第4話 風の土竜
「おっしゃー!十匹めー!」
あれから早くも一週間経った、二日に一回は「薬草採取」「スライムコア収拾」とか「コーネノの一定数納品」など難易度Iで簡単なクエストをこなす様にしている。今も「コーネノの一定数納品」のクエスト中だった。この一定数というのはクエストにちょっと種類があるからで、これの場合五匹に設定されている。キリが良いっていうのが理由だ。
「もう十分だな。カーゴ、クエスト終了、街に戻るぞ」
カーゴのランプがオレンジから緑に変わった、クエスト中の警戒、待機状態ではなく、帰路の運搬状態になった証だ。初めて見るこのカーゴと言う運搬用魔道具は、この世界では珍しい完全な機械に見える。状態を表すガラスに囲われたランプ、真っ白な機体と大きめの収納スペース、底面には魔法による浮く機構がある。この機体は「カーゴM2」と呼ばれている。
「リョウカイ。コイチジカンデ20ヒキモアツメラレルトハ、ナレルノガハヤイデスネ」
あとよく喋る。暇な時間だと判断した時は事務的な事でも、そうでなくても話しかけてくる。退屈はしないけどだんだんうざくなってくる。ともあれ集会所に帰って早速精算をする。
「お帰りヒカル君…うわぁ前回の倍じゃない…」
実は前回こなしたところで時間もそんなに食わなかったし、『絡み』を使って簡単に捕まえられるようになったから、今回は試しに倍の数狩って来るようにしたけど。
(うん、まだ余裕だな、レベルってやつが上がったからかな?)
背伸びをしている時メイラさんがコーネノを回収をして裏方に消えた。ちょっと気になっているが、あの裏方ってどうなっているんだろうか、ここから見えるのは棚に入った書類の山と何かしらの陶器だけで、奥は角度的に見えない。
「はい、大銅貨5枚よ」
普通の銅貨より一回り大きく、おそらく発行元の刻印がされた銅貨。それが大銅貨。これは100ユーロの価値があり、日本円で千円だ。
「ありがとうございまーす」
それを受け取り集会所を立ち去ろうとすると、メイラさんが俺を呼び止めた。何かと思い問いかけると、やって欲しい事があるらしかった。
「ねぇ、そろそろ昇格クエストを受けてみない?丁度昨日良さそうな依頼が入ったのよ」
そう言われて出された内容は討伐だった。この世界のモンスターはどれも一般人に勝てるものではなく、一般よりレベルの高い英雄などしか狩る事はできない。考えてみれば当たり前の事だ、難易度最低と設定されているはずのコーネノが時速50km以上で逃げられるんだから到底一般の人らが手に出せる様な相手じゃない。そうなると俺の昇格は早すぎるのではないかと彼女に問いかけると、自分のことの様に自信あり気にこう返してきた。
「確かに早いわね、でもあなた『基礎値』が異常に高いでしょ?そのせいで推奨レベル10以上でも貴方なら大丈夫って思ってー」
だそうだ、そもそも普通の『基礎値』が分かってないからなんとも言えない。それに関してはおそらく常識だから教えなくても良いだろうと考えているだろうな。
「あ、そうだ!それなら今のレベルが気になるわ!今度は結構いいやつ持ってきたから!」
そう言ってすぐ台の下から解石を取り出した、おそらくずっと手元にあったのだろう。今度は緑に少し青みがかった色の光を放っていた。前回同様それに触れたらやっぱり光が一瞬強くなった。なんだかコピー機を思い起こされる。前回ほどではないが少し時間が経ち、ステータスが表示された。
『『ヒカル』『魔導士』 LV.6『年齢』14
『基礎値』
『攻撃』[152]『防御』[140]『速度』[137]
『知力』[79]『耐性』『高』
『耐性』:物理:属性:化学:精神
『スキル』
『統火』『賢流』『括風』
『格闘』『魔法合成』『****』
『ユニークスキル』[eqoiufzon] 』
メイラはこれをまじまじと見て息を吐き、間を置いて言った。
「やっぱりあなた規格外ね、レベル6でそこらの四等英雄と肩を並べるほどね…これじゃトーピードの試験も難なく突破するかもしれないわね。なんならこのまま行っちゃう?まだ午前中だし…余裕そうだし…」
俺の息が全く上がっていない事を確認して言ってきた。確かに余裕はあるし、俺なら簡単にいけるだろうと聞けば快く受けるのも当然だ。
「分かった、それ受けるよ。手続きは勝手に済ませて置いてください」
