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「ルーシーさん、ゾーイさんが!」
「ええ。ゾーイは敵を食い止めます」
ルーシーの声は心無し、震えている。
「そんな………」
麻衣が振り返った。
ゾーイはバイクを器用に旋回させ、ロボットたちのバイクへと突撃していく。
「最後のバリケードです! 麻衣ちゃん、集中して!」
麻衣は後ろ髪を引かれる思いで、前を向いた。
バリケードの先に、マザーメカがそびえ立っている。
「親玉を止めれば、ロボットたちも停止して、ゾーイも助かります!」
ルーシーが警備ロボットを数体、撃ち倒し、バイクをジャンプさせ、バリケードを飛び越えた。
見事に着地し、車体を横滑らせて停止する。
「麻衣ちゃん、ヘルメットを脱いで! 走って!」
バイクを降りたルーシーが追いすがるロボットたちの前に仁王立ち、ハンドガンを撃ちまくる。
「はい!」
麻衣はヘルメットを脱ぎ捨てた。
そして、走りだす。
数百m先の赤いボタンしか、見ていない。
あらゆる機械や弾丸を感知するレーダーも、生身の人間である麻衣に気付けない。
そんな人間など、この世界には存在しないのだから、当然だ。
備える意味がない。
マザーメカは無駄な防御策など採用しない。
一縷の望みに賭ける人間の脳内チップに反応し、迎撃して命を奪う。
今までは、それで成功してきた。
そう、今までは。
異世界からやって来た女子高生、麻衣は走る。
ただただ、必死で走る。
ルーシーとゾーイのために。
この世界のために。
胸が苦しい。
酸素が足らない。
疲労で、足がおぼつかない。
だが、走った。
とにかく走った。
ルーシーとゾーイが言った通り、マザーメカの迎撃システムは、麻衣に気付かなかった。
(もう少しっ、もう少し!)
フラフラになりつつ、麻衣はマザーメカまで、たどり着いた。
ここに及んでようやく、あり得ない存在の接近を認知したマザーメカ周辺の警備ロボットたちが、未知の侵入者に顔を向ける。
しかし、もう遅かった。
天才科学者を父にもつ、別の世界から来た、ごく普通の女子高生、麻衣は残りの全体力を振り絞り、大きな赤ボタンを両手で押した。
地響きのような音を立て、マザーメカが機能を停止する。
周りの全てのロボットが、糸が切れたように、バタバタと倒れた。
全力を使い果たした麻衣も、その場にうずくまる。
麻衣が、この世界を救ったのだ。
「やったね、麻衣」
「麻衣ちゃん、ありがとう」
ゾーイとルーシーが、満面の笑みを見せた。
2人はあわや、ロボットたちの餌食となる寸前、マザーメカの機能停止で助かったのだ。
「お役に立てて、良かったです」
麻衣も笑顔で返す。
「これで、外のエリアに行けるわね」
「麻衣も、いっしょに行こうよ!」
「えーと………そうですね…」
麻衣が右手に持ったヘルメットを見る。
使い方が分からないため、今は普通のヘルメット以上の価値はない。
「はい! いっしょに行きます!」
それしか、選択肢がなかった。
と、その時。
3人の眼の前に、麻衣と同じヘルメットを被った、くたびれた白衣を着た中年男性が出現した。
「おお! 麻衣!」
驚きでポカンとする3人の中に愛する娘を見つけ、白衣の中年男性、すなわち藤堂虎男が安堵の声をあげる。
「お父さん!? どうして!?」
「どうしてもこうしてもないだろう! 異世界転移ヘルメットが無くなってるから慌てたぞ! もうひとつ作って、迎えに来たんだ。ヘルメット同士で位置が分かるようにしておいて良かった。危ないところだ」
虎男が、ルーシーとゾーイに眼を向ける。
「ん? 彼女たちは?」
麻衣は虎男に、事の経緯を説明した。
「何だって! 麻衣がそんな危険な目に!」
虎男が青ざめる。
「早急にヘルメットに防御システムを装備しないとな………」
ブツブツと、何やら呟きだした。
「よし、麻衣! すぐに元の世界に戻るぞ!」
「ええ!? ちょっ、ちょっと待って!」
麻衣が、ルーシーとゾーイの前に立つ。
「そういうことなので、わたしは元の世界に帰ります。ごめんなさい」
「何で謝るんだよ! 良かったじゃん!」
「そうよ。また今度、ゆっくりと…って、それは無いわよね」
2人が笑った。
「いいえ、また来ます!」
麻衣が、力強く頷く。
「お父さんにヘルメットの使い方を教わって、必ず2人に会いに来ます!」
「そっか………へへへ」
照れたゾーイが横にした人差し指で、鼻の下を擦った。
「そうね、また。待ってるわ」
ルーシーも頷き返す。
麻衣は2人と順に握手した。
そして、ヘルメットを被る。
「お父さん、お待たせ」
「よし」
虎男が麻衣のヘルメットを何やら操作する。
次の瞬間。
麻衣の視界は見慣れた虎男の研究室へと戻っていた。
麻衣が、ホッと胸を撫で下ろす。
日常が戻ってきたのだ。
休日を挟んだ朝。
麻衣は、またしても父の研究室を訪れた。
相変わらずのガラクタだらけの中、虎男のイビキが聞こえる。
麻衣は卓上の3つのヘルメットを見つめた。
ひとつはルーシーとゾーイの世界に誘ったもの。
もうひとつは虎男が、麻衣の連れ戻しに使ったものだ。
(じゃあ、残った黄色いのが通学用ヘルメットね)
虎男に頼んだものを今度こそ、作ってくれたに違いない。
またも妙なゴーグルが付いているのは気になるが。
麻衣は両手でヘルメットを高々と掲げ、スポッと頭に被った。
その刹那。
眼の前に、RPGに出てくるような城が現れた。
城門前に立った中世風の兵士が、怪訝な表情で近寄ってくる。
「おい、何者だ!? 怪しい格好しやがって! お前、まさか………魔王討伐軍に加わるつもりか?」
麻衣は両手で頭を抱え、絶叫した。
「お父さーーーーん!」
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
大感謝でございます\(^o^)/