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第3話 初クエスト

 あの後一目置かれながら五等英雄として正式に名が追加された。その時オッサン(ヴィザー)は。

「はっはー!ほーれ!言った通りだろー!」

と言うような感じでとても上機嫌だった。もう日の暮れる時間であったため、他には何もせずにオッサンの家に帰った。オッサンは椅子に腰掛けて話しかけてきた。

()()()俺の目に狂いは無かったな、まぁあんなにすげぇとは思わなかったがな!」

 ガッハッハ!と大笑いになりながらオッサンが言った。

「なんだよ()()って」

さっきからかなり気になっていた部分をストレートに投げかけた。

「お前、聞いてただろ?かなり端折(はしょ)るが、今までも何人かこうやって英雄になった奴は多いんだぜ?確か中にゃ一等英雄になった奴もいるはずだ」

俺と同じように英雄になったやつが前に七人、その中には一等になった人もいるか。思っている以上にオッサンの目は良いのかも知れない。

「そうなんだ。すごいんじゃない?オッサンの目」

 俺はオッサンが淹れてくれたコーヒー(ミルクと砂糖入り)を(すす)る。

「…だがな、こんだけ居ると悲しい事も多いわけさ、既に二人、三等に行った途端に死んじまった」

「……」

 俺が聞いて何か思う訳じゃ無い、だって面識が無いから。面識が無いからってそれでも兄弟子である以上悲しさは分かる気がする。俺も同じ事があったから。オッサンは何でこんな事をまだしているのだろうか、続けていても同じ事を繰り返すだけなのに。

「そりゃもうやめる気でいたさ。だがお前を見つけちまった。低レベルのスライムでさえ、武器も防具も無くて勝てる奴は稀だなんだ。だがお前はそれを成し遂げた。その手の甲に埋まった宝石みたいなのがお前の魔力の根源だろ?『生まれついての魔導士』、いい人材だねぇ」

 オッサンはしみじみと俺の事を良く言ってくれたが、それは違う。俺は魔石に適合しているだけ。生まれつき魔法が使える訳じゃなかった。でも今は勘違いしていた方が都合がいいかもしれない。俺の抱える暗い感情を出さずに明るく言う。

「あ、ちなみにデコにもあるんだ」

 眉間も隠す前髪を上げ、額に埋まる隠れた魔石を見せた。

「ああそれがあの風魔法のやつか!」

 右手の甲『火の魔石』左手の甲『水の魔石』額『風の魔石』と言った様にそれぞれ埋まっている。この魔石は人によって埋まる部位が違うし、適合するかも分からない。でも俺は三つ全て100%適合している、理由ははっきりしないが想像は付いている。

「これのおかげで結構便利なんだ、服を洗濯しなくても魔法で綺麗に出来るしさ」

「おお、そりゃ便利だな」

 その後、魚のように食いついたヴィザーに便利系の魔法を少し披露してみせた。肉も焼けるし、水も加えれば蒸すも煮るも出来る。シワも伸ばせるし、さっきみたいに飛ぶ事もできる。言わばほぼなんでもありだ。その魔法で簡単な夜食も作った。調味料は塩胡椒に似たものがあったのでそれを使わせてもらった。キッチンや、トイレ、風呂は家の奥にあった。夕飯を食べながら少し話し合い、風呂に入って転移初日は終わった。

