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第7話 歯牙にも掛けぬ窮地

 休暇が明け、早速集会所に行ったが、メイラさんにため息をつかれた。

「あなた、本当に二日しか休まないのね。もっと休んでくれる事を期待したんだけど。まぁあなたが良いならいいわ、でも体は大事にしてね?」

 言われずともわかっている。でも傷は小さかったし、毒も血の性質だけに作用するものだし、特に問題となる要素じゃないはずだ。心配するのは分かるが過保護じゃないかと思う。

「わかってます。じゃー戦わないクエストってあります?」

 少し嫌味を混ぜて言った。だがメイラさんの表情は和らいで、一つのクエストを薦めてきた。

「オルミボスの蜜集め?」

『モンスター総覧書』で見た気がする、確か、蟻のようだがデカく、逃げ足が早い。腹(おしりにみえる所)に蜜を溜めて巣に帰り、木の幹の中に蜜を貯める。

「これならいいんじゃないかしら?ラネムーゾより全然簡単よ?」

 メイラさんの声のトーンはいつもより高く、彼女の顔は笑顔であるが何か「圧」を感じる。

「分かりました。じゃあそれで」

「りょーかーい」

 その圧にやられてクエストを受け森へ立ち入った。早速オルミボスの生息する場所へ向かう、あの巨木の向こうの地に陽が届かないじめっとした所にいると言う。オルミボスとは、全身が木の色(茶系色、緑系色)であり、胴の部分から二本の枝のような部位が伸びる全長30㎝の蟻である。4〜6体でグループを作り、グループ一つにつき一つの木を蜜の貯蔵樹としている。ちなみにコーネノより少し足が早いらしい。背の低い木々が多く並ぶ暗い場所。それっぽい場所に着いたが、ここにオルミボスの姿は見えない。

「あ、これか?」

 とは言え蜜の貯蔵場は見つけた、どう見ても蜜が少しずつ漏れていて分かりやすい。オルミボスを追いかけて巣を見つけようと思ったが、運良く貯蔵樹を見つけられた。達成条件は大瓶(約20L)に蜜を八割以上入れた物三本分の納品で、思った以上に必要だ。よって、今回もカーゴ同伴でクエストを受けている。早速蜜を回収するが、これがまたやりにくい。蜂蜜と同じかそれ以上に粘度が高くて早くに集まらない。しかも、全然足りる気がしない。

 幹の中の空洞は案外細く、伴って内蔵される蜜も少なかった。厳密に言えば、あと瓶一個と半分足りない。これをまた同じ時間繰り返すのは骨が折れる。集まった分をカーゴに運ぶが、中に入った蜜約16L、かなり重いのは言うまでもなく、かなり面倒くさいクエストだと思った。そらみんなやりたくない訳だ。カーゴに運び終わったあと、どっと疲労感が押し寄せた。16Lの量だが比重は水より重い、絶対20Kg以上ある。

 隣の木に寄り掛かって背伸びをした。このクエストはリハビリをするには酷すぎると思った。疲れてぼうっとしていると、どこからか物音がして来た。不規則に地面を刺す音がいくつも近づいて来る。音の方を注視すると、球状の琥珀の塊がこちらに向かって来ていた。もっとよく見ると、その下にオルミボスが五匹で列を成していた。琥珀の塊は腹に溜められたものだったようだ。そしてついに目が合った。隊列の先頭のオルミボスだ。先頭が止まると瞬時に後列の奴らも止まり静寂が続いた。

「…カーゴ、こう言う時どうすれば?」

 幹から離れてゆっくりと歩き出す。

『オルミボスの蜜は貯蔵樹から得るよりも、生体から得る方が美味とされている。またあの持ち量ですから…判断は委ねますよ』


「お前ら!蜜寄越せぇー!!」

 俺は吠えながら力強く駆け出した。あいつらも体を反転させほぼ同時に逃げた。また追いかけることになった、この森にいるモンスターは総じて逃げる奴が多いと思うのは俺だけだろうか?

 木々を縫い、壁を登り、飛び移り、オルミボス達は各々が捕まらない様に動く。あんなに蜜の入った重い腹でよく動けるものだ。だがコーネノやシィエルよりも足は遅い、レベルも少しは上がったか、走ってでも追いつけそうだ。ちなみに『(とび)』を使わない理由は、ここらの森林は木が多く邪魔で、まともにスピードも出ないし危険だからだ。

 追いかけるうちに、オルミボスは一匹、また一匹と先頭とは別の逃げ道を行った。先頭の奴が一番腹が大きく、琥珀の色も良い。だから先頭の奴から狙いを逸らす訳には行かないし、他の奴らが逃げても致し方なしと割り切った。

 やがて、木々の少ない道に出た、とっくに先頭のオルミボスのみとなった頃、ようやく『翔』が心置きなく使えるようになった。跳躍し、『翔』で距離を徐々に詰めていく。伸ばす手はオルミボスの胴にある突起を目掛けている。上から回り込み、そして遂にそれを掴んだ。

(よっしゃっ!)