俺は言葉を残して『転身』を使った。もう森の中を歩いている。
「行っちゃった、はぁ…にしてもこのユニークスキル何よ、上手く表示されてないじゃない。『スキル』も一つ非表示だし、てかそんな事できたんか。しかも『統火』『賢流』『括風』ってモンスターが持ってるやつじゃ…あれ?なにかおかしい、見間違いかな…あの子の前のデータは…あっ…やっぱりそう…あの子異常だわ」
森の中、俺はトーピードというモンスターを探している。そいつは体長30㎝程度、敏感に周囲の変化を感じ取るヒゲを持ち、鋭い手足の爪と風を操る力を持つモンスター。オッサンが持ってる『モンスター総覧書』と言う図鑑のような本によるとそう書いてあった。生息する地は森林地帯で、地面に潜って生活する。イラストもあったが緑の模様の入ったモグラに見えた。
「生息地森林、その中でも比較的暗所を好むが反して開けた場所に居つく。となるとここじゃね?」
この情報を元に居そうな場所を探してようやく見つけたのは、あの巨木の近くの変わった木の生える一帯、その木はそれぞれ間隔が広く開いているにも関わらず間伐されたように枝が無い。その代わり木の天辺に枝が広がり光を殆ど遮っている。ここがどうやって生まれたのか考えても謎が多くなるだけだ、今は目標を探そう。手がかりはモグラと同じ掘り返した跡、しかも普通のモグラより掘るのが荒く、移動すれば通った場所が一目で分かるくらいに土が盛り上がる、だがどこを見ても気配を感じさせない。分かりやすいと言うくせに見つけるまでが大変だ。とぼとぼと歩き、肩も落として気分も下がっていた頃、不意に地鳴りのようなものが近づいてくるのを感じた。丁度右斜め前だろうか、顔を上げて木の向こう側を凝視する。すると、小石を巻き上げながら何かが地面の下を掘り進んで行った。木陰から現れ目の前を横断し、反対の木陰へ横切った
「いや…おい。…え?」
今のはまさにトーピード、唐突に出会うしシュールだったからつい声になってしまった。軽く首を横に振り、切り替えて今のトーピードを追いかける。あいつの速度はコーネノよりかなり遅く、走ったらすぐに追いつけてしまう程。地面を掘り進むトーピードに追いつくまであと数メートル、そこで俺は攻撃を仕掛けた、縦に切る様に風魔法で攻撃した。だが既の所でトーピードは直角に曲がり攻撃は避けられ、振り向き様のカウンターを足に受けてしまった。浅く大したダメージにはなっていないが、黒い血が流れ出る、もらった傷は四本の爪跡のように見えた。一度後ろに下がり確認する。何のことはない、皮と細い静脈が切れただけだ。地面から顔を出したトーピードはじっとこちらを監視している。だがどうやって攻撃を仕掛けたのか、さっきトーピードは潜っていたし、奴とは少なくとも3mは離れていた筈だ。そうなると答えは一つしかない。
(魔法か、不用意に近づかない様にしないとな)
俺と同じように魔法が使える、恐らくさっきの魔法は『風刃』と言うありきたりな名の風魔法。圧縮し、加速させた風で擬似的に刃を作る。それをこいつらは自身の爪に纏わせる事ができ、傷の通りに四つに分割できるわけだ、しかも威力は変わらずに。すると、トーピードが突然土に潜り逃げ始めた。
「あ、待て!」
何度も右へ曲がり左へ曲がりを繰り返し振り回されて追いつけない。その間俺も『風刃』で何十回と攻撃している。反撃をして来る時もあったが、油断もしていないから当たらない。そして攻撃の起こりも見極めた。トーピードが掘り進む盛り上がりの他に、その場に留まり膨れ上がるものもある。その土の盛り上がりが攻撃だった、設置型の攻撃とは珍しい。だが奴の『爪風刃』は意識していれば見てから回避できるほど弾速は遅い。さっきは接近し過ぎたのか。
だが、その時なぜ疑問に思わなかったのだろう。さっきから走り回っている場所が同じ事に。いつしか奴は疲れたのかスピードが落ちてきた、そしてしっかり間合いに捉えた。
「今だ!」
確実にそこにいる。掘り返された一番先っぽ、一際大きな土の盛り上がりに向かって跳躍し、『風刃』を放つ。これで確実に倒す事ができる。だがそんな考えとは裏腹に、俺は垂直に打ち上げられてしまった。地に足着かぬほどに爆風の渦に呑まれ巻き上げられていく。
(なんだっ!この風!)
