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第14話 光の獣

 数分前のウノン・カピトVIP席にて。俺とジラフがくつろいで待っていると、決勝戦を終えた二人が帰ってきた。扉が開くやいなや、メルが吐き出す様に言った。

「あーあ負けちゃったー、やっぱり勝つのは無理だってー」

 仰向けで床に倒れ込み、ポヨンと跳ねた彼女はそれっきり動かなかった。それを見たジラフは、なけなしの励ましの言葉を言った。

「そいつは基礎値が異常なんだ、君でも無理なら誰が勝てる」

 メルは倒れたまま頬を膨らませた。一方スピットは一人でキョロキョロ部屋を見渡していた。あと1人ここにいない事に気がついたみたいで尋ねて来た。

「あれ?ブルーどこ行った?誰か知らね?」

「あいつなら野暮用だって出ていったぞ?」

 俺が答えた、アイツは試合が終わった途端にどこかへ行ってしまったのだった。これもいつもの事だ、だから俺もジラフも後を追ってはいなかった。

「なんか珍しいね、あの人が何かするのって」

 メルはまだ起き上がらずに話した。言われてみれば、何も言わずにいなくなる事はあっても、何か一言残して行ったのは今回が初めてだった。そこに若干の違和感を感じつつも、その時は気にしなかった。

「そう言えばさ、あいつのプライベート全く知らないんじゃね?俺たち」

 そのスピットの言葉に皆が頷いた。ジラフが何か言おうとしたその時、丁度耳に放送の声が耳に飛び込んで来た。

『ただいま、試合にて第三位の成績を残した英雄ターラ・ブルーニー様が、エキシビションの申し出を致しました』

 呆気に取られた。皆がその場で声の聞こえた吹き抜け窓に顔を向けた。ターラが何をしようとしてるかと思えばエキシビション、しかも相手はかなり格下の三等英雄。皆が何をしたいんだと頭を抱えている。すると、サッとメルが素早く立ち上がり、真っ先に窓に飛びついた。残された俺達は顔を見合わせ、それを追って窓を覗いた。既に闘技台の上にターラはいた。少しだけ見える仮面の穴から覗く目は観客場を見ていた。

「おいまさか…」

 俺の呟きに皆が反応を見せた。思い出したのだろう、あの森で見つけたモンスターの変死体とターラの言った犯人の像を。

 彼はすぐに台上に現れた。ただ睨み合う二人。見ると確かにその男はターラの言っていた特徴に当てはまっている。身長も歳もリーダーと同じくらいで、ターラより頭一個ほど小さい。やっぱりまだ子供だった。

「意外と顔は中性的だな…」

「確かに、でもどう見ても男だぞ」

「ねぇ言ってる場合?」

 自分も会話に参加しておいてなんだが、やはりこのパーティには緊張感ってのが薄い気がする。もっと禍々しい人が出てくるのかと思っていたから流石に拍子抜けだったのだ。だが和んだのは空気だけで、彼らを見る目は未だ鋭い。


 ターラは一瞬仲間達の方を見てまた俺に話しかけてきた。

「なぜ、易々と前に出てきたのだ」

「俺は全然気づいてなかったけど、コイツうるさくて」

 俺の中に棲んでるこの獣はいつでも俺に話しかけて来る。しかも、奴の考えてる事は分からないが俺の考えている事は筒抜けだ。いつも黙ってる癖にこう言う場面でだけうるさくなる。

「その獣をコイツとは、名は無いのか?」

「今は無い、名付ける理由も無いし」

 これを聞いてターラは黙った。小さく笑う声が聞こえてくると、彼は心躍らせたように口を開く。

「そうか。如何にしろ、早く会ってみたいものだ」

 言い終わりと同時にギラついた剣を背からゆっくりと抜く。俺は下ろした剣を見据え、彼の仮面の暗い眼窩を見る。微かに穴から見えたその輝く赤い目は、身に着けている仮面に相応しい血に飢えた狼だった。