 翌日早速クエストの受注に向かった。この場所はギルドではなく集会所と言うらしい。ギルドはもっと大きくここからもっと北にあると言う。

「あはようございます二人とも」

集会所へ行くと早速メイラさんが声をかけて来た。今日も昨日のように大量の書類の整理をしていた。一体あれは何の書類だと言うのか。

「おぅよメイラ、早速こいつの初仕事だぜ!」

俺よりもオッサンが元気いっぱいだ。上機嫌なのはいいのだが俺にとっては少し迷惑だ。

「そうですか、ではこのクエストはどうです?」

メイラさんは後ろにある紙束から一枚を探し出してカウンターに置いた。

「えーなになに?」

 取り出された書類はどうやら依頼文であり、内容はこう書かれていた。


『<薬草採取> 難易度I

 <概要>

 エータルの森にて薬草採取

 森入り口付近を推奨

 <副依頼>

 コーネノの狩猟 』


「おう!それがいいな!」

オッサンが勝手に俺のやる事を決めていく。別に薬草採取くらいならいいのだが、その下にある何かがとても気になっている。

「どう?小手調べにやってみて」

「あの…コーネノって何…」

その場には俺以外にはオッサンとメイラさんしかいなかったが、その時だけ異様に静まり返った。

「ん?お前昨日食っただろ?」

「え、あの肉?」

 昨日便利系の魔法を披露する際に調理した肉があった。白く脂身の少ない兎肉っぽいやつがコーネノだったらしい。なるほど、モンスタークラスが食料か。普通の動物は居ないのだろうか、それともこっちの方が美味しいとかそんな理由だろうか。

「あいつらの脚は速いが、昨日のあれを見る限り大丈夫だろ」

 オッサンは俺の飛行魔法の事を言っている。俺の知っているウサギと同じ速さなら問題は無い。

「ま、副依頼だからやん無くてもいいけどね。ホントにお好きにどうぞってやつよ」

軽い口調でメイラが言った。

「へー…じゃあそれでいい」

「よしきた!ポーチ用意してやんな」

「見た感じ手ぶらだったし、もう手元に置いてるわ。はいどうぞ」

 手渡されたのは使い古された様なポーチ、だが破れてはない。メイラさんはまた書類を手に取って何かを書いている。さあ行こうと思った矢先、ヴィザーが話しかけてきた。

「じゃあ門まで同行してやろうか?道もうろだもんな」

確かにこの街に来たばかりで道もろくに覚えてない。普通なら簡単な道案内も必要だろうが、俺には必要の無いない事だった。

「ああ、嬉しいけど必要ないよ、昨日見せてない便利系の魔法があるんだ」

メイラさんは少し目を見開いて片眉を上げた。オッサンも同じような反応だったがどことなくワクワクソワソワしているように見えた。昨日もあれこれ紹介している時かなり楽しんでいるうだった。

「んじゃ、行ってくる」

簡単な会釈をしてその魔法を使う。二人を風が優しく撫でた時、俺の姿はもう目の前には無かった。

「…こいつ、瞬間移動もできるのか!?」

 その通りだ、ほんと魔法って便利だよね。俺が持ってる三つの魔法はどれも大元となる『原核魔法』と呼ばれる魔法で、応用がいくらでも効く。我ながらぶっ壊れな魔法だと思う。そして今のは『転身(てんしん)』。よくある「行った事のある場所に即座にワープできる」ってやつさ。意外と細かく場所を設定できるからなかなか重宝している。

 森に踏み入り、草木を掻き分け薬草を探す。さっきポーチの中を確認したら布が入っていた、そこには簡単な絵と薬草の名前があった。小さな子供でも分かるように大きめにね。

「これか?」

 その植物は(ゼンマイ)に広葉がついた見た目で、名を「ガーリック」俺の知ってるガーリック(にんにく)と全然違う、そこが異世界の面白い所でもあるがややこしい所でもある。これは木の根本に群生すると書いてあり、飲み薬によく使われるようだ。

 他にも、塗り薬によく使われると書いてある、茂みの中心に生えやすい片喰(カタバミ)に似た薬草「ソルエ」。調合次第で大病にも効く、樹木に寄生して育つ花しかない薬草「ビター」がある。収集量の目安はポーチの内にラインがあり、そのちょっと上に「ここまで!」と書いてあった。内容量の大体八割の場所にラインは引かれていて、文字の字体は丸くて少し可愛らしかった。なんて思ってたら規定量集まっていた、ものの一時間ほどで終わってしまった。