グルグルと回る視界の中見えたのは、攻撃した穴のすぐ近くでトーピードが笑っている姿だった。怒りが込み上げて来るが、気にしてはいられない。この爆風にはカミソリに似たものも感じられるのだ。あっという間に俺の体は小さな傷が浮かび上がって来ていた。
(ヤバいなこれ…早く脱出しないと…『離破』)
暴風の中、俺は小さな空気の塊を作り、近くで破裂させ、その衝撃波で脱出した。
「ったく、やってくれる…」
数mの高さから落ちてもダメージにならない、ある程度レベルが上がったからな。だがこの風は別だ、数mmカミソリで絶え間なく切り付けて来る。そのせいで小さくても夥しい数の傷がある。色々と思案する間に服が黒く染まり始めていた。
(早く片付けないと、こっちが持たない)
しかし、攻めあぐねている。今ので分かった、あいつの髭はとんでも無く高性能だ。あの本によると髭で魔法の流れを読めるらしい。それで人間の反射神経を超える『風刃』さえも幾度となく避け、カウンターまでする余裕も見せている。それに対して俺は不完全、持つ魔法は力が偏っている。火は弱く、水は強く、風はその中間以下。水は強くてもこの属性相手じゃ意味はないと分かっている。火は弱いから効果があるかどうか。風に関しては全て避けられる、あの爆風と本体の速さじゃ格闘は論外。
(あれ…詰んでね?)
そう思っている間に奴が動いた。潜ったかと思うと、ボコボコとそこら中にさっきの盛り上がりが形成され、そのいくつかが先ほどの様に爆風を発生させた。俺を囲う様に形成され、その範囲は広く見る限り真上さえも脱出は不可能。
(何かやるしかないのか…何をすれば良い…)
足が止まる、トーピードは勝ちが見えているとでも言うようにもう自分からは仕掛けない。俺は状況を変える為考えて続けた、だが勝算があるわけでもない故俺はすぐにさっきの爆風に呑まれた。今度は下からでは無く全方向から。一応ガードはするが相手は風だ、無意味であり、傷は深く増え続ける。だが巻き上げられている時ある事に気がついた
(待て…なぜ呼吸ができてる?)
