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「外のエリアには、まだ人間が居るはずなんだ。今は通信がマザーメカに妨害されて使えないから確認できないけど」
ゾーイが、悔しげに唇を噛んだ。
「外に出るルートは全て、敵に押さえられてるの」
ルーシーが説明を引き継ぐ。
「だから実質、マザーメカを機能停止にするしか方法が無くて」
「そんなの出来るんですか?」
麻衣が訊いた。
「難しいわね」
ルーシーが表情を曇らせる。
左手のブレスレットから、小さなホログラムを浮かび上がらせた。
鉄塔のようなものが映っている。
「マザーメカよ」
「これが?」
「そう。そして、ここが」
ルーシーが、塔の根元を拡大する。
そこには、人の頭ほどもある大きな赤いボタンがあった。
「機能停止ボタンよ」
「デカすぎないですか!?」
麻衣が驚く。
「罠さ」とゾーイ。
「私たちの脳には、生まれた時にチップが埋め込まれるの。本来はデータを収集して、生活を便利にするためのものよ。マザーメカはそれを探知できるの」
ルーシーが、肩をすくめる。
「わざと押し易くしたボタンを餌にして、人間をバンッさ」
ゾーイが、怒りに顔を歪ませた。
「仲間が何人も、その手でやられた」
「そんな………」
麻衣が青ざめる。
「でも、きっと敵は油断してるわ」
ルーシーが瞳を輝かせた。
「チップのない人間が居るとは思ってないから。まあ、実際に居ないけれど…」
ルーシーが、麻衣を見つめる。
「他の世界から来た人以外は、ね」
「え? ええ!? それって…」
麻衣が、恐る恐る自分を指す。
「わたし…ですか?」
ルーシーとゾーイが、同時に頷いた。
「私とゾーイでマザーメカの索敵範囲ギリギリまで、あなたを運ぶわ。そこから、あなたに走ってもらう。そして、あのボタンを押して欲しいの」
「敵はアタシたちが引き付ける。任せてといて!」
「ええーーー!?」
麻衣は、眼を白黒させた。
そもそも文系女子なので、走力とスタミナには自信がない。
「わ、わたし、足が遅いですよ!」
「それでも仕方ないよ。アタシとルーシーだと、すぐに敵にバレちまうからさ」
「ええ、敵の罠を逆手に取るには、これしかないわ。あなたの力を貸して欲しいの。お願いよ」
「頼むよ、麻衣。この通りだ」
切実な表情の2人に頭を下げられ、麻衣は困惑した。
この世界は今、危機に直面している。
それを救えるのは、麻衣だけだ。
しばしの逡巡の後、麻衣は「分かりました。やってみます」と頷いた。
SFチックなデザインのバイク2台に、3人が跨っている。
麻衣はルーシーのバイクの後部シートに座った。
何も無いよりはマシという判断で、父の作ったヘルメットを被っている。
「ただし、マザーメカの探知範囲に入る前に、そのヘルメットは脱いで。機械は見つかる可能性があるから」とルーシー。
「はい」
緊張ぎみに、麻衣が頷く。
上手く出来るだろうか。
ヘルメットは元の世界に戻るためには必要かもしれないが、如何せん、使い方がまったく分からない。
今は、この世界の平和が優先だった。
「じゃあ、出発!」
ルーシーの言葉にゾーイが頷き、2人はバイクのエンジンをかける。
廃墟と化した市街地を2台のバイクが走りだした。
美しい夕陽が3人を照らす。
必死でルーシーの細腰に掴まる麻衣の視界に、前方のバリケードが入ってきた。
人型のヒョロヒョロのロボットたちが守っている。
「ゾーイ!」
「任せろ!」
ルーシーの呼べかけで、ゾーイが銃を構えた。
すさまじい連射で、正確にロボットたちを撃ち壊す。
ルーシーも小型の銃を出し、ゾーイほどではないが、数体の敵を倒した。
「キャーーーーッ!」
初体験の銃撃戦に、麻衣は思わず叫んでいた。
残ったロボットたちの反撃を2人は巧みなバイクテクニックで、華麗にかわしていく。
バリケードの隙間を猛スピードで、すり抜けた。
そこから、麻衣たちは敵の4つの防衛ラインを突破した。
途中、何度も危ない場面はあったが、ゾーイの銃の腕前とルーシーの的確な状況判断で乗り切った。
「そろそろだよ!」
ゾーイが告げた時には、すでに夕陽は落ちていた。
後方から、バイクに乗ったロボットたちが8台、追いかけてくる。
「ルーシー!」
ゾーイが叫ぶ。
ルーシーが頷いた。
ゾーイのバイクが、スピードを落とす。
「え!?」
麻衣が驚いた。