「ポーチ結構小さいもんな、薬草も気をつけりゃ結構見つかるし」

 薬草は結構な確率で群生しているから、見つけたら隣にも、その隣にも、と続いてたりする。まるで一度見つけたらキリがない「G」のよう…あーもう考えないでおこう。

「あ、そういえばコーネノってやつの捕獲があったな」

 薬草採取がメインではあったが、副依頼としてコーネノと言うモンスターの捕獲が設けられていた。ずっと足元を見ていたせいでモンスターも見かけてないし、面として遭遇もしてない。やっぱり奥の方に行かないとモンスターは多くいないのかもしれない。薬草だけでは手持ち無沙汰のもあり、自ずと捕獲に乗り出した。

とりあえず歩いてそれっぽいのを探してみる。俺はコーネノを大きめのウサギっぽいやつだと踏んでいるが、実際どうなのかは分からない。完全に手探り状態だ。それからあちらこちらと見渡しながら歩き、また木に登らないと方角が分からなくなった。ただ分かるのは、俺知らない場所に来たと言うこと。

念のため開けた道は避け、先に見つかる事はなるべく無くそうとした。少し窮屈に思うが仕方がないだろう。隠れながら進んで行くと、珍しく日の差す草のよく生えた場所があった。そこにある草は今までの固そうなものではなく、弱い風に吹かれてなびくようなものだった。その茂みはどうやら当たりだったらしく、草を食む音が微かに聞こえて来る。

「あ、あそこか?」

 ゆっくりと音を立てずに近づく、まだ気配を察知されないようでまだ食べ続けている。俺は姿を見るためにゆっくり茂みを掻いて覗き見た。

(やっぱりウサギみたいだなー)

 ゆっくりと見えてきたのは草に紛れる黄緑の毛、丸い尻尾に、比較的短い耳、よく知るウサギより体躯は一回り大きいが耳は小さい。人の掴みやすいようにはなっていなか。パッとコーネノが食べるのをやめた、視線を感じてなのか一瞬止まり、丸い体をさらに丸くし振り返った。俺に見せた顔はウサギとほぼ同じだったが、目は小さく瞳孔は猫のよう、黒目にあたる部分は赤かった。沈黙の後、ダッとコーネノは一瞬にして逃げた。

「え、速っ!」

 もう点に見えてしまっているほど距離を離されてしまった。この世界で最初に使った風魔法である、飛翔の魔法『(とび)』。これを使いコーネノを追いかける。やろうと思えば最高時速130kmくらい出せるが、今は木々もあって危険なため時速50㌔くらいで飛ぶ様にしている。車並のスピードであるはずなのにちっとも追いつけそうもない。

(あのさー…追いつけてなくね?むしろ少しずつ離されてる気がする)

 時速50㌔以上で逃げるウサギってなんだと思いつつ、他に方法を考える。もっとスピードを出すか、それとも。

(これにすっか)

俺は追いつけなくてもいい、コーネノの足が止まればいいだけだ。手のひらに、いくつか明るく透明な緑色の種を持ち、それを力強く地面へと投げ込む。

「行ってこい!」

 種と同じ大きさに地面に穴が開き、それ以外は何も起きなかった。だが後は簡単な仕事だ、奴を追い、()()()()()()()()()()()()だけだ。奴も気づいた、俺との距離が一定になっている事を。不思議そうに何度か振り返る。捕まえられるという言葉が奴の頭から離れるにつれ、奴の逃げる速度も遅くなる。それにつられて俺の追う速度も遅くなる。そして遂にコーネノは足を止めた。コーネノは尻を向け、横目で俺を見ている。俺は距離を保ったまま木の枝に立っている。()()()は、完全に気を抜いた時。暫く見つめ合った後に、ゆっくりとコーネノが動き出し、俺を見る事をやめて再び草を食べだした。