『エキシビション。東に立つは『死面(しめん)』ターラ・ブルーニー!西に立つはヒカル!それでは始め』

 開始の合図の直後、瞬きさえ出来ない時間に襲ってきたのは十を超える斬撃だった。有りもしない閃光が見え、耳が一瞬くぐもり金切り音と共に彼方後ろへ飛ばされた。しかし同時に()()を施し、自らの光球も無事だった。

「こうなるか…お前の魔法、意外に便利だな」

 俺の魔法があの斬撃の悉くを弾いた。最近思いついた水魔法『水廻(みなえ)』、いくつかの水の刃を体の周りに発生させる。何もしなければ体の周りをグルグル回り続けるだけだが、故意に操るか、何か脅威が迫れば攻守に転じる。まさか俺が認識してない物まで働くとは思っていなかった。

「マジで、これは見えるわけ…」

 遠くでターラの体勢が前に傾いた、同時に目の前で火花が散る。水廻とターラの刃がギリギリと交差している光景だけが目に入る。飛び散る火花によって仮面の眼窩に刺した光は、冷たい目を写した。互いの刃が絶え間なく火花を放ち出す。意識をしていないとすぐに水廻は崩される、自動反応との兼ね合いでやっと防ぐ事ができる為に、気を抜く事は許されない。逆にターラは散歩をしているような足取りで下がっていく俺に間合いを合わせている。剣を振るうのは腕と、少しのみ揺れる上半身だった。つまり本気を出していない、言った通りの小手調だ。

「いい目だな、並の一等英雄でもこの程度で捌けないはずなんだ。使っているのが魔法とは言え、お前の目も十分に追っているように見える」

 ターラが剣を真上に振り上げたと思った刹那、袈裟斬りの鎌鼬(かまいたち)と共に水廻は失われた。

「だが守るだけじゃないか、反撃する術はあるのか?」

 剣を持つ手を下げ一瞬動きが止まった、気づけば俺の光球に剣先が飛んで来ている。考えている暇は無い、回避しようにもここは台の隅、初手で飛ばされた時から不利は変わらず、水廻を作ろうにも瞬時に消され、反撃も隙もあった物じゃなかった。

 一時凌ぎで『風刃』『爪風刃』、手に纏わせた『水刃』も使った。だが全て圧倒的な火力とスピードの前に成す術なく散って行った。しかもこの水刃の場合、かき消される時に根本を断たれている、試合じゃなければ手首が飛んでいる所だ。運良く試合の仕様に助けられてはいるが、この時は防ぐ以外何も考える事が出来ていなかった。いつしか発生していた魔法も全て消えており、気づいた時には既に刃は両面の光球を捉えようとしていた。迫る剣は鈍く見え、誰もが決着だと思った。しかし誰もがその瞬間を見逃した。

「わざと一人でやらせていたが、これでは持たぬな」

 ターラの背後で声がした。その声は低く、今まで目の前にいた男の声とは全くと言っていい程差異があった。ターラが振り向くとさっきと変わらない俺がいる。だが目だけが異なっていた。それは瞳孔の細い獣の眼、全てを悟ったかのような神にでもなったかの様な風貌だった。

「見えないのはいつぶりだろうな。気配も全く感じない。さっきも今もだ、不思議なものだな」

 そう言って再び姿勢を低くし構えをとったターラに対し、俺の体でコイツが話し出す。

「道理だ、精神と肉体を持つ全ての生物は、完全な物質体と精神体は観測できない。私も此奴の体を借りているだけだ、聴こえているのは私が発させているだけの光の言葉だ」

 ターラはコイツが話す間、適宜攻撃していた。だが掠る事もなければ、その動きを捉えられてもいない。一瞬光に包まれると、気づけばコイツは剣の真横でのうのうとしている。

「確か、此奴はこの魔法を『雷光(らいこう)』と一度呼んでいたな。文字の通りだ、人に光は捉えられまいよ」

 ターラは体を斜に構えたまま舌打ちをして力が抜けるように剣を下げた。

「お前には私の言葉が届いていたな、その目のおかげか。しかしこのルールでは()()だな、またの機会にしよう」

 ふと俺に主導権が戻って来た。一瞬虚を見つめ瞳を閉じる。変わった直後でまだ意識も体の操作もおぼつかない。ターラは()()と分かりつつも中距離の所にいる俺の光球に斬りかかった。