おかしい事に気づいた。呼吸ができる。これは俺の当たり前からずれていた。攻撃用の風魔法には必ず酸素は含まない。火を使われた場合燃え移り自爆してしまう可能性があるからだ。俺の魔法とトーピードの魔法とでは違いがあった。俺の魔法は気体を選択できる、対してトーピードはそこら辺の空気を集めているに過ぎない。
(『離破』)
やるべき事は分かった。先ほどと同じ様に爆風から逃れる。俺の居なくなった爆風は途端に消え失せ、また地面に盛り上がりが増える。顔を出していたトーピードはその場に潜り、更に大きな盛り上がりを作った。俺はその盛り上がりに向かって駆け寄った、トーピードがそこから動かない事を信じて。あと数歩で盛り上がりに着く頃にそれは破裂し爆風を巻き起こした。そこで俺は急ブレーキをかけ、真後ろに飛んだ。たった一つの土産を置いて。
「じゃあなトーピード、『塵火』」
それは人差し指から放たれる。言葉の通り小さな火、普段は使っても薪を起こす時だけだろう。だが今回はこれで良い、相手は無造作に吹く風であり、その中に酸素はたっぷりある。その小さな火は酸素によって勢いを増し、次の酸素と反応して更に勢いを増す。よって間も無く爆発が起こる。そこにあった樹木や大地を全てを吹き飛ばし、後には焼け跡だけが残った。奴は黒焦げか木っ端微塵か、俺は備えていたから黒焦げになるだけで済んだ。それでも俺は生きている、勝ったんだ。
その後静まり返った森の中で倒れ、動けなくなっていた。かろうじて動くのは首と目だけだ。俺は鈍くなった痛みの中焼けた自身の体を見た。地面の中まで風魔法が流れてたのは分かっていた。トーピードは掘りながら魔法を設置していた、ならば地中に魔法が流れているか、そうでなくともトンネルで繋がっていたからそうだろうと思っていた。でも思った以上に威力が桁違いだった。もう血は出ていないが、それは皮膚が爛れて傷が塞がっていただけだ。
(しょうがない…これで三回目になるな。『ロイ』力を貸してくれ。『水は全てを記憶するんだろ?』)
倒れた俺の足元から水が覆われていく。ゆっくりと体を伝い全身を包む。十数秒経った後、水は足元から引いていった。痛みもなくなり、ゆっくりと起き上がる。俺の体はクエスト前の状態に戻っていた
「おお!やっぱ役立つな…ありがとよ、『ロイ』」
水の魔石に話しかけると、答える様に淡く輝いた。周りを見渡すと、壮大に吹き飛び黒焦げになった木々や地面が広がっていた。その中に何か小さく、だが目につく物があった。近づいて見てみると、それはさっきまで戦っていたトーピードの頭だった。熱によって焦げてはいるが、毛の色も分かる程度に焼けているだけだった。だが他の部位は見つからなかった。俺は仕方なくその頭だけを持って集会所へ戻った。
集会所へ入ったら、オッサンとメイラさんが話していた。確か前回も同じようなシチュエーションだったよな。
「なぁメイラ、クエットから二回目出てみろって言われたんだ、俺にできると思うか?」
その時のオッサンは見た事も無いくらいに暗い様に思えた。
「…言っちゃ悪いけど今回は確実に無理、『ウノン・カピト』が猛進してるし、パーティとしても個々としても最強クラス。やってみる価値はあるけど、結果は想像がつくわ」
「そうか、やっぱ出ないほうがいいよなぁ…」
オッサンはカウンターに額を押し当て項垂れた。
「でも出たは出たで意味はあると思いますよ?」
オッサンは何も答えない。
「じゃあ、見にいくんですか?」
「…端からそのつもりだ」
オッサンが体を起こした、メイラさんは何か考え事を始めた。
「そう…今回は会場に入れるかしら、それとも忙しくて…あら、帰って来たわ」
ここでメイラさんに気付かれた、流石に少しづつ歩いて来れば気づかれるか。そしてメイラさんは声を漏らす。
「まさか無傷で帰って来るなんて思わなかったわ…」
こう言う時どう答えたらいいだろうか、実際は瀕死状態寸前だったなど。
「やっぱりこの難易度だと簡単だったかしら…まぁでも、これで四等英雄に成れたわね!」
…言うのはやめよう。人事をここまで喜んでくれているのに気落ちさせる事は言えないから。
「そーだな、まずは祝おうか?」
速すぎる出世なのは間違いないが、階級は上がれば祝って当然のはずだ。
「ああ、そうしようぜ」
「おうし、本人も乗り気だ!酒場行こうぜ!」
「はぁ?なんで酒場なんだよ!」
「いいじゃねぇか盛り上がるぜ?飯も飲み物も旨いとこ知ってんだ」
「ああ、あそこね?私は仕事が終わったらいくわ」
「よーし行こうか!俺のダチも誘うからよー!」
「おっさんだらけかよ!もっと歳の近い奴いねぇのか!」
「おっさんだけじゃねーさ!30代の知り合いもいるぜ?」
「十分俺と遠いじゃねぇか!」
流されるまま集会所から出て行き、何も音が響かなくなった。メイラは仕切り直して仕事を再開するが、あることを思い出す。
「あ、報酬金渡してないや…んー後でいっか」
カウンターの下にある空間に四角形の銀貨を置き、メイラは仕事を続けた。