をなんとかやり終えて先生に提出して帰ろうと席を立った。
「パトリーナ、課題は終わったのか?」
一番絡んでくる先生がニヤニヤしながらわたしを気持ち悪い目で見つめてきた。
「はい終わりました」
「こっちに持ってこい」
嫌ですと言いたいけど提出物なので仕方なく渡すために先生に近づいた。なんだか気持ちが悪い……
先生は突然わたしの手首を掴んだ。
「キャッ!」思わず声が出るとわたしの口を手で塞いだ。
「うっ…く……くる………」
怖くて声が出ない。ガタガタ震えて固まって助けも呼べない、逃げることもできない。
「へぇ、いい体しているな。アンタの純潔悪いがもらってやるからな」
わたしは怖くて、でも気持ち悪くて、頭を横に振って嫌だと伝えた。
「思ったよりいい身体しているな」
先生はわたしの顔をべろっと舐めた。
「い、い……やぁ……や、やめ……て」
ーー誰か助けて!気持ち悪い、怖い、嫌だ、いやだ、イヤダ!
先生がわたしの胸に手を置いた。
「あ、あーーーー!!」
わたしは大きな声で叫んだ。
「やめろ!」
先生は慌てて口を塞いだ。
「ん、っん、」
口を塞がれたけど身体全部で暴れた。だってこれ以上触られたくない!
抵抗していると
「大丈夫か?」
その声は………
ーーハリス様?どうしてここにいるの?
「お前は誰だ?」
先生が見知らぬ男が教室に現れたので驚いてわたしを離した。
「ハリス様?」わたしは先生の体から離されてホッとして力尽きて床に座り込んだ。
「パトリーナ、怖くないか?」
そう言ってわたしの手をそっと握ってくれた。
「……だ、大丈夫です」
「良かった間に合って。見張りをつけていたんだけど今日に限って報告が遅くなって慌てて駆けつけたんだ」
「報告?」
「とりあえずこの先生、取っ捕まえて警察に引き渡そう」ハリス様は先生を数発殴り、手首と足首をロープで縛り床に転がした。
わたしはハリス様に何故か抱っこされている。
「パトリーナが先生達に酷い目に遭っていると聞いていたんだ。だけどなかなか証拠がなくて俺の部下達に調べさせていたんだ。今日の放課後のことも報告が入っていたんだけど、ジェシーの方に気がいってしまい君のこと、目を離していた隙にあの先生とか言うバカな男がパトリーナを襲おうとしていたんだ。報告に来ないので教室の近くに来たら……まさか自分の生徒を襲おうとするなんて……ジェシーを追いかけさせなければよかった」
わたしを抱き抱えたまま大きなため息を吐いてハリス様は何度も「ごめんね、怖かったね」と言ってくれた。
ーーどうしてハリス様が学校にいたのだろう?