『さぁ、お前がやれ』

 ゼロまで近づいたところで目が開いた、直後バキッと大きな音を発しターラが後方へ吹っ飛びずり下がっていった。

「…な、なんだ!ターラが飛ばされた!?」

 観戦場の何人かが叫び、場は一気にどよめいた。だが、そんな今までにない空気はゆっくりと歓声に変わっていった。俺は崩れた体勢を戻しつつもターラに目を向け、警戒は解かない。

「間に合った…」

 俺の言葉を聞いて、伏したターラはゆっくりと起き上がりながら言う。

「魔素で構成された鎧とは言え私の鎧を元にしたもの、それにヒビを入れるとは大した事だな」

(しっかりと光球を狙って来たか。だが入れ替わりの直後、的を外したな)

 ターラは気をひきしめ油断せぬようにと、どっしりとした調子で構え直した。彼の鎧を見てみると、爪痕を中心に割れている。自分の手足を見ると、手には輝く爪が伸びている。ズボンからチラリと見える足には鱗の模様が浮き出ていた。

「コイツの姿か」

 これで勝てと言っているらしい。ターラの方を見れば、再び十を超える斬撃が襲ってきていた。さっきよりも遅く見える。背を丸め、足を滑らせ後ろへ逃れた。斬撃は台に当たり煙を起こした。直後にターラが背後に現れた。

『後ろだ』

 その一太刀は空を切った。ターラが気づけば、再び滑り逃れる俺の姿が見えた。姿勢を変えず向いた方向さえ変えず、ただ目線だけがターラを捉え続けている。その後も幾度でもターラの鋭い剣をぬるりとすり抜けて行き、掠りもしなかった。

「どうなってるんだ!さっきまでスピードもパワーも圧倒していたのに!」

「姿が変わったのが関係してるのか?」

「これがトップの本気か…全く見えねぇ」

 俺だってやっとの事で避けられているだけだった、だがこの耳は観客の言葉もよく拾っていた。そして斜め上からも会話が聞こえてくる。

「ターラ、いつに無く本気だぞ!」

「それほどあのヒカルって奴がやばいって事か」

「だが、私でも目で追えないほどじゃ無い。だが何故当てられないのだ?」

 ターラは俺の動きに適応し始めていた。俺が避けると同時に移動する様になり、いつしか俺よりも先に動いている様になった。俺の軌道は至極単純、たった八方に絞られる。今の俺ではこれ以上精密な動きはできなかったからだ。それでも俺は避け続けられている。刃は振るわれる度徐々に数とスピードを増しているのに。それは何故か。

『左』

『後ろ』

『右前』

 コイツからは常に指示が出されている、俺はそれに従って避けているに過ぎなかった。だが、それでは確実に不利だった。さっきの会話でコイツは言っていた、お前には私の言葉が届いていたなと。コイツの出す指示は確実に彼にも聞こえている。俺のスピードに慣れてきた時、この指示通りの方に剣を飛ばせば当てられる。だから、俺はこの指示に反いた。左へ行き、後ろに下がり、また左へと。この様にしてしまえば相手も調子が狂う。例えどんなに強くとも。だからいつまで経っても攻撃は当たらない。

 それでもターラは俺の真正面に現れた。刃は俺の正面から光球を狙って、下から両方を確実に貫こうとする鋭く素早い突きだった。だが、結果地に伏したのはターラだった。鋼鉄の鎧は落ち埃が舞い、もはや剣先は何も捉えていない。俺は彼の背後で宙を舞い、爪は鋭く狙いを定め、背部の光球へ切りつけた。しかし爪は地を裂いた。彼は指を軸にして回ったのだ、剣を持たない手の中指一本を地に突き刺して。体勢低く見上げる赤い目と、獲物を逃し見開く目と、視線が合った。そんな間も数瞬もなく火花が散り始めた。


