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マンモス団地11棟ノ106  作者: イツカスルガ
9/9

09.飴爺さん

その団地は、K県最大級。

一棟から九十九棟までが連なり、

人々からは「マンモス団地」と呼ばれている。

シンが上履きを落とした森とは反対方向。

団地前の十字路から坂を下り、小学校へ向かう通学路の途中に、ぽっかりと空いた空き地がある。

一軒家が並ぶ住宅地のあいだにできたその場所は、いつの間にか子供たちのたまり場になっていた。


その空き地に、年に数回だけ現れる屋台がある。

引き手を握るのは、ベッコウ飴を売るおじいさんだ。

車輪を固定したリヤカーの上には、屋根付きの木製の四角い屋台。

中には飴を冷ますための鉄板が敷かれている。

熱した飴を、まるで絵を描くように冷えた鉄板へ流し、

その上に一本の割り箸を置く。

しばらくして固まれば、それで完成だ。

屋台の屋根には、動物の形をした色とりどりの飴が飾られている。

客寄せ用だ。


「――あっ、飴爺さんが来てる!!」


下校中の子供たちにとっても、飴爺さんは大人気だった。

一度家に帰り、小銭を握りしめて戻ってくる子もいる。


「飴爺さん! 一本ちょうだい!!」


ハトシは百円玉を差し出した。


「はいよ~。十万円ね。お釣りは九十万円だよ」


そう言って爺さんは九十円を手渡す。

どうやら飴は一本、十円らしい。


「いいなぁ。飴なめると、次の日の体育、調子いいんだよね」


シンは、飴をなめるハトシを羨ましそうに眺めながら、

そのまま一緒に家へ帰っていった。




子供たちが帰り、空き地に爺さんひとりだけになった頃。

一台の黒塗りの車が、屋台の前に静かに停まった。

スーツを着た、貫禄のある六十代ほどの男が降りてくる。

男は深く頭を下げ、爺さんに声をかけた。


「先生……家の子が事故で重傷を負ってしまいまして。

 すみません、一本いただけないでしょうか」


「それじゃあ……百万円ね」


爺さんは差し出された札束を受け取ると、


溶けた飴を空中へ放り投げた。


宙を舞う飴は、まるで意思を持ったかのように形を変え、

龍の姿を描いていく。

生き物のようにうねる飴の龍は、

爺さんの左手に握られた割り箸へと、絡みついた。


――昇り竜飴の完成だ。


「先生、ありがとうございます。

 これで怪我した者も、明日から動けます」


男は飴を受け取ると、深々と礼をし、

そのまま車に乗り込んで去っていった。



「さて……次の場所に行こうかね」


爺さんは屋台をたたみ始める。

どう考えても収まる量ではないのだが、

屋台は不思議と、きれいにリヤカーの荷台へ収まっていく。

爺さんは取っ手に腰を入れ、空き地を後にした。


「次は、半年後だね」


シンが飴を手にする日は、まだ先のようだ。


バフ飴爺さん


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