 心でガッツポーズをした。オルミボスは捕まるとその場から動かなくなった。腹這いになっていた俺は掴んだままぎこちなく立とうとすると、オルミボスが奇行にでた。

「キィィィィーーーー!!!」

「あぁ!」

 いきなり甲高く顎を鳴らした、軽く耳が痛くなるレベルで。これは金属音にも似ていた。その手は離さなかったがうつ伏せに逆戻りだ、なんとかして耳を塞ごうとしたが、その前に金属音は止んだ。だがその時、不思議な感覚があった。足先から「落ちる」感覚に襲われたのだ。

「何だ」

 振り返り足元を見ると、そこには()()()()()()()()が見えた。まさに今、俺を飲み込もうと土もろとも吸い込んでいた。足で踏ん張れるほど穴は小さくなく、掴んだ手を手を離せばすぐに落ちる。オルミボス自身も落ちたくは無いはずだ。だが、俺は大穴に落ちてしまった。突起を掴んだ手の甲に痛みが走り、思わず離してしまったのだ。オルミボスがこの穴を利用した事を同時に理解した。

 落ちる最中、丁度真上に頑丈そうな木の枝を見つけた。それに向かって咄嗟に『絡み』を放ち掴まろうと試みたが、何かによって尽くを切断された。『絡み』を切ったのはオルミボスでは無い、それとは別の()()()()()()()だった。高さはあまり無いにもかかわらず、とても長く感じた。

 ドスっと落ちたところは意外と広く、全体的にツボの様な形状だった。立っている場所以外の内壁には歯のようなものが規則的に並んでいる。どちらかといえば噛む用途より、(かえし)の方が適するだろう。どうやら一緒に飲み込まれた土が足場になって一応立てているみたいだった。俺はこれが食人植物であるとすぐに察した。が、それよりも強く思うことがあった。

「…臭え」

 消化液の臭いと何かの臭いが混じり、鼻が曲がる思いだった。そのもう一つの臭いが何であるかは考えたくも無い。しかしここからどうするか、一か八かで試すのもありだ、自分もろとも燃やさない様にして放った。

「『灼豪(しゃくごう)

 俺の使える火魔法系統の中でも最強を冠する技だ。同じ量の魔素を用いた際にはこれが一番灼き、焦がし、破壊するのに適する。それに伴い複雑な術式が存在し、それには書き方、構成、順序があり非常に難しい。だが俺は例によって念ずるだけで発動できる。欠点と言えば、術式を用いた時よりも多く魔力を使う事くらいだ。迸る発生しただけで立ち込めていた臭気を消し、放たれたそれは内壁にぶつかり爆発四散し、俺は炎に包まれた。

(空気の壁を作ったとは言え暑いに変わりないか)

 一瞬で汗が噴き出て、あたりは黒煙に満ちる。薄らと晴れていく内に見えてきたのは、何もダメージを受けているように見えない内壁だった。少しの焦げ目も埃もついていなかった。

「うっそだろ…」

 木は火から成る、火は木を取り込み火を生む。それ故木属性モンスターは火の糧となる。そんな相性があると言うのにこのモンスターは平然としている。例え水属性であっても多少なりともダメージは通るはずなのに。その後もあらゆる方法で破壊、脱出を試みたが、その全てが意味をなさない。内壁にはダメージは通らず、口も固く閉ざされ、まさに袋のネズミ。いずれ消化液やらでここは満たされ俺は死ぬだろう。

 脱出するためにはこれしか無い。聞こえて来る声に従い、魔石の物では無い第四の力を使う。何にも動じない相手には、超えた力を使うだけだ。

「分かった使うから…だから嫌なんだよ」

 暗く閉ざされたモンスターの口の中が照らし出される、光はこの身に収束し爪を形成した。

「『獣稟(じゅうりん)大車輪(だいしゃりん)

 そこにあったものは全て消え去り、()()だけが残った。モンスターも大地も縦に割れ、断面は不自然な程に歪んでいた。その傍に俺は這い出て、体についた塵や埃を軽く叩いた。周りを見てもオルミボスは見えない、やっぱり逃げられたのだ。

「あいつがどこに行ったか分からんな…あ、蜜溜にいるか」

 その頃件の貯蔵樹にオルミボスが四体集まっていた、俺の追いかけていたリーダーはまだいない。顎を鳴らす音で意思の疎通を行うというオルミボス、どうやら互いの安否を喜んでいるみたいだった。とある一匹が木の幹に登り、一番上の注入口に顎を当てようとした時、一同が気配に気づく。今突如として現れたそれにたじろぎ、注視したまま後ずさった。

「貴様らァ!蜜寄越せェー!!」

『キィィィィ!!』

 オルミボスは甲高く顎を鳴らして叫んだ様だった。追いかけられ、だが一度は撒いた相手が目の前に。もし立場が逆なら俺だって叫んだだろう。それから色々あり、残りの一個半分の蜜を分けてくれた。流石に白旗を上げたみたいだ。

「ありがとなーお前らー」

 手を振ってお礼を言いながらその場を去った。彼らが持っていた蜜は結構多く、大体二匹分の蜜で事足りた。俺が去っていくのを見て、オルミボスはその場にへたり込んだ。気が気じゃ無かっただろうけど、これも仕事なんだ、許してくれ。すると、どこからか出てきたカーゴが話しかけてきた。

『確カニアレハ恐ロシイと思イマシタ』

 珍しく震えた声だ。そんな彼を珍しく思いながら、俺は一つ質問をした。

「なんだよカーゴ、て言うかどこ行ってたんだ?」

『アヤツラハ必ズ戻ッテ来ルノデ、居ナイト思ワセル為ニ隠レテイマシタ』

 彼の声色はなぜか得意げに聞こえ、ランプも見た事のない色になっている。

「そうか…気遣いありがとう」

 その後は上機嫌なカーゴと雑談をしながらマニラウに戻った。

 俺たちが去ってから少し時間が過ぎた頃、一際大きな腹のオルミボスが仲間のもとへ戻った。外傷も無いのにぐったりした仲間を見て、どうしたんだ?と言いたそうな顔をしていたのだった。

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