「あれが子供の体術か?今何が起こった」

 ジラフが目を丸くして驚愕の色をあらわにした。

「知ってれば見えそうだけど、速くてさー… なんか動いたのは見えたけど、何したのかは…ちょっと…」

 メルは驚きを隠すが、それでも目が泳いでいる。かく言う俺も内心驚いていた。一瞬で形勢がひっくり返ったんだ、鷹の目って呼ばれる事もある俺にも見えないとなると相当な早業だった。

「剣の外側に逃れて、ターラが突き出した剣と腕を台にして転がった。そん時に肩で弾いて自分は浮かび、ターラは落ちたって訳。しかもそれから攻撃に、面白い事するじゃん」

 スピットが解説を入れて来た。さっきの一瞬が奴には見えていた様だ。つくづく化け物だと思ったし、最後の一言を言う顔も不気味だった。


 何度も刃を交えては距離を離し、刃が一度外れれば互いに技を仕掛け合う。観客にはそれがほとんど見えていない様だ。見えるのは精々残像か、落ちる前の火花くらい。すると、ターラが口を開いた。

「私は、お前の全力が知りたい」

 ガギンと鉄の割れる音が響き、そこでやっと動きが止まった。地に突き刺さった歪な剣が俺の爪を止めていた。そこでやっと気が付いた、俺の爪はいつしか刃こぼれの如くボロボロになっていた。そして彼の剣もボロボロで、今の一撃でヒビが入っていた。それでも彼は意に介さず話を始めた。

「なぜ驕る。なぜその力しか使わない。水も風もあるだろうに」

「そうじゃない、こうなるとこれしか使えないんだ」

「そうか、実力の問題か。私は、未だ技の一つも使っていないぞ」

 その腕に込めた力は強いが、話し声はなんだか優しいものだった。軋む両者の剣と爪にはもう力は無く、互いにそこに置いているだけの様だった。

「もう互いに小手調べは終わりだ」

 そう言うと、ターラは剣を引き抜き俺に背を向け歩き出した。俺は姿勢を正しそれを見つめた。

「全力をもって戦え、でなければ意味はない」

 ターラはゆっくりと向き直り、同時に剣を真横に払う。その刀身をギラつかせる様に構え、その姿は凛々しく、また恐ろしいものだった。それはどこかで見た事があった、ケシュタルの水晶で見たあの構えだった。戦いの合間の静かな時間に、俺の耳がまた声を拾う。

「やっと『一閃(いっせん)』を使うのか、相手が相手だし()()()()見れそうだね」

「結果は予想できんが、どうなれどすぐに終わりそうだな」

 その言葉の通り、ここからの展開は早かった。二匹の獣には、決着をつけるのにもう言葉は必要なかった。

 刹那も与えぬ間にターラが詰め寄る。それは俺の目には映らなかった。飛来する刃は真空波を生み、一太刀が三太刀にも四太刀にもなる。しかし狙いは光球だ、それだけは変わらない。故に防ぎやすい。直後観客に突然轟音が襲い掛かる。耳を貫き、脳を揺らし、体の芯まで響く轟音。無事だった一握りの者もとてつもない物を見た。のけぞるターラと、のけぞらずその場にとどまる俺とを。

「ターラが…」

「最初の水魔法だ!…でも、もう一つ」

「『風』だ」

 真空波は水では防ぐ事は叶わない。風に有効とされる魔法も持っていない。なら同じ風をぶつける他ない。体勢を立て直したターラは瞬時に構える、そして俺の周りを回るそれを見た。水魔法『水廻(みなえ)』、風魔法『風刃(ふうじん)』の混合。嵐魔法『薙廻(なぎえ)』。

(あの発言は嘘だったのか。いや違うな、獣の力を落とした、だから幾分か余裕が生まれたのか)

『水廻』と見た目はさほど変わりはしない、だが速度も威力も上がっている。俗に言う上位互換だ。小さな力でより良い活用をした、難しいがこれで良い。それも介さず再びターラは剣を振るった。その威力、範囲共に先程の比ではなかった。