「意外と安い警戒心だな。()()()()、『(がら)み』」

 俺の合図と共に地面からツルが伸びる。無警戒になったコーネノは反応が遅れ、逃げようとする前に即座に捕らえた。足は地面から離れ、彼の目には俺は逆さまに映っている。wその顔からは驚きと戸惑いが見て取れる。この力、風の魔石の風魔法と言われはするが、実際の所自然の力も秘めている。言っても風が元になっているので擬似的に植物の形を作り出すに過ぎない。あのツルもよく見たら向こうが透けて見える。俺は木を降りコーネノに近づき、話しかけた。

「君らには悪いけど、俺らが生きるためだ」

 俺は彼の首に巻いたツルを一気に締め上げ首を折った、少なくとも苦しくないように。どの世界でも同じように狩ってきたから罪悪感は薄いけど、彼らのお陰で生きれる感謝は忘れない。俺らはこいつらがいなければ命は続かないから。

「帰るか」

 『絡み』を解きコーネノを抱えた。再び『転身』でマニラウへ帰るが、どこがいいだろう。瞬間移動みたいなものだから突然現れても驚かせるだろうし、そう考えて近くの路地にする事にした。丁度目をやっただけの場所だったが、それが役に立った。ポーチをぶら下げコーネノを抱いて、だが道ゆく人の目はあまり向かなかった。やっぱりこれが日常だと浸透しているのだろう。集会所に着き閉じたドアを押し開けると、オッサンとその友人が会話をしていた。

「お前の末弟子、どんくらい時間かかると思う?こっから歩きで片道一時間以上、慣れてなきゃ薬草採取でも数時間かかったりする。しかもあの渡したポーチ少しでかい奴だろ?目利きじゃねぇと夜に帰ってくるぜ」

「あーあーそんな心配いらねぇさ、あいつは慣れてる目利きだ、日が出てる内に帰って来るさ」

「はぁ、お前が言うと信用ならねぇな…ああそれはさておき、お前の()()()()が『ディザント』で快進撃中だとよ」

「そうか、もう二十年経ったのか…」

「お前はどうする?二回目は」

「やめておく、そこは弟子らに譲るさ」

「末弟子のあいつも、もう少し時期が早けりゃ可能性はあったかもな」

 聞こえているぞとは言いづらい雰囲気の会話だった。少し耳がいい故に聞こえて来た会話だった。空気を読み知らないふりして今きた様な雰囲気で近づいて行った。すると、気づいたオッサンが椅子を跳ね飛ばして立ち上がった。

「おう!早かったな!やっぱ見込んだ男は早いねぇ!」

「まじか、コーネノまで連れ帰ったか…速過ぎやしねぇか?」

 確か目利きじゃなければ数時間とか言ってたよな。だとしたら約一時間で採集と狩猟をこなした俺はどんな評価になるのやら。やっぱりこの世界に来てから驚かれてばかりだと思う。

「早いも何もクエスト外の往復零分だからな!おーいメイラー!帰ってきたぞー!」

 オッサンに背を押されてカウンターまで来た。オッサンの声を聞き、ドタバタとうるさい奥の部屋から声が近づいて来た。

「えぇ!早くないです?瞬間移動使えるからって流石にっ…ほんとだ」

 一瞬目が棒になった気がするが、ともあれクエストの報酬金を受け取る。薬草採取の場合その種と重量に比例して多くなる。またコーネノ一体につき銅貨10枚の加算があり、今回のクエストで得た報酬は銅貨32枚となった。この世界の通貨を円換算すると銅貨一枚100円で、この世界の単位だと320ユーロになる。奇しくもヨーロッパの通貨と同じ単位だ。それで、銅貨は十円玉みたいなものか?円じゃなくてユーロだけど。

「初めてにしちゃ上々だぜ、頑張ったな!」

 オッサンが褒めてくれたが、別に特段頑張ったわけでも…ま、嬉しいに変わりはないか。この世界で早めに収入源を確立できたのは幸先がいい。等級が上がれば報酬も増えるだろうし、まずは家を一つ買えて、一人で暮らせるようになるまでは稼げるようになりたいと思った。

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