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part Kon 4/21 am 6:23




 いつものように列車の中は かなり混んでいた。

 

 奥へ進み ドアの前を確保し 窓の方を向いて立つ。

 大抵 次の菊野井きくのい駅でさらに通勤客が乗り込んできて 藤浜まで身動きも取れない状態になる。

 そうなると スマホすら いじれなくなるので 今のうちに 素早くイヤホンをつけ 音楽アプリを起動する。

 

 ティーグロの『君を想うとき』がかかる。

 2年前のナンバーだけど 春らしい曲で 今週は ヘビーローテにしている。

 最近は けっこうティーグロがお気に入りで ちょくちょくダウンロードして 曲にも少し詳しくなってきた。

 

 夏休みに 臨港アリーナでツアーがあるらしい。

 行ってみたいけど お金無いしなぁ…。

 


 中学のころは2人組の男性アイドル『HALハル&TELLテル』にどっぷりハマっていて 友だち達と雑誌の切り抜き帳を作って 教室に持ち寄って大盛り上がりするのが日常だった。

 お小遣いも ほとんどが グッズの購入に消えていたのが 高校に上がってからは 新曲こそ欠かさずダウンロードするものの 前ほどの情熱はなくなってる。

 

 歌は 相変わらず好きなんだけどね…。

 スマホを操作して フォルダを『HAL&TELL』に切り替える。

 


  ♪~ どんなときも キミを~

  ♪~ どこにいても キミを~

  ♪♪ 見つめている 守ってあげる~

 


 何回聞いても 2人のハモリのところがカッコいいな…。

 思わずサビを口ずさみそうになる。

 ダンスの振り付けも メッチャ決まってるし。

 TELLくん やっぱカッコいいよね。

 

 ……でもなぁ。

 身長がねぇ。

 HALくんは 178㎝ で4㎝差。

 TELLくんにいたっては 174㎝で同身長…。

 王子様に守ってもらうって感じじゃないよね…あたしは。



 

 ドンっ と肩で押されて 現実に引き戻される。

 駅に着いたみたいで次々と通勤客が乗り込んできて たちまち身動きが取れなくなる。

 あたしみたいな デカ女でも大変なのに さっきの華奢な聖心の娘なんて 息すらできないんじゃない?

 ちょっと心配になって辺りを見回す。

 

 ……ちょうどあたしの斜め後ろあたりに あの2つ括りのキレイな栗色の髪が見えた。

 あんな感じの華奢で可憐な娘だと 男の子も守ってあげたいって思うんだろうな…。

 あたしでも守ってあげたいって思うくらいだし…。

 通学キツイけど お互い頑張ろうね。

 彼女の肩が 背中に押しつけられるのを感じながら 妙な連帯感を感じ 心の中で応援メッセージを送ってみる。

 そのとき お尻に違和感を感じる。


 触られた?

 

 いや こんだけ混んでるんだもん なんか偶然当たっただけ。

 もしかしたら気のせいかも知れないし…。



 しばらくすると また お尻に何かが当たった。

 今度は 気のせいじゃない。

 いや でも こんだけ混んでたら 偶然当たっちゃうこともあるよ…。

 あたしに痴漢するやつなんて いないだろうし…。



 それからも 断続的に何かが あたしのお尻に当たり続けた。それは 男の人の手の甲のような気がした…。

 

「痴漢っ!」


 ……って叫ぼうかと何度も考えたけど 勘違いだったら恥ずかし過ぎるので 我慢する。




 カーブに差し掛かり 列車が大きく揺れたときだった。

 その手が あたしの右のお尻を揉みはじめた。

 今度こそ『痴漢っ!』って叫ぼうとしたけど 怖くて声が出せない…。

 今 自分の身に起こっていることが 理解できず頭の中がグルグルと回り始める。


 怖い…。

 怖いよっ…。


 男は黙っているあたしに 気をよくしたのか さらにしつこくあたしのお尻を弄ってくる。

 猛烈な嫌悪感が背筋を駆け上がってくる。

 それでも どうしても声を出すことができなかった。

 自分の身に 起こっていることを受け入れることなど できるはずもないのに 一切 声が出せない。

 身体も金縛りにあったように 指1本動かすことができない。

 そして 気持ち悪くて 怖くて仕方がないのに 泣くことすらできなかった。


 怖い…。

 怖いっ…。

 怖いよっ…。


 男の手は お尻からさらに下に伸び スカートの中へ侵入しようとしている…。


 

 嫌だっ。

 嫌だぁ…。


 

 誰か…。

 

 誰か助けて……。

 ………。

 ……。

 …。




                        to be continued in “part Aki 4/21 am 6:41”








 

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