「本気だ!」

「どうなってんだ!?」

 ついに戦場は拡大された。平面で戦って来たが、ターラの戦闘法がより実戦指向になった為に、立体的な動きが加わった。一閃と言うその技の合間に少しだけ溜めはあるが、真空波もあり実質隙はほぼ無い状態。だがこちらとて反撃の手段が無いわけじゃなかった、攻めて攻められの攻防が繰り返していたのだった。しかし互いに光球には擦りもしなかった。

 互いが領域の壁を蹴って追い逃げる。切り返し反撃するか、ブラフを使うか又は逃げるか。一度でも防御を解いたら互いに当たる。この時には勝ち負けよりもプライドが勝っていただろう。故に互いが互いの隙を作り出そうと、またその瞬間を待っている。

「…あ、ターラが追いついてきた」

 もう何十と攻防を繰り返した。もちろんどちらも体力は無限にある訳じゃない。鍛えているからこその持久力だった。そして、その差が徐々に明白になって来ていた。

 ターラの攻撃を捌けなくなって来た。俺に疲れが現れた為だ、いずれ押し切られ負けてしまう。マイナスな考えを抱えているとそれは表情に現れ、ターラは戦いを一瞬()()()俺に切り上げを放った。弾くこともいなす事も出来ず、魔法の消失と共に空中へ放り投げられた。一瞬止まったターラの動きでやりたい事は嫌でも分かる。そんな時、灼熱の壁が両者を遮った。

(火か…やっぱり隠してたか)

 俺が火を拡散させる様に放った、それぞれの炎はターラに向かって迫って行く。さっきの会話、そこで彼は水と風しか言葉に出していなかった。火を使う所は見ていないし、知らないのだろう。ならばそれでいきなり攻撃すれば当たるかも知れないと、半ば博打で放った。だがターラの心に驚きも揺れも無い、微塵の躊躇もなく飛び込んでいった。そして一太刀振るうだけで真空波が炎をかき消し、小さく無力な火と、煙だけが残った。ターラの突き抜けた先に待ち受けていたのは、体を捻り、輝く爪は長く鋭く伸びた俺の姿だった。既に振りかぶられていた攻撃に彼は成す術なく、空中と言う回避不可な状態でただ目を丸くしているだけだった。

「『一心(いっしん)』」

 その瞬間を誰もが見た、ターラ・ブルーニーが唐竹割りに両断されるのを、強く台に叩きつけられ台には亀裂が走るのを。更にそこから巻き上がる煙は皆の視野を奪った。

『あぁ…』

 司会方が声を漏らす。徐々に視界が晴れる中、それはついに訪れた。

『ターラ・ブルーニー選手の光球がどちらも破壊されました。勝者、ヒカル!』

 声を聞き、耳が詰まるほどの歓声が起こった。誰もが心を躍らせ、新たな強者に期待を抱いた。だがターラには歓声が聞こえていなかった、それ程に困惑していたのだ。彼は最後の一瞬を思い浮かべていた。

(・・・)

(確かに…()()()()()()()。確かに剣を挟み込んでいた筈だ、防御は出来ていた。…だが…剣にも鎧にも攻防で出来たヒビ以外の傷は無い。光球だけが壊れた)


「防御貫通ぅ〜!?何あの技ぁ!」

 いきなりメルが叫んだ、皆が密集していたから耳がキンとして痛くなった。

「斬った角度と防御の方向…どう考えても防げていた筈だ」

 ジラフがメルの言葉を信じず、分析をするもそうとしか考えられなくなった様だった。俺は最後の一閃が見えていた。振りかぶった時点でターラから見えていなかった、切り始めた所でターラにも見えた。しかし攻撃の間に合う距離じゃなかったから防御をした。しかし光球は両面どちらも壊れたと。しかも剣にも鎧にもダメージ無し、攻撃する物を指定出来るのだろうか。

「…スピット?」

 ふとスピットの()()に気づいた。俺の声にスピットに皆の目が移る。スピットは背を丸め座っていたが立ち上がり、その横顔はいつかの顔と同じだった。それに皆は気圧された。

「そういう事ねー…フフッ、()()()()()()

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